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凍雪国編第5章
第41話 国都にいる皇衛兵
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トーンは、サイバジ族出身の皇衛兵であり、以前はサイバジ族の騎兵隊長を長く務めていた。
それが、前国主ノールの死去に伴い、国都への備えを厚くする必要が出てきたため、全部族長会議において国都駐留部隊長に任命され、派遣されて来たのである。
ただし、この部隊は表向きには公表できないものである。
そのため、国都ではそれぞれの隊員が生業を持ち、普通の住人として暮らしている。
トーンも、もちろん革細工という職を持ち、日々の生活を皇衛兵とは関係なく送っている。
ダイザとテムは、トーンからそれらのことを聞き、納得できる部分がある一方、疑問に思うことも出てきたのである。
「つーと、あれか? 全部族長会議は、俺たちに何も知らせず、活動していることもある……というのだな?」
テムは、宗主国とは関わりがない。
そのため、それはそれで構わないと思う。
だが、宗主であるダイザが預かり知らないところでことが行われているのは、いかがなものかと思うのである。
特に、不測の事態が起きたときには、齟齬が生じないかと危惧したのである。
「私も、会議の内容を詳しくは知りません。なので、そうであるとしか申し上げられません。しかし、駐留隊の件に関しては、その通りであると言えます」
トーンは、テムの質問に対して、誠実に答える。
「そうか。まぁ、今回は、それで助かった訳だが、今後においては、少し心配だな。……ダイザは、どう思うんだ?」
「私は、致し方ないと思っていますよ。私自身が、関与して来なかった訳ですからね」
僅かに肩をすくめたダイザは、緊張して硬くなっているトーンに微笑みかける。
ダイザが知らなかったのは、トーンのせいではない。
ダイザがミショウ村で暮らし、島から出なかったことが原因なのである。
だから、トーンを責めるのは筋違いで、長らく全部族長会議に出席していなかったダイザが悪いのである。
「テムさん。私が前に会議に出席したのは、40年ほど前のことです。それ以来、各部族長に任せっきりになっていました。なので、これは仕方のないことですよ」
「平和だったということか……。だが、これからは、違うぞ」
「分かっています。私も、会議へ出席して、情勢の把握に努めます。それは、国都へ来てみて、よく分かりました」
国都は、ダイザやテムが考えていたよりも、遥かに難しい状況に陥っている。
現国主ドラインが強引な政治を行っており、短命族の各部族がそれぞれの思惑で動き出している。
また、内乱の予兆さえ、あちこちで見受けられる。
宗主国として、それらの問題へは直接的には関与しないものの、大陸からの干渉に関しては、見ぬふりをしてはいられない。
国都に内乱が起こり、ルシタニア帝国やゼノス教などが勢力を伸ばしてくることがあれば、宗主国としても困るのである。
ダイザは、トーンに向き直り、国都にいる皇衛兵について再び尋ねる。
「国都にいるのは、サイバジ族とベイ族だけか?」
「いえ。ベイ族は、このパロとメゾットたちだけになりますが、ほかの部族も数人います。ただ、主力は、サイバジ族になります」
トーンは、もともと国都へ潜入していた皇衛兵に、自身が騎兵隊から選抜した皇衛兵を連れて来て、統合したことを二人へ話す。
「ということは、ほとんどがトーンの部下だな」
「はい」
「なら、明日は、トーンたちが協力してくれ。明日の夜、アジトを潰し、その後に長を捕まえに行く」
「分かりました。ハモフを監視している者にも、そのように伝えておきます」
ハモフを監視している皇衛兵は、現在三人である。
その者たちは、トーンが連れてきた騎兵隊である。
また、国都内でリビングデッドのギルド員を狩っている者たちも、トーンの部下たちである。
パロやそのほかの者たちは、平時と同じく、国都の情勢を監視している。
ダイザは、トーンに明日の手筈を話し、オンジと合流する貧民街の入り口で待ち合せを行う。
「ルキタスやアムリも、参戦させるのか? 俺は、もういいような気がするんだが……」
テムは、西の城門で会った別の皇衛兵について、ダイザへ確認する。
「彼らには、教練師としての任務を優先して貰いましょう。もし、騒ぎが大きくなれば、彼らも国都を追われることになりますからね」
「分かった。では、俺たちは、このまま市場に行き、商いをしよう。余計な荷物は早めに処分するに限る」
テムは、背負っていた麻袋をポンポンと叩く。
それを見たダイザは、金貨のことを思い出し、トーンとパロにそれぞれ5枚ずつ渡す。
「これを当座の活動費に当ててくれ。もし、それで足りなければ、これも使ってくれ」
ダイザは、そう言って、ドルマから貰った透輝石を1個ずつトーンとパロに手渡す。
「こんなに!」
「受け取れないよ!」
トーンとパロは、ダイザへ金貨と透輝石を押し返そうとする。
だが、ダイザは、両手を挙げて返されるのを拒否し、二人へそれらを受け入れさせる。
「それは、軍資金だ。余れば、作戦の成功報酬に当ててくれればいい」
それを聞いたトーンは、頭を切り替えて、指揮官の顔に戻る。
「分かりました。作戦は、必ず成功させます。我らの働きをとくとご覧ください」
「頼りにしている」
「はっ!」
トーンは、椅子から立ち上がり、敬礼をして、ダイザの鼓舞に応える。
それが、前国主ノールの死去に伴い、国都への備えを厚くする必要が出てきたため、全部族長会議において国都駐留部隊長に任命され、派遣されて来たのである。
ただし、この部隊は表向きには公表できないものである。
そのため、国都ではそれぞれの隊員が生業を持ち、普通の住人として暮らしている。
トーンも、もちろん革細工という職を持ち、日々の生活を皇衛兵とは関係なく送っている。
ダイザとテムは、トーンからそれらのことを聞き、納得できる部分がある一方、疑問に思うことも出てきたのである。
「つーと、あれか? 全部族長会議は、俺たちに何も知らせず、活動していることもある……というのだな?」
テムは、宗主国とは関わりがない。
そのため、それはそれで構わないと思う。
だが、宗主であるダイザが預かり知らないところでことが行われているのは、いかがなものかと思うのである。
特に、不測の事態が起きたときには、齟齬が生じないかと危惧したのである。
「私も、会議の内容を詳しくは知りません。なので、そうであるとしか申し上げられません。しかし、駐留隊の件に関しては、その通りであると言えます」
トーンは、テムの質問に対して、誠実に答える。
「そうか。まぁ、今回は、それで助かった訳だが、今後においては、少し心配だな。……ダイザは、どう思うんだ?」
「私は、致し方ないと思っていますよ。私自身が、関与して来なかった訳ですからね」
僅かに肩をすくめたダイザは、緊張して硬くなっているトーンに微笑みかける。
ダイザが知らなかったのは、トーンのせいではない。
ダイザがミショウ村で暮らし、島から出なかったことが原因なのである。
だから、トーンを責めるのは筋違いで、長らく全部族長会議に出席していなかったダイザが悪いのである。
「テムさん。私が前に会議に出席したのは、40年ほど前のことです。それ以来、各部族長に任せっきりになっていました。なので、これは仕方のないことですよ」
「平和だったということか……。だが、これからは、違うぞ」
「分かっています。私も、会議へ出席して、情勢の把握に努めます。それは、国都へ来てみて、よく分かりました」
国都は、ダイザやテムが考えていたよりも、遥かに難しい状況に陥っている。
現国主ドラインが強引な政治を行っており、短命族の各部族がそれぞれの思惑で動き出している。
また、内乱の予兆さえ、あちこちで見受けられる。
宗主国として、それらの問題へは直接的には関与しないものの、大陸からの干渉に関しては、見ぬふりをしてはいられない。
国都に内乱が起こり、ルシタニア帝国やゼノス教などが勢力を伸ばしてくることがあれば、宗主国としても困るのである。
ダイザは、トーンに向き直り、国都にいる皇衛兵について再び尋ねる。
「国都にいるのは、サイバジ族とベイ族だけか?」
「いえ。ベイ族は、このパロとメゾットたちだけになりますが、ほかの部族も数人います。ただ、主力は、サイバジ族になります」
トーンは、もともと国都へ潜入していた皇衛兵に、自身が騎兵隊から選抜した皇衛兵を連れて来て、統合したことを二人へ話す。
「ということは、ほとんどがトーンの部下だな」
「はい」
「なら、明日は、トーンたちが協力してくれ。明日の夜、アジトを潰し、その後に長を捕まえに行く」
「分かりました。ハモフを監視している者にも、そのように伝えておきます」
ハモフを監視している皇衛兵は、現在三人である。
その者たちは、トーンが連れてきた騎兵隊である。
また、国都内でリビングデッドのギルド員を狩っている者たちも、トーンの部下たちである。
パロやそのほかの者たちは、平時と同じく、国都の情勢を監視している。
ダイザは、トーンに明日の手筈を話し、オンジと合流する貧民街の入り口で待ち合せを行う。
「ルキタスやアムリも、参戦させるのか? 俺は、もういいような気がするんだが……」
テムは、西の城門で会った別の皇衛兵について、ダイザへ確認する。
「彼らには、教練師としての任務を優先して貰いましょう。もし、騒ぎが大きくなれば、彼らも国都を追われることになりますからね」
「分かった。では、俺たちは、このまま市場に行き、商いをしよう。余計な荷物は早めに処分するに限る」
テムは、背負っていた麻袋をポンポンと叩く。
それを見たダイザは、金貨のことを思い出し、トーンとパロにそれぞれ5枚ずつ渡す。
「これを当座の活動費に当ててくれ。もし、それで足りなければ、これも使ってくれ」
ダイザは、そう言って、ドルマから貰った透輝石を1個ずつトーンとパロに手渡す。
「こんなに!」
「受け取れないよ!」
トーンとパロは、ダイザへ金貨と透輝石を押し返そうとする。
だが、ダイザは、両手を挙げて返されるのを拒否し、二人へそれらを受け入れさせる。
「それは、軍資金だ。余れば、作戦の成功報酬に当ててくれればいい」
それを聞いたトーンは、頭を切り替えて、指揮官の顔に戻る。
「分かりました。作戦は、必ず成功させます。我らの働きをとくとご覧ください」
「頼りにしている」
「はっ!」
トーンは、椅子から立ち上がり、敬礼をして、ダイザの鼓舞に応える。
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