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おまけ 3の4
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先程あった一連の流れでとっくに体も心も萎えていたので、俺達は一先ず簡単にではあるが手近にあった布で体の汚れを拭い、服を着直すことにした。そしてベッドの上にお互い向かい合って座る。時刻はとうに深夜を過ぎ、薄明も間近という頃。外では一日の始まりを控え、森の木々も小鳥達もザワついていた。
それとは打って変わって室内。俺とロランとの間の空気は気まずく沈み込み、2人とも黙りこくっていた。いや、だってそうだろ。今から思い返せば俺のとった行動って、かなり……いや、相当頭おかしいやつじゃん。ロランが心変わりしたからって、普通襲うか? まずは話し合いが先じゃね? いや、何の後にも襲ったりするのはなしなんだけどさ。
挙句、いい年こいて真っ裸で感情のままに泣き出したりなんかして。いやー、ないわー、本当にないわー。自分のとった頭のおかしい行動に、反省し切りである。
だが、今はそんな内省をしている場合ではない。兎にも角にも、ロランと話し合いをしなくては。
「あー、えっと、ロラン。先ずはいきなり襲ってごめんなさい。思い返すと我ながらかなり気の狂った行動だったと反省してます」
「いや、私の方こそ悪かった。一瞬でもマルセルの心を疑うなんて。マルセルが私以外の誰かを好きになるなんて、そんなことあるわけないのにな」
それはその通りなんだけど、ロランが言い切るのか。まあ、別にいいんだけどさ。そう言い切ったロランの目がちょっと怖い気がするのは、気の所為ということにしておこう。というか、ここまで信頼されると、益々自分がロランの心変わりを疑った愚かしさが浮き彫りになるな。あー、胸が痛い。
「まあ、お互い相手への謝罪等は今は置いておくとして。どうしてマルセルはいきなり私のことを襲ったのか聞いてもいいか? まあ、十中八九セヴランと私の話を聞いて、何か変な方に勘違いして、それが原因なのだろうということは分かるんだが」
「勘違い?」
「私が王都に行こうとしている話、聞いたんだろう? それも、変な勘違いしているところから察するに、中途半端に。先に言っておくが、私が王都に行こうとしたことは確かだが、マルセルも帯同しようとしていたからな。マルセルと不必要に離れるなんて、私が耐えられない」
「えっ、でも、俺には秘密だって話してた」
「成程、勘違いはそこからか。だんだん分かってきたぞ。マルセルに秘密にするというのは『王都に行く理由』のことだ。『王都に行くこと』自体ではない。ある日突然何も言わずに私が居なくなったら、マルセルがビックリして悲しむじゃないか。そんな騙し討ちのような酷い事はしない」
んん? どういうこと? 俺とロランが王都に一緒に行く? でもその訳は秘密? 訳が分からない。えっと、つまり、うん?
全く理解が及ばず、ひたすら深まっていく困惑が顔に出ていたのだろう。そんな俺の様子を見て、ロランが言葉を続けた。
「事の発端はあの引っ掻き回し野郎のセヴランだ。ほら、セヴランは王宮に務める近衛兵だろう? あれで結構優秀なあいつは、ジョゼット第2王女の専属担当になったらしくてな」
ジョゼット第2王女といえば、他の王子や王女よりも遅くに生まれ、幼姫が可愛くてたまらない王族一同に蝶よ花よとそれはそれは大切に可愛がられて育ったと噂の姫だ。ただ、周囲に可愛がられたからといって、決して無闇矢鱈と甘やかされていた訳ではない。
趣味は読書で学者も驚く程難しい書物を難なく解し、微笑めば同性も頬を赤らめる様な愛らしさで、慈善活動に熱心で困っている人々に躊躇い無く手を差し伸べる心の純粋さを持ち合わせているである。それは市井のみならず近隣諸国まで広く知れ渡った事実だ。数年前南の穀倉地帯が近年稀に見る大旱魃に襲われた時、幼いながらも王に直接直訴して飢えた民のために国庫を開かせたのは記憶に新しい。内面外面共に美しいジョゼット姫は、王室メンバーの中でも1、2を争う人気っぷりだ。近衛兵の中でも相当陛下の信頼が厚くなければ彼女の担当の近衛兵になんてなれっこないだろう。
「へえ。セヴランさん、凄いじゃないか。あの若さで相当の出世頭だね」
「そうだろう? 周囲の期待に応えるべく、あいつも張り切って仕事に励んでいたらしい。が、少し励みすぎたんだろうな」
「まさか、周囲からの嫉妬で……? それとも、気負い過ぎて精神が疲れちゃったり」
「事態はもっと深刻だ」
えっ、虐めとか精神を病むより酷いことって? なんだろう、想像がつかない。息を飲む俺に、深刻な表情をしたロランが重々しく口を開く。
「端的に言おう。ジョゼット第2王女がな……セヴランに惚れてしまったんだよ」
「へ?」
「考えてみろ。ジョゼット第2王女は今年で花も恥じらう17歳。そうでなくとも夢見がちな年頃なのに、毎日傍で命を守ってくれる見目良い紳士的な年上の男なんて近づけてみろ。まあ、惚れるよな」
「それって、かなりまずいんじゃ……」
一国の姫が一介の臣下に惚れるなんて、大問題じゃないか。セヴランさんが信頼されて姫の近衛を任された立場なのなら、尚更。例えセヴランさんになんの落ち度がなくとも、立場が上の姫に惚れられたら、それだけで一発アウト。嫁入り前の姫を誑かした不届き者として斬首間違いなしである。
「それで、セヴランさんはジョゼット姫や王族から逃れるべく、ロランを頼って王都から逃げてきたわけ?」
「ことはそんなに簡単じゃない。なんと、毎日近くで美しく魅力的な姫を見ているうちに、セヴランもジョゼット姫に惚れてしまったらしくてな」
「うわーお。なんてこったい」
なんじゃそりゃ。事態が面白い程どんどん悪い方に進んでいくな。ん? 待て待て、それでどうしてセヴランさんが1人でここに居ることになるんだ? 好きあった姫と手に手を取って駆け落ち、なんて話ならまだ理解できるんだけど。そんな俺の疑問を的確に見抜いたロランが、答えをくれる。
「王家の信頼を裏切ってしまったという思い、身分の差、年の差もある。それなのに、ジョゼット姫は自分を選んでくれた。セヴランは絶望と喜びが錯綜し混乱する頭で『未来ある姫に自分の様なただの近衛兵は相応しくない』咄嗟にそれだけを思いついて、取るものも取らず俺のところまで逃げてきたらしい。勿論、家族や友人親しい人間全員に内緒で」
「えーっと、ロラン。それ俺に話してよかったの?」
「セヴランにはできるだけ内密にと言われていたが、このままマルセルに誤解され嫌われるくらいなら私はあいつの言うことなんて無視する」
「それはそれでどうなの」
「私はセヴランよりもマルセルの方が大事だ」
胸を張るロラン。いっそ清々しいな、おい。ここまでキッパリ言い切ってくれるロランの気持ちを一瞬でも疑った俺がいかに馬鹿だったのかが分かるってものだ。
「下手に隠し立てをしていたせいでマルセルには余計な心配をさせてしまった。すまないな。どうせ直ぐ分かる事だから、その時説明しようと思っていたんだ」
「直ぐに分かるって……」
「セヴランがここに来たその日のうちに、王都から魔法の電信で連絡が来てな。『こちらはいくらでも待つから、貴殿の方からセヴランが覚悟を決められるよう手助けをしてやってくれ』と、そういったうむのメッセージが届いたんだ。要は陛下も他の王族の方々も、とっくの昔に全員が末姫とセヴランの恋愛感情に気がついていて、暖かく見守り歓迎していたみたいなんだよ。それだというのにセヴランの奴が尻尾を巻いて逃げ出してしまったものだから、一気に話がややこしいことになったわけだ。しかも、あいつ意気地が無いもんだから、私がいくら王都に戻るように説得しても聞きやしない! お陰で私はマルセルとの大切な時間が減るわ、要らぬ誤解をさせてしまうわで、いい迷惑だ!」
そう言って眦を決して毛を逆立てるロラン。でも、そうやって文句を言いつつもちゃんとセヴランさんの相談に乗り、思い合う者同士が結ばれるよう一生懸命働きかけるところが真面目なんだよなあ。本当、ロランてば他人思いのいい人だ。
「何があったのか無理がない程度に聞き出してセヴランの気持ちを確かめ、相談に乗る体で王都に戻るよう何度も言ったのに、あいつ、煮え切らない態度でいつまでも決断しようとしない! 一応滞在期間は『鶏小屋ができるまで』と期限を切ったものの、セヴランの奴、王都に帰るどころかこのまま国外逃亡しようかと画策する始末。なんとかかんとかなだめすかして国外逃亡は思いとどまらせたが、いつまで経ってもこの屋敷から動こうとする気配がない。だから『私も着いて行って執り成すから、王都に戻ろう』と半ば強引に約束させたんだ。セヴランはジョゼット姫が自分の様な人間に惚れたなんてスキャンダラスなこと、例え私の恋人であるマルセルにだろうと知られるわけにいかないから私と2人切りで行くつもりだったらしいが、そうはいくもんか。私は最初から何がなんでも理由をつけてマルセルを連れていく気だったさ。例え女神様にだろうと私とマルセルの仲は引き裂かせないってのに、セヴラン程度にやられてたまるかという話だ! 当然、連れていくからにはマルセルには最終的には全てを話すつもりだった。ただ、その話すタイミングを伺っている内に、こんなことに」
「はあ、そういう事ね」
生真面目なロランのことだから、セヴランさんとの約束を全部破りまくるのはちょっと抵抗があって、ある程度までは守ってやろうと頑張ったのだろう。ロラン、変な風に律儀なところがあるんだよな。あ、これは悪口じゃないよ。念の為。ただ、ちょっと実直さがおかしな方に走り出しているところはあると思う。別にそこが欠点という訳ではないんだけどね。
「それで、マルセルの方はどうなんだ? 私とセヴランの話を半端に聞いて勘違いをしたことまでは分かったが、それでどうして私のことを襲おうと?」
「うっ、それは……」
「マルセル、無理にとは言わないが、私はできればマルセルの口から理由を聞かせて欲しい。前にも約束したろう? 『私達の間に隠し事は無しにする』と」
「……ロランだって、セヴランさんのこととか隠し事してた」
「あー、それは……。いずれ話すつもりだったから、大目に見てはくれないだろうか?」
キュッと弱く俺の手を握り、パタリと耳を倒してお願いするロラン。止めてくれ、そんな目で俺を見ないでくれ。上目遣いに健気な様子で琥珀の瞳に見つめられれば、もう俺に勝ち目はない。往生際悪く1度目線を逸らしてから、それでもロランのお願いポーズに根負けして、俺はおずおずと事の次第を掻い摘んで説明した。
「ふむ、成程な。大体のことは分かったぞ」
「ごめんなさい、ロラン。こんなにも俺の事を思ってくれているのに、あなたの気持ちを疑うなんて。本当に、なんて謝罪すればいいのか」
「謝罪だって? とんでもない! そんなものちっとも必要ないさ。いざこざの元のセヴランは私の友人だし、私だって結果的にマルセルとの約束を破って隠し事だってした。元はと言えば全て私が蒔いた種じゃないか。マルセルはそれに巻き込まれただけ。ちっとも気にする事はない。それに、正直言うと私は嬉しいんだ。今回のことで今までにも増してマルセルの私に対する思いの深さを思い知らされた様で、今とても心が浮き立っている! 嫉妬をするなんて、なんと可愛らしい。嫉妬をしたり疑ったりするのは、全ては相手への愛故のこと。自分が思うのと同じだけ相手からも愛されたいと思うからだ。それはつまり心底私のことを好いてくれている証拠じゃないか。心変わりを疑ってもそれで詰るでもなく、私を繋ぎ止めようと体でアピールしてくるなんて、もう堪らない! こんな素敵な焼きもちなら、いくらでも大歓迎だ。さあ、マルセル。もっと妬いてくれ。私はそれを全部受け止めてみせるよ」
「ロ、ロラン……」
握られていた手を引かれ、静かにそっと抱き寄せられる。その手つきは先程のものとは違って、どこまでも優しい。肌触りのいい毛皮に頬を寄せれば、ゆっくりとして落ち着いたロランの鼓動が感じられた。なんだか顔に血が上って、頬が熱くなる。
ど、どうしよう。最近ロランとの触れ合いがめっきり減っていたから、こういう時どうすればいいのかを忘れてしまった。何か言うべきなのか? それとも背中に手を回して抱き返すべき? 両方やるという選択肢もある。駄目だ。全然分からない。
どうするべきかオタオタと俺が狼狽えていると、俺を抱き込んだロランの体が動き、体勢を変えさせられる。何かと思えばそのままゆっくりと背中からベッドに押し倒された。驚いて目を見開くと、目の前には予想外に飢えた目付きのロランの顔が。
「え、ロラン。……するの?」
「マルセルさえ良ければ、したい。折角マルセルが乗り気になってくれたんだ。中途半端に終わらせるのは、あまりにも勿体ないじゃないか。それに、勝手な話で悪いがセヴランが来てからこっち、私はマルセルとの時間が減ってずーっとマルセル不足でな。誤解も解けたことだし、今からは仲直りの時間にしないか?」
そう言って俺の肩口に鼻先を埋め、首筋を下から上へとペロリと舐めるロラン。ブルリと震わせた背筋を、ゆっくりと硬い指先が辿る。擦り付けられた下半身には、ゴリッと音を立てそうな程固くて熱いものが。驚きでハッと息を飲む。
「マルセル。ああ、こうして触れ合うのも何時ぶりだろうか。マルセルの温かさを、香りを、形を、ありありと感じられる。もう、我慢できない」
「あうっ!」
ロランの大きな手が、さっき着込んだばかりの布越しに俺のペニスに触れる。ロランの巧みな指使いで、忽ち俺のペニスは熱を持つ。咄嗟のことに反応できず固まる俺にも構うことなく、ロランは片手で俺のペニスを弄り回し、もう片方の手で脇腹をなぞった。俺の首筋に、愛しげに自分の顔を擦り付けるのも忘れない。柔らかい毛皮の感触が気持ちが良くて、思わず口から変な声が出る。
「んん、ふぅ」
「ふふっ、マルセル、気持ちよさそうだな。そろそろここに、これが欲しくなってきた頃合いじゃないか?」
「ひっ!」
ここという言葉と共にペニスを弄っていた指が移動し服の上から俺のアナルを抉り、これという言葉と共に硬度と質量を増したロランのペニスが押し付けられた。驚きからか期待からか、アナルがキュンッと疼く。
俺が混乱でなにもできずにいるのをいいことに、ロランは俺の服に手をかけ、それが寝やすいよう締め付けがキツくない作りなのをこれ幸いとばかりに下着ごとやんわりと、しかし有無を言わせない強引さで剥ぎ取った。あっという間に上だけ寝間着を着て、下半身は丸出しの間抜けな俺の姿が完成である。だがことはこれでは終わらない。辛抱堪らなくなった様な荒々しい動作で、ロランも自身の寝巻きの下を剥ぎ取る。窮屈な布の締め付けから開放されたロランのペニスがべチンッと俺の太ももに当たって、その存在感に頭がクラクラした。
「ロ、ラン」
「ははっ、見てみろマルセル。お前に煽られて、私はもうガチガチだぞ。お前も、ほら。もう大分張り詰めてきている。さて、後ろの方はどうかな?」
「んぁっ」
言葉と共にロランの指がゆっくりと優しく、しかしはっきりと意志を持った強引さで中に押し入ってくる。予想だにしなかったことに、俺は背を弓なりにしならせ仰け反った。自然とロランの手指に尻を押し付ける形となり、益々ロランの指が中に入りこむ。
「ひっ、あぅ」
「ん、先程も感じたが、少し狭くなっているな。最近構ってやれなかったから、仕方がない。だが、これはじっくり慣らさないとな」
そう言ってじっくりと指を動かし馴染ませた後、本数を増やすロラン。最初はロランの太い指たった1本でもいっぱいいっぱいだと思っていたのに、存外俺の後ろは貪欲に2本目以降のロランの指も飲み込んでいく。
ロランは時間をかけて覚えた俺の感じる場所を、指でくすぐったり引っ掻いたり押し潰したり。宣言の通り、結構ねちっこく刺激してくる。反射で逃れようとする俺の体を傷つけない程度にやんわりと抑え込む念の入りようだ。久しぶりのそこで感じる性感に、見開いた目の端に涙の玉が浮かぶ。ハッハッと浅い息を繰り返す口からは、あられもない喘ぎ声が飛び出し、涎が一筋、ツーッと顎を伝った。
「マルセル、私が不甲斐ないせいで不安にさせて悪かったな。どうか私に、お前に寂しい思いをさせてしまった埋め合わせをさせてくれ。すれ違ってしまった分、たっぷりお互いを感じよう」
「ひっ──!」
言い終わるか終わらないかのうちに指が引き抜かれ、十分に慣らされた後ろにロランのペニスが潜り込む。それは時間をかけて味わうように俺の中へと侵入をする。時折小刻みに揺れながら、躊躇うことなく真っ直ぐと俺の最奥を目指して進んでいった。思わず飲んだ息を吐き出すこともままならないまま、浅い息とも小さな喘ぎともつかない音を喉で鳴らす。
「んっ、すごっ、入って、くる、うぅ」
「ふ、ぅ。ああ、マルセル。小さな尻で精一杯私のものを頬張って、なんて意地らしい。中もうねって絡みつく様だ」
「あっ、あっ、駄目、ぇ、揺すっちゃ、あ」
体を手で掴んで固定され、大きく腰を使って抜き差しされれば、ロランの大きくて硬いペニスが柔らかく敏感な粘膜を満遍なく刺激した。あちこちにあるいいところを擦られる度、甘い性感が体に走る。一突きごとにどんどん体が昂り、感覚が鋭敏になっていく。1つ1つは達するには至らないまでも一瞬意識が白むには十分な小さな性感が、積み重なっていった。
性感を感じる度に腹の筋肉が動き、中にあるロランのペニスをキュウキュウと締付ける。自らが意図しない動きだが、それがまた予想できない性感を拾って堪らない。ロランも気持ちがいいようで、上から熱っぽく溜息を着いたのが聞こえてくる。そうしている間にもロランのペニスは俺の中へと潜り込んでいき、やがてその切っ先が最奥に到達する頃には、俺はもう体中を小さく痙攣させながら、息も絶え絶えになっていた。
「うぅ、ロラン……」
「可愛いマルセル。大切な人、私の全て。お前だけだ。こんなにも夢中にさせるのも、全てを捧げたいと思わせるのも、全部、全部、お前だけ。富、権力、知識、何を差し出されたとしても、全てがお前の魅力の前では等しく無価値だ。例え何があったとしても、私にはお前しかいない。マルセルも私と同じ思いだといいんだが」
「ん、同じ、だよ。ロランは俺の支配者で、神様で、1番なんだ。決して離れたりなんかするもんか。この気持ちが揺らぐことは、未来永劫ありはしない」
「ああ、マルセル……!」
感極まった様子のロランが、止めていた抽挿を再開する。俺はそれをあまんじて受け止めた。激しく揺さぶられ、中を擦りあげられる度に気持ちが良くて、頭のてっぺんから爪先までビリビリと痺れる様だ。
俺が感じる度に中の粘膜も蠢くようで、腰を振りながらロランが気持ちよさそうに喉を鳴らす。俺の腰を掴む腕を下から手を伸ばして辿っていくと、ロランは身を屈めて頭を摺り寄せてくれる。その事がどうしようもなく嬉しい。お気に入りの箇所を啄かれ、視界が瞬く。ロランが歯を食いしばり、俺のペニスからは先走りが溢れた。絶頂が近い。
「ふ、ぅ、ロラ、ン。ロラン、愛して、る」
「ああ、私もだよ、マルセル」
「ふぅ、んんっ、ぁああ!」
「くっ──!」
ドチュンッ、と勢いつけて内側全部擦りあげられる。全身が戦慄き、思考が遠のく。血管の中を血液の代わりに快楽という概念そのものが走っているかの様だ。一気に与えられた過ぎた性感に目を見開き、俺はいとも容易くペニスから白濁をまき散らして果てた。俺がイく時の下半身の筋肉の痙攣でペニスが締め付けられ、それが良かったのかロランもとうとう俺の中に精を吐き出す。ロランのペニスが膨張し、脈打ちながら熱を吐き出すのを、俺は文字通りモロに体で味わったのだった。
なんだ今の。滅茶苦茶凄かった。今でも指先は力が入らず痺れる様だし、腰は勝手に緩く揺れている。なにより最中にロランのこぼしたあの言葉の数々。今ハッキリとしてきた頭で思い返せば、それだけで顔に熱が登る。未だ最後までやったのが2度目とは思えぬ程の、身も心も満ち満ちた交わりだった。
「ハァ、ハァ、ハァ……。ロラン?」
そうして俺が息も整わぬまま情事の甘い余韻に浸って反芻をしていると、大きく開いた足の間で何やらロランが怪しく動く気配がする。何かと思って声をかけ目線を向ければ、そこにはいやらしい手付きで俺の太腿をまさぐるロランの姿が。その目に宿るのは、紛れもない欲望の光。当然の如くロランのペニスはこれ以上ないくらい張り詰めている。
「ロ、ロラン。どうしたの、そんなところ触って?」
「どうしたもこうしたも、続きをしようと思ってな」
「続き?」
「ああ、勿論。折角暫くぶりに深く触れ合うきっかけができたんだ。これくらいで終わりにするわけないだろう?」
「で、でも、明日も仕事とか、色々あるし」
「急ぎの仕事は無いし、なんならお前の分まで私が働くさ。だから、な? いいだろう? それとも、こうして私と触れ合うのは嫌か?」
「……嫌じゃないから困ってる」
恥ずかしさから小さく呟く様に言ったその言葉を、ロランは抜け目なく聞き取ってニヤリとほくそ笑んだ。それはもう、なんか面白くなってきちゃうくらい、ものの見事にニンマリと。そうして話している間も手慰みに俺の体を撫でていた手の動きが、明らかに熱を煽るものになる。
俺は無言で感覚の戻ってきた手を持ち上げ、おずおずとロランの首に腕を搦めた。それに応える様に、ロランの方もゆるりと体を更に近づけてきて、2人の肌が触れ合う。平時よりも少しだけ高いロランの体温を感じ、自分の胸が期待に高鳴るのを感じる。ロランの指が艶めかしく俺の上を動く。その事に堪らなく煽られる自分がいた。最早拒絶の意志など微塵も浮かんでこない。そうして俺はされるがまま、優しいロランの手付きに身を任せウットリと目を閉じるのだった。
そして、翌日。
「で、俺は朝から一体何を見せつけられているんだい?」
片眉を上げ、含み笑いをしながらセヴランさんが問う。精一杯抑えてはいる様だが、今にも吹き出して腹を抱えて大笑いしそうな雰囲気だ。
だが、そうなってしまうのも無理はない。だってそうだろう? なんの前触れもなしに幼馴染が自身の恋人を膝の上に座らせて椅子にどっしり構えていたらそう聞きたくもなるし、膝の上に横座りさせられたその恋人が恥ずかしさで茹で蛸になっていたら面白くなってきてしまうのも道理だ。
もうセヴランさんのその問いかけに俺は羞恥心が爆発しそうになって、無言でロランの膝の上から降りようとするが、腰に回った彼の腕がそれを許してくれない。キッ、とロランの目を睨むが、何処吹く風。手を緩めるどころか、余裕すら感じさせる優しいほほ笑みを向けられてしまった。
「いや、なに。昨晩少しマルセルと話し合ってな。最近セヴランにかまけてばかりで恋人としての触れ合いが減ってしまったのは実に遺憾だと言う結論に至ったんだ。それで、これからはお前が居ようが構うことなく以前の距離感を取り戻そうということになったわけだ」
「え、俺がいない時は普段からそんな風に文字通り心身共に付かず離れずの距離感だったわけ?」
「心はともかく、私達はいい大人だし体は別にそういう訳ではないが、セヴランが来てから今まで逃してしまった2人の時間を取り戻すには、これくらいの距離感がいいと思ったんだ」
そう言って益々俺を抱き寄せるロラン。恥ずかしいので少し離れて欲しいが、赤らんだ顔を見られたくなくて背けるだけで、突っぱねはしない。だって、こんな甘やかされるのなんて久々で純粋に嬉しいし、ロランに触れているだけで嬉しさで体から力が抜けてしまうし。すぐ傍にロランの大きな温もりがあるのは何にも変え難い幸せなことでもある。そして、何より。
「こらこら、マルセル。そんな風に体を捻って顔を逸らしていたら膝から落ちてしまうぞ。いまお前は腰が立たないんだから、危ないことはよしなさい」
「誰の所為だと……っ!」
ロランの囁いた言葉に思わず俯けていた顔をバッと上げて、涙目で抗議する。そうだ、そうなのだ。結局昨晩、ロランはそれはもう嫌ってほど……いや、まあ、嫌じゃなかったんだけど、兎に角沢山俺の体を求め続けた。なんだかんだロランの方も我慢が重なって色々溜まっていたのだろう。まあ、それは俺もだけど。
手を替え品を替え体位を替え、散々ヤり尽した俺達は、ロランが大概満足して、俺の精液が出なくなり、それでも責め立てられとうとう甘くイキッぱなしになる様になってから漸く終わった。
そっからは意識を飛ばした俺をロランが世話してくれたらしい。イキっぱなしで体中どこを触られても気持ちよくて、訳わかんなくなってベソベソ泣いていたボヤけた記憶しかないけど。それでも、俺の世話を焼いている間、ロランが上機嫌で片時もそばを離れずにいてくれたことだけは確かだ。
で、イキっぱなしなのはちょっと眠って、習慣でいつもの時間通り朝起きたらもう収まってたわけだけど、問題はそこから先だ。腰、立たなかったんですよねえ……。焦りで真っ青になる俺を、これで暫く引っ付いている理由ができたと嬉々としてロランが抱き上げて、結局今に至る、という訳。ああ、何度思い返しても頭が痛い。
「ロランの馬鹿! 大馬鹿! どうすんだよ、恥ずかしくてもうまともにセヴランさんの顔見られない!」
「それは好都合。マルセルの美しい瞳に映るのは、私だけで十分だ」
「そういうことを言ってるんじゃ……! あなたってば頭は良いのに、俺に対してだけそういう所あるよな!」
「それだけ私がお前に夢中だってことさ」
「あー! もうっ! 埒が明かない!」
ロランの膝の上でやいのやいの言う俺と、それを可愛くて堪らないといった目で見るロラン。ああ、絶対話が通じていない。きっとロランの頭の中は恋人と色々な意味で通じ合えた幸福でいっぱいで、他のことなんか右から左なんだろう。なんという体たらく。
だが、1番厄介なのはその事ではない。1番問題なのは、ロランが感じているのと同じくらい、俺もロランと通じ合えて幸せで、ロランのことを愛していて、彼に夢中だってこと。今は羞恥のせいで素直になれないけど、セヴランさんという外野の目さえなくなれば、あとはもう2人の世界。喜んでロランに世話を焼かれ、オネダリしたり、ちょっとした我儘を言ってみたりして甘えていたことだろう。
そうして小声でロランに噛み付く俺と、それを受け流すロランの様子を見て、微笑ましそうな顔をしたセヴランが一言。
「やあ、ロラン。君の方がマルセルさんにお熱なのかと思ったら、なかなかどうして、案外マルセルさんもロランにぞっこんなんだね。うんうん、相思相愛なのはいい事だよ」
「ちょっ、セヴランさん! 今の遣り取りのどこをどう見たらそういう感想になるんですか!」
「いやいや、これだけ人の眼前でイチャイチャラブラブベタベタしといて、それはないよマルセルさん」
「フンッ。私とマルセルは遥か昔から、ずうーっとラブラブで相思相愛だ。そんなことも分からなかったなんて、案外セヴランの目は節穴なんだな」
胸を張りドヤ顔でセヴランさんを見るロラン。男って同性の幼馴染相手にはもっとかっこつけたくなるものなんじゃないのか? あと、自分の色恋沙汰も隠すものなのでは? あなたに羞恥心は無いのか。ああ、なんかもう全部どうでも良くなってきた。これが諦めの境地ってやつなのか。
「さてと。セヴラン、見ての通りマルセルはこの状態だ。いつも通りの力仕事は無理だろう。ちょうどいい機会だ。お前の問題について3人で話し合おうじゃないか」
「あー……。その様子だと、マルセルさんに話したね?」
「矢張り私にはマルセルに対しての隠し事は無理だった」
「少しは悪びれろよ! まあ、別にいいけど。俺の方も無理言った自覚はあったし。マルセルさんに対して隠し事したり旦那様との時間を奪っちゃってた、罪悪感もね。はあ、仕方がない。事情を知ったからには、マルセルさんにも俺の人生相談、とことん付き合ってもらいますから。覚悟してくださいね」
そう言って屈託なく笑うセヴランさん。俺とロランが座っている椅子の正面の席について、もう今からでも話し合う気満々だ。自分の与り知らぬところでプライベートが暴露されたことを気にした風もない。本当、気がいいというか、根が明るいというか。まあ、個人的な事情を勝手にバラされて怒らない彼は、根本的にいい人なんであろう。
「それで、ロランはマルセルさんにはどこまで話したんだ?」
「全部」
「全部! 全部かー! ま、説明する手間が省けていっか! あっはっはっ!」
「私が言うのも可笑しな話ですが、それでいいんですかセヴランさん……」
本人が気にしてないことを他人の俺がどうこういうことはないんだけどさ。ここまで来ると人が良すぎて心配になるわ。若しかするとセヴランさんのこういうおおらかな所に、ジョゼット姫は惚れ込んだのかもしれない。これだけ来ると人生楽しそう。ああ、明るいって得だ。そうして俺達は、その日は食事を摂るのもそこそこに、あーでもないこーでもないと意見を出し合い話をしたのであった。
数年後、セヴランさんとジョゼット姫の、国を挙げた盛大な結婚式が開かれることを、この時の俺達はまだ知らない。
それとは打って変わって室内。俺とロランとの間の空気は気まずく沈み込み、2人とも黙りこくっていた。いや、だってそうだろ。今から思い返せば俺のとった行動って、かなり……いや、相当頭おかしいやつじゃん。ロランが心変わりしたからって、普通襲うか? まずは話し合いが先じゃね? いや、何の後にも襲ったりするのはなしなんだけどさ。
挙句、いい年こいて真っ裸で感情のままに泣き出したりなんかして。いやー、ないわー、本当にないわー。自分のとった頭のおかしい行動に、反省し切りである。
だが、今はそんな内省をしている場合ではない。兎にも角にも、ロランと話し合いをしなくては。
「あー、えっと、ロラン。先ずはいきなり襲ってごめんなさい。思い返すと我ながらかなり気の狂った行動だったと反省してます」
「いや、私の方こそ悪かった。一瞬でもマルセルの心を疑うなんて。マルセルが私以外の誰かを好きになるなんて、そんなことあるわけないのにな」
それはその通りなんだけど、ロランが言い切るのか。まあ、別にいいんだけどさ。そう言い切ったロランの目がちょっと怖い気がするのは、気の所為ということにしておこう。というか、ここまで信頼されると、益々自分がロランの心変わりを疑った愚かしさが浮き彫りになるな。あー、胸が痛い。
「まあ、お互い相手への謝罪等は今は置いておくとして。どうしてマルセルはいきなり私のことを襲ったのか聞いてもいいか? まあ、十中八九セヴランと私の話を聞いて、何か変な方に勘違いして、それが原因なのだろうということは分かるんだが」
「勘違い?」
「私が王都に行こうとしている話、聞いたんだろう? それも、変な勘違いしているところから察するに、中途半端に。先に言っておくが、私が王都に行こうとしたことは確かだが、マルセルも帯同しようとしていたからな。マルセルと不必要に離れるなんて、私が耐えられない」
「えっ、でも、俺には秘密だって話してた」
「成程、勘違いはそこからか。だんだん分かってきたぞ。マルセルに秘密にするというのは『王都に行く理由』のことだ。『王都に行くこと』自体ではない。ある日突然何も言わずに私が居なくなったら、マルセルがビックリして悲しむじゃないか。そんな騙し討ちのような酷い事はしない」
んん? どういうこと? 俺とロランが王都に一緒に行く? でもその訳は秘密? 訳が分からない。えっと、つまり、うん?
全く理解が及ばず、ひたすら深まっていく困惑が顔に出ていたのだろう。そんな俺の様子を見て、ロランが言葉を続けた。
「事の発端はあの引っ掻き回し野郎のセヴランだ。ほら、セヴランは王宮に務める近衛兵だろう? あれで結構優秀なあいつは、ジョゼット第2王女の専属担当になったらしくてな」
ジョゼット第2王女といえば、他の王子や王女よりも遅くに生まれ、幼姫が可愛くてたまらない王族一同に蝶よ花よとそれはそれは大切に可愛がられて育ったと噂の姫だ。ただ、周囲に可愛がられたからといって、決して無闇矢鱈と甘やかされていた訳ではない。
趣味は読書で学者も驚く程難しい書物を難なく解し、微笑めば同性も頬を赤らめる様な愛らしさで、慈善活動に熱心で困っている人々に躊躇い無く手を差し伸べる心の純粋さを持ち合わせているである。それは市井のみならず近隣諸国まで広く知れ渡った事実だ。数年前南の穀倉地帯が近年稀に見る大旱魃に襲われた時、幼いながらも王に直接直訴して飢えた民のために国庫を開かせたのは記憶に新しい。内面外面共に美しいジョゼット姫は、王室メンバーの中でも1、2を争う人気っぷりだ。近衛兵の中でも相当陛下の信頼が厚くなければ彼女の担当の近衛兵になんてなれっこないだろう。
「へえ。セヴランさん、凄いじゃないか。あの若さで相当の出世頭だね」
「そうだろう? 周囲の期待に応えるべく、あいつも張り切って仕事に励んでいたらしい。が、少し励みすぎたんだろうな」
「まさか、周囲からの嫉妬で……? それとも、気負い過ぎて精神が疲れちゃったり」
「事態はもっと深刻だ」
えっ、虐めとか精神を病むより酷いことって? なんだろう、想像がつかない。息を飲む俺に、深刻な表情をしたロランが重々しく口を開く。
「端的に言おう。ジョゼット第2王女がな……セヴランに惚れてしまったんだよ」
「へ?」
「考えてみろ。ジョゼット第2王女は今年で花も恥じらう17歳。そうでなくとも夢見がちな年頃なのに、毎日傍で命を守ってくれる見目良い紳士的な年上の男なんて近づけてみろ。まあ、惚れるよな」
「それって、かなりまずいんじゃ……」
一国の姫が一介の臣下に惚れるなんて、大問題じゃないか。セヴランさんが信頼されて姫の近衛を任された立場なのなら、尚更。例えセヴランさんになんの落ち度がなくとも、立場が上の姫に惚れられたら、それだけで一発アウト。嫁入り前の姫を誑かした不届き者として斬首間違いなしである。
「それで、セヴランさんはジョゼット姫や王族から逃れるべく、ロランを頼って王都から逃げてきたわけ?」
「ことはそんなに簡単じゃない。なんと、毎日近くで美しく魅力的な姫を見ているうちに、セヴランもジョゼット姫に惚れてしまったらしくてな」
「うわーお。なんてこったい」
なんじゃそりゃ。事態が面白い程どんどん悪い方に進んでいくな。ん? 待て待て、それでどうしてセヴランさんが1人でここに居ることになるんだ? 好きあった姫と手に手を取って駆け落ち、なんて話ならまだ理解できるんだけど。そんな俺の疑問を的確に見抜いたロランが、答えをくれる。
「王家の信頼を裏切ってしまったという思い、身分の差、年の差もある。それなのに、ジョゼット姫は自分を選んでくれた。セヴランは絶望と喜びが錯綜し混乱する頭で『未来ある姫に自分の様なただの近衛兵は相応しくない』咄嗟にそれだけを思いついて、取るものも取らず俺のところまで逃げてきたらしい。勿論、家族や友人親しい人間全員に内緒で」
「えーっと、ロラン。それ俺に話してよかったの?」
「セヴランにはできるだけ内密にと言われていたが、このままマルセルに誤解され嫌われるくらいなら私はあいつの言うことなんて無視する」
「それはそれでどうなの」
「私はセヴランよりもマルセルの方が大事だ」
胸を張るロラン。いっそ清々しいな、おい。ここまでキッパリ言い切ってくれるロランの気持ちを一瞬でも疑った俺がいかに馬鹿だったのかが分かるってものだ。
「下手に隠し立てをしていたせいでマルセルには余計な心配をさせてしまった。すまないな。どうせ直ぐ分かる事だから、その時説明しようと思っていたんだ」
「直ぐに分かるって……」
「セヴランがここに来たその日のうちに、王都から魔法の電信で連絡が来てな。『こちらはいくらでも待つから、貴殿の方からセヴランが覚悟を決められるよう手助けをしてやってくれ』と、そういったうむのメッセージが届いたんだ。要は陛下も他の王族の方々も、とっくの昔に全員が末姫とセヴランの恋愛感情に気がついていて、暖かく見守り歓迎していたみたいなんだよ。それだというのにセヴランの奴が尻尾を巻いて逃げ出してしまったものだから、一気に話がややこしいことになったわけだ。しかも、あいつ意気地が無いもんだから、私がいくら王都に戻るように説得しても聞きやしない! お陰で私はマルセルとの大切な時間が減るわ、要らぬ誤解をさせてしまうわで、いい迷惑だ!」
そう言って眦を決して毛を逆立てるロラン。でも、そうやって文句を言いつつもちゃんとセヴランさんの相談に乗り、思い合う者同士が結ばれるよう一生懸命働きかけるところが真面目なんだよなあ。本当、ロランてば他人思いのいい人だ。
「何があったのか無理がない程度に聞き出してセヴランの気持ちを確かめ、相談に乗る体で王都に戻るよう何度も言ったのに、あいつ、煮え切らない態度でいつまでも決断しようとしない! 一応滞在期間は『鶏小屋ができるまで』と期限を切ったものの、セヴランの奴、王都に帰るどころかこのまま国外逃亡しようかと画策する始末。なんとかかんとかなだめすかして国外逃亡は思いとどまらせたが、いつまで経ってもこの屋敷から動こうとする気配がない。だから『私も着いて行って執り成すから、王都に戻ろう』と半ば強引に約束させたんだ。セヴランはジョゼット姫が自分の様な人間に惚れたなんてスキャンダラスなこと、例え私の恋人であるマルセルにだろうと知られるわけにいかないから私と2人切りで行くつもりだったらしいが、そうはいくもんか。私は最初から何がなんでも理由をつけてマルセルを連れていく気だったさ。例え女神様にだろうと私とマルセルの仲は引き裂かせないってのに、セヴラン程度にやられてたまるかという話だ! 当然、連れていくからにはマルセルには最終的には全てを話すつもりだった。ただ、その話すタイミングを伺っている内に、こんなことに」
「はあ、そういう事ね」
生真面目なロランのことだから、セヴランさんとの約束を全部破りまくるのはちょっと抵抗があって、ある程度までは守ってやろうと頑張ったのだろう。ロラン、変な風に律儀なところがあるんだよな。あ、これは悪口じゃないよ。念の為。ただ、ちょっと実直さがおかしな方に走り出しているところはあると思う。別にそこが欠点という訳ではないんだけどね。
「それで、マルセルの方はどうなんだ? 私とセヴランの話を半端に聞いて勘違いをしたことまでは分かったが、それでどうして私のことを襲おうと?」
「うっ、それは……」
「マルセル、無理にとは言わないが、私はできればマルセルの口から理由を聞かせて欲しい。前にも約束したろう? 『私達の間に隠し事は無しにする』と」
「……ロランだって、セヴランさんのこととか隠し事してた」
「あー、それは……。いずれ話すつもりだったから、大目に見てはくれないだろうか?」
キュッと弱く俺の手を握り、パタリと耳を倒してお願いするロラン。止めてくれ、そんな目で俺を見ないでくれ。上目遣いに健気な様子で琥珀の瞳に見つめられれば、もう俺に勝ち目はない。往生際悪く1度目線を逸らしてから、それでもロランのお願いポーズに根負けして、俺はおずおずと事の次第を掻い摘んで説明した。
「ふむ、成程な。大体のことは分かったぞ」
「ごめんなさい、ロラン。こんなにも俺の事を思ってくれているのに、あなたの気持ちを疑うなんて。本当に、なんて謝罪すればいいのか」
「謝罪だって? とんでもない! そんなものちっとも必要ないさ。いざこざの元のセヴランは私の友人だし、私だって結果的にマルセルとの約束を破って隠し事だってした。元はと言えば全て私が蒔いた種じゃないか。マルセルはそれに巻き込まれただけ。ちっとも気にする事はない。それに、正直言うと私は嬉しいんだ。今回のことで今までにも増してマルセルの私に対する思いの深さを思い知らされた様で、今とても心が浮き立っている! 嫉妬をするなんて、なんと可愛らしい。嫉妬をしたり疑ったりするのは、全ては相手への愛故のこと。自分が思うのと同じだけ相手からも愛されたいと思うからだ。それはつまり心底私のことを好いてくれている証拠じゃないか。心変わりを疑ってもそれで詰るでもなく、私を繋ぎ止めようと体でアピールしてくるなんて、もう堪らない! こんな素敵な焼きもちなら、いくらでも大歓迎だ。さあ、マルセル。もっと妬いてくれ。私はそれを全部受け止めてみせるよ」
「ロ、ロラン……」
握られていた手を引かれ、静かにそっと抱き寄せられる。その手つきは先程のものとは違って、どこまでも優しい。肌触りのいい毛皮に頬を寄せれば、ゆっくりとして落ち着いたロランの鼓動が感じられた。なんだか顔に血が上って、頬が熱くなる。
ど、どうしよう。最近ロランとの触れ合いがめっきり減っていたから、こういう時どうすればいいのかを忘れてしまった。何か言うべきなのか? それとも背中に手を回して抱き返すべき? 両方やるという選択肢もある。駄目だ。全然分からない。
どうするべきかオタオタと俺が狼狽えていると、俺を抱き込んだロランの体が動き、体勢を変えさせられる。何かと思えばそのままゆっくりと背中からベッドに押し倒された。驚いて目を見開くと、目の前には予想外に飢えた目付きのロランの顔が。
「え、ロラン。……するの?」
「マルセルさえ良ければ、したい。折角マルセルが乗り気になってくれたんだ。中途半端に終わらせるのは、あまりにも勿体ないじゃないか。それに、勝手な話で悪いがセヴランが来てからこっち、私はマルセルとの時間が減ってずーっとマルセル不足でな。誤解も解けたことだし、今からは仲直りの時間にしないか?」
そう言って俺の肩口に鼻先を埋め、首筋を下から上へとペロリと舐めるロラン。ブルリと震わせた背筋を、ゆっくりと硬い指先が辿る。擦り付けられた下半身には、ゴリッと音を立てそうな程固くて熱いものが。驚きでハッと息を飲む。
「マルセル。ああ、こうして触れ合うのも何時ぶりだろうか。マルセルの温かさを、香りを、形を、ありありと感じられる。もう、我慢できない」
「あうっ!」
ロランの大きな手が、さっき着込んだばかりの布越しに俺のペニスに触れる。ロランの巧みな指使いで、忽ち俺のペニスは熱を持つ。咄嗟のことに反応できず固まる俺にも構うことなく、ロランは片手で俺のペニスを弄り回し、もう片方の手で脇腹をなぞった。俺の首筋に、愛しげに自分の顔を擦り付けるのも忘れない。柔らかい毛皮の感触が気持ちが良くて、思わず口から変な声が出る。
「んん、ふぅ」
「ふふっ、マルセル、気持ちよさそうだな。そろそろここに、これが欲しくなってきた頃合いじゃないか?」
「ひっ!」
ここという言葉と共にペニスを弄っていた指が移動し服の上から俺のアナルを抉り、これという言葉と共に硬度と質量を増したロランのペニスが押し付けられた。驚きからか期待からか、アナルがキュンッと疼く。
俺が混乱でなにもできずにいるのをいいことに、ロランは俺の服に手をかけ、それが寝やすいよう締め付けがキツくない作りなのをこれ幸いとばかりに下着ごとやんわりと、しかし有無を言わせない強引さで剥ぎ取った。あっという間に上だけ寝間着を着て、下半身は丸出しの間抜けな俺の姿が完成である。だがことはこれでは終わらない。辛抱堪らなくなった様な荒々しい動作で、ロランも自身の寝巻きの下を剥ぎ取る。窮屈な布の締め付けから開放されたロランのペニスがべチンッと俺の太ももに当たって、その存在感に頭がクラクラした。
「ロ、ラン」
「ははっ、見てみろマルセル。お前に煽られて、私はもうガチガチだぞ。お前も、ほら。もう大分張り詰めてきている。さて、後ろの方はどうかな?」
「んぁっ」
言葉と共にロランの指がゆっくりと優しく、しかしはっきりと意志を持った強引さで中に押し入ってくる。予想だにしなかったことに、俺は背を弓なりにしならせ仰け反った。自然とロランの手指に尻を押し付ける形となり、益々ロランの指が中に入りこむ。
「ひっ、あぅ」
「ん、先程も感じたが、少し狭くなっているな。最近構ってやれなかったから、仕方がない。だが、これはじっくり慣らさないとな」
そう言ってじっくりと指を動かし馴染ませた後、本数を増やすロラン。最初はロランの太い指たった1本でもいっぱいいっぱいだと思っていたのに、存外俺の後ろは貪欲に2本目以降のロランの指も飲み込んでいく。
ロランは時間をかけて覚えた俺の感じる場所を、指でくすぐったり引っ掻いたり押し潰したり。宣言の通り、結構ねちっこく刺激してくる。反射で逃れようとする俺の体を傷つけない程度にやんわりと抑え込む念の入りようだ。久しぶりのそこで感じる性感に、見開いた目の端に涙の玉が浮かぶ。ハッハッと浅い息を繰り返す口からは、あられもない喘ぎ声が飛び出し、涎が一筋、ツーッと顎を伝った。
「マルセル、私が不甲斐ないせいで不安にさせて悪かったな。どうか私に、お前に寂しい思いをさせてしまった埋め合わせをさせてくれ。すれ違ってしまった分、たっぷりお互いを感じよう」
「ひっ──!」
言い終わるか終わらないかのうちに指が引き抜かれ、十分に慣らされた後ろにロランのペニスが潜り込む。それは時間をかけて味わうように俺の中へと侵入をする。時折小刻みに揺れながら、躊躇うことなく真っ直ぐと俺の最奥を目指して進んでいった。思わず飲んだ息を吐き出すこともままならないまま、浅い息とも小さな喘ぎともつかない音を喉で鳴らす。
「んっ、すごっ、入って、くる、うぅ」
「ふ、ぅ。ああ、マルセル。小さな尻で精一杯私のものを頬張って、なんて意地らしい。中もうねって絡みつく様だ」
「あっ、あっ、駄目、ぇ、揺すっちゃ、あ」
体を手で掴んで固定され、大きく腰を使って抜き差しされれば、ロランの大きくて硬いペニスが柔らかく敏感な粘膜を満遍なく刺激した。あちこちにあるいいところを擦られる度、甘い性感が体に走る。一突きごとにどんどん体が昂り、感覚が鋭敏になっていく。1つ1つは達するには至らないまでも一瞬意識が白むには十分な小さな性感が、積み重なっていった。
性感を感じる度に腹の筋肉が動き、中にあるロランのペニスをキュウキュウと締付ける。自らが意図しない動きだが、それがまた予想できない性感を拾って堪らない。ロランも気持ちがいいようで、上から熱っぽく溜息を着いたのが聞こえてくる。そうしている間にもロランのペニスは俺の中へと潜り込んでいき、やがてその切っ先が最奥に到達する頃には、俺はもう体中を小さく痙攣させながら、息も絶え絶えになっていた。
「うぅ、ロラン……」
「可愛いマルセル。大切な人、私の全て。お前だけだ。こんなにも夢中にさせるのも、全てを捧げたいと思わせるのも、全部、全部、お前だけ。富、権力、知識、何を差し出されたとしても、全てがお前の魅力の前では等しく無価値だ。例え何があったとしても、私にはお前しかいない。マルセルも私と同じ思いだといいんだが」
「ん、同じ、だよ。ロランは俺の支配者で、神様で、1番なんだ。決して離れたりなんかするもんか。この気持ちが揺らぐことは、未来永劫ありはしない」
「ああ、マルセル……!」
感極まった様子のロランが、止めていた抽挿を再開する。俺はそれをあまんじて受け止めた。激しく揺さぶられ、中を擦りあげられる度に気持ちが良くて、頭のてっぺんから爪先までビリビリと痺れる様だ。
俺が感じる度に中の粘膜も蠢くようで、腰を振りながらロランが気持ちよさそうに喉を鳴らす。俺の腰を掴む腕を下から手を伸ばして辿っていくと、ロランは身を屈めて頭を摺り寄せてくれる。その事がどうしようもなく嬉しい。お気に入りの箇所を啄かれ、視界が瞬く。ロランが歯を食いしばり、俺のペニスからは先走りが溢れた。絶頂が近い。
「ふ、ぅ、ロラ、ン。ロラン、愛して、る」
「ああ、私もだよ、マルセル」
「ふぅ、んんっ、ぁああ!」
「くっ──!」
ドチュンッ、と勢いつけて内側全部擦りあげられる。全身が戦慄き、思考が遠のく。血管の中を血液の代わりに快楽という概念そのものが走っているかの様だ。一気に与えられた過ぎた性感に目を見開き、俺はいとも容易くペニスから白濁をまき散らして果てた。俺がイく時の下半身の筋肉の痙攣でペニスが締め付けられ、それが良かったのかロランもとうとう俺の中に精を吐き出す。ロランのペニスが膨張し、脈打ちながら熱を吐き出すのを、俺は文字通りモロに体で味わったのだった。
なんだ今の。滅茶苦茶凄かった。今でも指先は力が入らず痺れる様だし、腰は勝手に緩く揺れている。なにより最中にロランのこぼしたあの言葉の数々。今ハッキリとしてきた頭で思い返せば、それだけで顔に熱が登る。未だ最後までやったのが2度目とは思えぬ程の、身も心も満ち満ちた交わりだった。
「ハァ、ハァ、ハァ……。ロラン?」
そうして俺が息も整わぬまま情事の甘い余韻に浸って反芻をしていると、大きく開いた足の間で何やらロランが怪しく動く気配がする。何かと思って声をかけ目線を向ければ、そこにはいやらしい手付きで俺の太腿をまさぐるロランの姿が。その目に宿るのは、紛れもない欲望の光。当然の如くロランのペニスはこれ以上ないくらい張り詰めている。
「ロ、ロラン。どうしたの、そんなところ触って?」
「どうしたもこうしたも、続きをしようと思ってな」
「続き?」
「ああ、勿論。折角暫くぶりに深く触れ合うきっかけができたんだ。これくらいで終わりにするわけないだろう?」
「で、でも、明日も仕事とか、色々あるし」
「急ぎの仕事は無いし、なんならお前の分まで私が働くさ。だから、な? いいだろう? それとも、こうして私と触れ合うのは嫌か?」
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恥ずかしさから小さく呟く様に言ったその言葉を、ロランは抜け目なく聞き取ってニヤリとほくそ笑んだ。それはもう、なんか面白くなってきちゃうくらい、ものの見事にニンマリと。そうして話している間も手慰みに俺の体を撫でていた手の動きが、明らかに熱を煽るものになる。
俺は無言で感覚の戻ってきた手を持ち上げ、おずおずとロランの首に腕を搦めた。それに応える様に、ロランの方もゆるりと体を更に近づけてきて、2人の肌が触れ合う。平時よりも少しだけ高いロランの体温を感じ、自分の胸が期待に高鳴るのを感じる。ロランの指が艶めかしく俺の上を動く。その事に堪らなく煽られる自分がいた。最早拒絶の意志など微塵も浮かんでこない。そうして俺はされるがまま、優しいロランの手付きに身を任せウットリと目を閉じるのだった。
そして、翌日。
「で、俺は朝から一体何を見せつけられているんだい?」
片眉を上げ、含み笑いをしながらセヴランさんが問う。精一杯抑えてはいる様だが、今にも吹き出して腹を抱えて大笑いしそうな雰囲気だ。
だが、そうなってしまうのも無理はない。だってそうだろう? なんの前触れもなしに幼馴染が自身の恋人を膝の上に座らせて椅子にどっしり構えていたらそう聞きたくもなるし、膝の上に横座りさせられたその恋人が恥ずかしさで茹で蛸になっていたら面白くなってきてしまうのも道理だ。
もうセヴランさんのその問いかけに俺は羞恥心が爆発しそうになって、無言でロランの膝の上から降りようとするが、腰に回った彼の腕がそれを許してくれない。キッ、とロランの目を睨むが、何処吹く風。手を緩めるどころか、余裕すら感じさせる優しいほほ笑みを向けられてしまった。
「いや、なに。昨晩少しマルセルと話し合ってな。最近セヴランにかまけてばかりで恋人としての触れ合いが減ってしまったのは実に遺憾だと言う結論に至ったんだ。それで、これからはお前が居ようが構うことなく以前の距離感を取り戻そうということになったわけだ」
「え、俺がいない時は普段からそんな風に文字通り心身共に付かず離れずの距離感だったわけ?」
「心はともかく、私達はいい大人だし体は別にそういう訳ではないが、セヴランが来てから今まで逃してしまった2人の時間を取り戻すには、これくらいの距離感がいいと思ったんだ」
そう言って益々俺を抱き寄せるロラン。恥ずかしいので少し離れて欲しいが、赤らんだ顔を見られたくなくて背けるだけで、突っぱねはしない。だって、こんな甘やかされるのなんて久々で純粋に嬉しいし、ロランに触れているだけで嬉しさで体から力が抜けてしまうし。すぐ傍にロランの大きな温もりがあるのは何にも変え難い幸せなことでもある。そして、何より。
「こらこら、マルセル。そんな風に体を捻って顔を逸らしていたら膝から落ちてしまうぞ。いまお前は腰が立たないんだから、危ないことはよしなさい」
「誰の所為だと……っ!」
ロランの囁いた言葉に思わず俯けていた顔をバッと上げて、涙目で抗議する。そうだ、そうなのだ。結局昨晩、ロランはそれはもう嫌ってほど……いや、まあ、嫌じゃなかったんだけど、兎に角沢山俺の体を求め続けた。なんだかんだロランの方も我慢が重なって色々溜まっていたのだろう。まあ、それは俺もだけど。
手を替え品を替え体位を替え、散々ヤり尽した俺達は、ロランが大概満足して、俺の精液が出なくなり、それでも責め立てられとうとう甘くイキッぱなしになる様になってから漸く終わった。
そっからは意識を飛ばした俺をロランが世話してくれたらしい。イキっぱなしで体中どこを触られても気持ちよくて、訳わかんなくなってベソベソ泣いていたボヤけた記憶しかないけど。それでも、俺の世話を焼いている間、ロランが上機嫌で片時もそばを離れずにいてくれたことだけは確かだ。
で、イキっぱなしなのはちょっと眠って、習慣でいつもの時間通り朝起きたらもう収まってたわけだけど、問題はそこから先だ。腰、立たなかったんですよねえ……。焦りで真っ青になる俺を、これで暫く引っ付いている理由ができたと嬉々としてロランが抱き上げて、結局今に至る、という訳。ああ、何度思い返しても頭が痛い。
「ロランの馬鹿! 大馬鹿! どうすんだよ、恥ずかしくてもうまともにセヴランさんの顔見られない!」
「それは好都合。マルセルの美しい瞳に映るのは、私だけで十分だ」
「そういうことを言ってるんじゃ……! あなたってば頭は良いのに、俺に対してだけそういう所あるよな!」
「それだけ私がお前に夢中だってことさ」
「あー! もうっ! 埒が明かない!」
ロランの膝の上でやいのやいの言う俺と、それを可愛くて堪らないといった目で見るロラン。ああ、絶対話が通じていない。きっとロランの頭の中は恋人と色々な意味で通じ合えた幸福でいっぱいで、他のことなんか右から左なんだろう。なんという体たらく。
だが、1番厄介なのはその事ではない。1番問題なのは、ロランが感じているのと同じくらい、俺もロランと通じ合えて幸せで、ロランのことを愛していて、彼に夢中だってこと。今は羞恥のせいで素直になれないけど、セヴランさんという外野の目さえなくなれば、あとはもう2人の世界。喜んでロランに世話を焼かれ、オネダリしたり、ちょっとした我儘を言ってみたりして甘えていたことだろう。
そうして小声でロランに噛み付く俺と、それを受け流すロランの様子を見て、微笑ましそうな顔をしたセヴランが一言。
「やあ、ロラン。君の方がマルセルさんにお熱なのかと思ったら、なかなかどうして、案外マルセルさんもロランにぞっこんなんだね。うんうん、相思相愛なのはいい事だよ」
「ちょっ、セヴランさん! 今の遣り取りのどこをどう見たらそういう感想になるんですか!」
「いやいや、これだけ人の眼前でイチャイチャラブラブベタベタしといて、それはないよマルセルさん」
「フンッ。私とマルセルは遥か昔から、ずうーっとラブラブで相思相愛だ。そんなことも分からなかったなんて、案外セヴランの目は節穴なんだな」
胸を張りドヤ顔でセヴランさんを見るロラン。男って同性の幼馴染相手にはもっとかっこつけたくなるものなんじゃないのか? あと、自分の色恋沙汰も隠すものなのでは? あなたに羞恥心は無いのか。ああ、なんかもう全部どうでも良くなってきた。これが諦めの境地ってやつなのか。
「さてと。セヴラン、見ての通りマルセルはこの状態だ。いつも通りの力仕事は無理だろう。ちょうどいい機会だ。お前の問題について3人で話し合おうじゃないか」
「あー……。その様子だと、マルセルさんに話したね?」
「矢張り私にはマルセルに対しての隠し事は無理だった」
「少しは悪びれろよ! まあ、別にいいけど。俺の方も無理言った自覚はあったし。マルセルさんに対して隠し事したり旦那様との時間を奪っちゃってた、罪悪感もね。はあ、仕方がない。事情を知ったからには、マルセルさんにも俺の人生相談、とことん付き合ってもらいますから。覚悟してくださいね」
そう言って屈託なく笑うセヴランさん。俺とロランが座っている椅子の正面の席について、もう今からでも話し合う気満々だ。自分の与り知らぬところでプライベートが暴露されたことを気にした風もない。本当、気がいいというか、根が明るいというか。まあ、個人的な事情を勝手にバラされて怒らない彼は、根本的にいい人なんであろう。
「それで、ロランはマルセルさんにはどこまで話したんだ?」
「全部」
「全部! 全部かー! ま、説明する手間が省けていっか! あっはっはっ!」
「私が言うのも可笑しな話ですが、それでいいんですかセヴランさん……」
本人が気にしてないことを他人の俺がどうこういうことはないんだけどさ。ここまで来ると人が良すぎて心配になるわ。若しかするとセヴランさんのこういうおおらかな所に、ジョゼット姫は惚れ込んだのかもしれない。これだけ来ると人生楽しそう。ああ、明るいって得だ。そうして俺達は、その日は食事を摂るのもそこそこに、あーでもないこーでもないと意見を出し合い話をしたのであった。
数年後、セヴランさんとジョゼット姫の、国を挙げた盛大な結婚式が開かれることを、この時の俺達はまだ知らない。
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素敵なハッピーエンドでよかった😊
ロランに出会った当初のジョーの話でマルセルが優しい人だと感じましたが、ロランに対する気持ち、行動がスゴく前向きで愛情溢れてよかった。
マルセルから迫られ次第に意識し始め、最後は自分でいたしてるところを見られ、自分の気持ちを暴露することになったロランは可愛かったです。
気持ちが通じ合ってからの二人は可愛く、読みながら口元が緩みっぱなしでした😆
素敵なお話ありがとうございました😊