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凍雪国編第5章
第32話 ヴァールハイト国都支部2
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オンジが指し示した場所は、国都の北東城門から城壁沿いに北へ行ったところである。
そこは、貧民街と呼ばれる国都でも治安の悪い場所であり、胡散臭い者たちが集う酒場や奴隷商の取引所などがある。
「外見は、普通の民家です。ただ、地下で隣の民家とつながっているらしく、出入りは、主に裏道に面した隣の民家から行われています」
「はははっ。闇ギルドらしい」
「ただ、我々の調査でも、リビングデッドの長までは辿り着けていません。長と名乗る人物は、初老の男のようですが、その正体は今も不明です」
「そうか……」
テムは、そう言って考え込むが、何か妙案が思い浮かぶわけでもない。
テムは、隣のダイザをちらりと見て、ダイザの考えを目で問う。
「別に、いいと思いますよ。今は分からなくても、乗り込んでみてから調べれば、何か分かるかも知れませんから……」
「それも、そうだな。情報は、奴らから貰えばいいか?」
「はい。今は、組織を潰すことが優先です」
ダイザは、きっぱりと言明する。
普段温厚なダイザからは想像がつかない強い言葉だが、ダイザとて、マルザやハイト、デュークの仇を討ちたいのである。
「皇衛兵は、どうする?」
「手伝ってもらいましょう。敵を逃がしてしまっては、厄介ですので……」
「そうだな」
テムは、ダイザの意見に首肯し、指をパキパキと鳴らす。
テムも決行を前に気分が高揚してきたのか、やる気が漲っているのである。
「私もお手伝いをしますよ。人は何人必要ですか?」
オンジも、闇ギルドを潰す気なのである。
オンジは、テムに礼儀正しく尋ね、明日の決行を前に人集めを申し出る。
「どうする? 冒険者の手を借りるか?」
「いえ……」
テムの問いかけに、ダイザは、すぐに首を横に振る。
「今回は、あくまでも仇討ちです。これは、我々の手で行わなければならないことです。それに、冒険者を集めて、ことが漏れる事態は避けましょう」
「分かった。それなら、私だけでも参戦したいがいいか?」
オンジは、友人であるダイザに向かっては、途端にくだけた口調になる。
「それは、助かる。オンジがいれば、作戦が楽になる」
ダイザも、オンジには気安い話し方をし、オンジの参加を歓迎する。
ダイザとオンジは、簡単な打ち合わせをして、明日の日没後に貧民街の入り口で落ち合うことにする。
国都の貧民街は、北東の一角にあり、中央通りから数ブロック離れたところに位置する。
貧民街は、人の背丈ほどの板塀で隔離されており、その中は、道が複雑に入り組み、統一性のない建物が隙間なく建てられている。
そこは、地理感のないダイザとテムにとっては、迷宮のように感じられる場所であり、オンジのような道案内が不可欠となる。
ダイザは、オンジのほかに、パロおばさんの参戦も期待している。
「テムさん」
「ん? なんだ?」
国都の地図をじっと眺めていたテムは、ダイザに話しかけられて振り向く。
「宿に部屋を取ってから、パロおばさんに会いに行きましょう」
「おぉ、いいぞ。ルキタスたちは、その後か?」
「はい。ただ、ルキタスたちは、日中は教練師の任に就いているはずです。ですから、ルキタスたちに会うのは今夜にして、それまでテムさんの仕事を終えてしまいましょう」
「俺の仕事? 何か、あったか?」
テムは、顔に疑問符を浮かべるが、「あぁ……」とダイザの言っている意味を理解する。
テムは、国都に入る前に、黒銀熊を仕留め、その毛皮を市場で売りさばくつもりでいた。
また、髪の毛を染めた際に採取したヘンナも、売りに出す予定であった。
「テム殿からお預かりしたものを持ってきます。馬は、どうしますか?」
ダイザとテムの会話を聞いたオンジが、一昨日預かった馬や毛皮、金貨が入った革袋について聞く。
「馬は、しばらく預かっておいてくれ。今は、毛皮とヘンナだけでいい」
「分かりました」
そう言って、部屋を出て行こうとしたオンジに、ダイザが言葉を付け加える。
「金貨を頼む。パロおばさんや皇衛兵に渡してやりたい」
「分かった。とりあえず、革袋ごと持ってくる」
オンジは、軽く手を上げてダイザへ答え、そのまま部屋を出て行く。
それを見送ったテムは、ダイザの肩をつつき、壁に掛けられた地図を指差す。
「この地図は、正確か?」
「そうですね……。だいぶ古いものですが、概ね正確だと思いますよ」
「貧民街は、数年でその姿をよく変えるという。新しい地図を手に入れなければ、奴らを取り逃がしてしまうぞ」
テムは、地図の右上にある貧民街を凝視し、入り組んだ道や主な建物を頭に叩き込んでいたのである。
「その辺りのことは、パロおばさんに頼みましょう。パロおばさんなら、新しい地図を入手していると思います」
「そうか? それならばいいが、奴らを取り逃がしたら、後を追うのが大変だぞ」
「分かっています。できる限りの手は打つつもりです」
ダイザは、地図を見上げて、顔を引き締める。
ダイザとて、失敗の可能性を十分に考えている。
しかし、皇衛兵の力を借りれば、取り逃がすことはないと確信めいた予感も抱いている。
それほど、皇衛兵には全幅の信頼を置いているのであり、現に皇衛兵は闇ギルドが相手にならないほど優秀である。
ダイザとテムは、オンジが戻ってくるまで、あれこれと闇ギルド襲撃に関する問題点を話し合い、その手筈を万全なものにするべく作戦を練り上げていく。
そして、オンジが部屋に戻ってきて、市場で売りに出す毛皮とヘンナを受け取る。
また、金貨が入った革袋は、その中身から金貨を10枚だけを受け取り、残りは再びオンジに預けることにする。
ダイザとテムは、オンジに礼を言ってからヴァールハイトを後にし、オンジに紹介された宿屋『木枯らし亭』へ行く。
そこは、貧民街と呼ばれる国都でも治安の悪い場所であり、胡散臭い者たちが集う酒場や奴隷商の取引所などがある。
「外見は、普通の民家です。ただ、地下で隣の民家とつながっているらしく、出入りは、主に裏道に面した隣の民家から行われています」
「はははっ。闇ギルドらしい」
「ただ、我々の調査でも、リビングデッドの長までは辿り着けていません。長と名乗る人物は、初老の男のようですが、その正体は今も不明です」
「そうか……」
テムは、そう言って考え込むが、何か妙案が思い浮かぶわけでもない。
テムは、隣のダイザをちらりと見て、ダイザの考えを目で問う。
「別に、いいと思いますよ。今は分からなくても、乗り込んでみてから調べれば、何か分かるかも知れませんから……」
「それも、そうだな。情報は、奴らから貰えばいいか?」
「はい。今は、組織を潰すことが優先です」
ダイザは、きっぱりと言明する。
普段温厚なダイザからは想像がつかない強い言葉だが、ダイザとて、マルザやハイト、デュークの仇を討ちたいのである。
「皇衛兵は、どうする?」
「手伝ってもらいましょう。敵を逃がしてしまっては、厄介ですので……」
「そうだな」
テムは、ダイザの意見に首肯し、指をパキパキと鳴らす。
テムも決行を前に気分が高揚してきたのか、やる気が漲っているのである。
「私もお手伝いをしますよ。人は何人必要ですか?」
オンジも、闇ギルドを潰す気なのである。
オンジは、テムに礼儀正しく尋ね、明日の決行を前に人集めを申し出る。
「どうする? 冒険者の手を借りるか?」
「いえ……」
テムの問いかけに、ダイザは、すぐに首を横に振る。
「今回は、あくまでも仇討ちです。これは、我々の手で行わなければならないことです。それに、冒険者を集めて、ことが漏れる事態は避けましょう」
「分かった。それなら、私だけでも参戦したいがいいか?」
オンジは、友人であるダイザに向かっては、途端にくだけた口調になる。
「それは、助かる。オンジがいれば、作戦が楽になる」
ダイザも、オンジには気安い話し方をし、オンジの参加を歓迎する。
ダイザとオンジは、簡単な打ち合わせをして、明日の日没後に貧民街の入り口で落ち合うことにする。
国都の貧民街は、北東の一角にあり、中央通りから数ブロック離れたところに位置する。
貧民街は、人の背丈ほどの板塀で隔離されており、その中は、道が複雑に入り組み、統一性のない建物が隙間なく建てられている。
そこは、地理感のないダイザとテムにとっては、迷宮のように感じられる場所であり、オンジのような道案内が不可欠となる。
ダイザは、オンジのほかに、パロおばさんの参戦も期待している。
「テムさん」
「ん? なんだ?」
国都の地図をじっと眺めていたテムは、ダイザに話しかけられて振り向く。
「宿に部屋を取ってから、パロおばさんに会いに行きましょう」
「おぉ、いいぞ。ルキタスたちは、その後か?」
「はい。ただ、ルキタスたちは、日中は教練師の任に就いているはずです。ですから、ルキタスたちに会うのは今夜にして、それまでテムさんの仕事を終えてしまいましょう」
「俺の仕事? 何か、あったか?」
テムは、顔に疑問符を浮かべるが、「あぁ……」とダイザの言っている意味を理解する。
テムは、国都に入る前に、黒銀熊を仕留め、その毛皮を市場で売りさばくつもりでいた。
また、髪の毛を染めた際に採取したヘンナも、売りに出す予定であった。
「テム殿からお預かりしたものを持ってきます。馬は、どうしますか?」
ダイザとテムの会話を聞いたオンジが、一昨日預かった馬や毛皮、金貨が入った革袋について聞く。
「馬は、しばらく預かっておいてくれ。今は、毛皮とヘンナだけでいい」
「分かりました」
そう言って、部屋を出て行こうとしたオンジに、ダイザが言葉を付け加える。
「金貨を頼む。パロおばさんや皇衛兵に渡してやりたい」
「分かった。とりあえず、革袋ごと持ってくる」
オンジは、軽く手を上げてダイザへ答え、そのまま部屋を出て行く。
それを見送ったテムは、ダイザの肩をつつき、壁に掛けられた地図を指差す。
「この地図は、正確か?」
「そうですね……。だいぶ古いものですが、概ね正確だと思いますよ」
「貧民街は、数年でその姿をよく変えるという。新しい地図を手に入れなければ、奴らを取り逃がしてしまうぞ」
テムは、地図の右上にある貧民街を凝視し、入り組んだ道や主な建物を頭に叩き込んでいたのである。
「その辺りのことは、パロおばさんに頼みましょう。パロおばさんなら、新しい地図を入手していると思います」
「そうか? それならばいいが、奴らを取り逃がしたら、後を追うのが大変だぞ」
「分かっています。できる限りの手は打つつもりです」
ダイザは、地図を見上げて、顔を引き締める。
ダイザとて、失敗の可能性を十分に考えている。
しかし、皇衛兵の力を借りれば、取り逃がすことはないと確信めいた予感も抱いている。
それほど、皇衛兵には全幅の信頼を置いているのであり、現に皇衛兵は闇ギルドが相手にならないほど優秀である。
ダイザとテムは、オンジが戻ってくるまで、あれこれと闇ギルド襲撃に関する問題点を話し合い、その手筈を万全なものにするべく作戦を練り上げていく。
そして、オンジが部屋に戻ってきて、市場で売りに出す毛皮とヘンナを受け取る。
また、金貨が入った革袋は、その中身から金貨を10枚だけを受け取り、残りは再びオンジに預けることにする。
ダイザとテムは、オンジに礼を言ってからヴァールハイトを後にし、オンジに紹介された宿屋『木枯らし亭』へ行く。
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