ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第5章

第38話 国都駐留部隊長トーン1

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 ダイザは、パロの言葉を聞いて、アジト外にいる闇ギルド員を討ち漏らさない方策を考える。
 だが、現在の国都内に詳しくないダイザでは、闇に隠れたギルド員を探し出すことは不可能だと判断する。
 そこで、ダイザは考える事を止めて、パロの意見を聞くことにする。

「アジトの外にいる闇ギルド員を探し出せますか?」

「そうさね……。難しいが、できないことではないね。ただ、あたしらだけでは無理だよ」

 パロは、手をパタパタと横に振り、ダイザの問いをあっさりと否定する。
 そして、ダイザへは別の事を告げる。

「今、メゾットがトーンを呼びに行っているよ。そのトーンが来れば、話は変わるね」

「トーン? 誰ですか、それは?」

「あぁ。ダー坊は、会ったことがないんだったね」

 パロは、何かを納得したのか、うんうんと頷いて、ダイザとテムを見る。
 そして、二人に机の上に置いてある飲み物と茶菓子を勧めつつ、トーンについて説明する。

「トーンは、国都にいる皇衛兵のまとめ役だよ。トーンなら、この国都にいる皇衛兵を集め、動かすことができるよ」

「へぇ~。そんな人がいたんですね。私は、全然知りませんでしたよ」

 ダイザは、隣のテムを見て、「知っていましたか?」と尋ねるが、テムは、「俺も知らんぞ」と肩をすくめて答える。

「私たちは、国都の城門でルキタスとアムリという皇衛兵に会いましたが、その二人からトーンのことは知らされませんでしたよ。オンジも、知らなかったのかな……?」

 最後の言葉を自身に向けたダイザは、オンジがトーンについて教えてくれなかったことに首を捻る。
 国都にいる皇衛兵のうち何人かは、ヴァールハイトの国都支部長であるオンジの耳に入っているはずなのである。

「はははっ。トーンのことは、オンジ支部長でさえ知らないよ。何せ、皇衛兵でさえ、その存在を知らされていない者が多いからね」

「そうなんですか?」

「あぁ、そうさね。トーンは、陰の存在。宗主国が、ディスガルドでそうであるように、一般の人たちはもちろん、新着してきた皇衛兵にも知らされない」

 楽しそうに含み笑いをしたパロは、我が子のように愛しいダイザに頷く。

「宗主であるダー坊にも、知らされていないのは、あたしたち皇衛兵なりの気遣いなのさ」

「気遣い?」

「陰ながらお守りするという心遣い。もしくは、無茶な事をする宗主を押し止める役目……だね。だから、この国都には、ダー坊が想像できないぐらいの皇衛兵がすでに入っているんだよ」

「何人ですか? 私は、それを知っておくべきだと思いますが……」

「はははっ。あんたは、真面目だね。だけど、これは、あたしからは言えないことだよ。知りたいのなら、トーン本人に聞いておくれ。トーンなら、その権限があるからね」

 パロは、申し訳なさそうにダイザに断りを入れる。
 そして、すっと席を立ち、「トーンを出迎えてくるよ」と言い、部屋を出て行く。
 部屋に残されたダイザとテムは、お互いに顔を見合わせる。

「テムさんは、知っていましたか?」

「いや……。俺は、そもそも皇衛兵について詳しくないからな。どれぐらいの数がいて、どんな活動をしているのか、全く知らんに等しい」

「そうですよね……」

 ダイザも、テムの言うことがよく分かる。
 テムは、ミショウ村から何十年も外へ出ることはなく、大陸とは無縁の生活を送り続けている。
 また、テムは、ダイザと違い、宗主国に関わることもなく、皇衛兵についても接触する機会がない。

「私にも、知らされていないことがあるとは、皇衛兵とは何なんでしょうね?」

「知らんな。……まぁ、ダイザは、宗主に就いてはいるが、それらしい活動をほとんどしていない。皇衛兵たちが、自ら何かをしていても文句は言えんだろ?」

「それは、そうですが……。何となく寂しい気持ちと、そこまでしてくれて申し訳ない気持ちがせめぎ合っています」

「はははっ。それこそ、ダイザらしい。ダイザは、それでいいと思うぞ」

 テムは、ダイザの背中をバシバシと叩いて、朗らかに笑う。

「現に、皇衛兵が悪さをしているのならともかく、昔からのしがらみを大切にし、今でも支え続けてくれている。そのことには、感謝せねばならんし、俺も、皇衛兵たちに頭が下がる思いだよ」

「そうですね」

「それに、このタイミングで皇衛兵が力を貸してくれるのなら、リビングデッドの奴らを取り逃がすことはないし、明日の夜だけで片がつく……ん?」

 テムは、建物内に突然強力な気配が現れたのを感じ取る。
 それは、ダイザも同じで、背筋が寒くなるほどの気配に、一気に緊張が高まる。

「これが……、トーンか?」

「そうでしょうね。……頼もしい限りです」

 二人が感じ取った気配は、ありえないほど強く、ミショウ村の誰よりも強いことが分かる。
 もちろん、二人が敵う相手ではないことも、気配の強さから感じ取る。
 ダイザとテムがお互いに顔を見合わせていると、すぐに扉が開き、パロが背の高い女性とメゾットを引きつれて現れる。
 トーンと思しき女性は、白銀の髪を背中まで伸ばし、涼やかながらも凛とした顔つきをしている。
 その顔が、ダイザを見た瞬間に柔らかい笑みを湛え、僅かに頭を下げる。

「ダー坊。こちらがトーンだよ」

 楽しそうな笑みを浮かべているパロは、トーンへ自らの場所を譲り、トーンへダイザとテムの前へ歩みを進めるように促す。
 トーンは、足音も立てずに二人の前に進み出て、椅子に座る二人に向かって跪く。

「お初にお目に掛かります。トーンと申します。国都駐留部隊の隊長をしております」
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