ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第5章

第31話 ヴァールハイト国都支部1

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 ティナがミショウ村で英精水を入手して島を出た頃、ダイザとテムは、国都の検問を無事に通過し、オンジが支部長を務めるヴァールハイトにいた。
 ヴァールハイトの建物は、国都の南東城門から西へ進んだところにあり、国都を南北に縦断する中央通りから1本脇道に入ったところに建っている。
 ヴァールハイトの敷地はかなり広めで、敷地内には訓練場や簡易な休憩所があり、ダイザとテムが訪問した際も、若い冒険者たちが教官から剣の使い方を教わり、快活な掛け声とともに汗を流していた。
 ギルド支部の建物は2階建てであり、1階は依頼の受付や達成報告などの手続き所となっている。
 また、2階には、幹部の部屋や会議室、事務室などが入っている。
 ダイザとテムは、受付の女性に声をかけ、オンジを訪問したことを告げると、すぐに2階にある応接室へ通され、そこでオンジの出迎えを受けたのである。
 二人は、オンジへ一昨日に別れてから起きたことを話し、キルビナ人のレティやファイナたちをゴイメールのレイドックへ託したことを伝える。
 一方、オンジは、ダイザとテムへ国都での滞在先となる宿屋『木枯らし亭』を紹介したのである。

「この宿は、旅行者がよく使うところで、ダイザやテム殿も気兼ねなく使うことができます」

 オンジは、応接室の壁に掛けられた国都の地図へ近づき、その右下に記されている赤い点を指差す。
 そこは、国都の南東城門に近い場所であり、ヴァールハイトの建物からも歩いてすぐの場所になる。

「この近くには、市場もあるんだな」

 テムは、『木枯らし亭』の西にある広い空間に書かれている文字を読み取る。
 そこには、『東部市場』と書かれており、その周囲には大衆酒場や湯処ゆどころ、食堂などの記号が記されている。

「えぇ。何か必要な物があれば、ここで一通りは揃います。また、市場の一角には自由売買所が設けられています。そこは、一日の出店料さえ支払えば、誰でもそこで商売をすることができますよ」

「ふ~ん……。俺の知らない間に、ずいぶんと便利になったんだな」

 テムの昔の記憶では、国都にある市場は、全て商業ギルドに管理されており、出店には商業ギルドの許可が必要だった。
 また、国都へ行商をしにきた者も、商業ギルドから行商許可証を発行してもらわなければ、持ってきた物を売ることができなかった。

「私のときには、すでに制度化されていましたよ」

 ダイザは、オンジの説明に感心していたテムに口を挟む。

「そうなのか?」

「はい。この制度は、ノール前国主が推し進めたものです。これにより、市場の公正さと活性化が図られ、商業ギルドに加盟していない者でも自由に売買ができるようになりました」

「それはいいな。俺たちのような田舎者でも、商売ができる」

 テムは、オンジに預けていた黒銀熊の毛皮とヘンナを売るつもりである。
 ただ、ゴイメールから奪い取った馬たちは、売るのが惜しいほどの駿馬であったため、ミショウ村に連れて帰ることにしている。

「でも……。本当に、一軒家でなくて良かったのですか?」

 オンジは、最初、ダイザやテムに一軒家を紹介したのである。
 しかし、ダイザもテムも、オンジと別れてから考えが変わったらしく、拠点を宿屋にし、いつでも国都から退去できるようにしたいと申し出たのである。
 その理由は、国都西にある岩窟地帯にキルビナ人のレティやファイナたちを置いてきたからである。
 そのことを聞かされたオンジも、納得はしたが、隠密行動をするためには、人目につかない拠点の方が都合が良いと思い、再度確認したのである。

「宿屋で構わない。決行は、明日の夜にするからな」

「明日!? これまた、急ですね?」

 テムが言う明日とは、ミショウ村を襲撃した闇ギルドのリビングデッドを潰す日である。
 ダイザとテムは、ヴァールハイトを尋ねる前に、遅めの朝食を摂るため、屋台で腹ごしらえをしている。
 そのとき、二人の後ろを、甲冑を着込んだ国都兵が隊列を組んで通り過ぎていった。
 それを見たダイザとテムは、国都の警備がこれ以上厳しくなる前に、事を済まして、国都を立ち去るべきであるという結論に達したのである。
 また、二人には、奴隷に落とされたキルビナ人を虐待していた奴隷商を懲らしめるという新たな目的もできている。
 これまでのんびりと行動していた分、これからは迅速に事を起こし、ヒュブのことも処理しなければならない。

「そこかしこに、兵が溢れているからな。決行は、早いほうがいいのさ。オンジ殿は、リビングデッドのアジトをもう掴んだんだろ?」

「えぇ、ここですよ」

 オンジは、地図の右上を指差し、国都の北東にある貧民街の隅をトントンと指先で叩く。
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