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凍雪国編第5章
第21話 英精水の生成1
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フレイとティナは、モールたちが昼食を作り終えるまで、縁側で雑談をして過ごしていた。
フレイにとって、ティナの話は、どれも初めて聞くことばかりであり、大変興味を惹かれたが、難解な言葉も多く、分からないことが多々あった。
しかし、ティナは、フレイが顔をきょとんとさせるたびに、その都度言葉を付け加え、フレイの理解が追いつくように気を配った。
そのお陰で、フレイは、大陸での知識が増えていき、島の外の暮らしに、だんだんと想像が及ぶようになっていった。
また、ティナが話したことのなかには、モールやメリングも知らないディスガルド国以外の情勢も含まれており、フレイは、国という仕組みについても、朧気に理解ができるようになっていった。
そうして、いつしかティナがフレイへ講義を行うような話しの流れができつつある頃、戦闘服を脱ぎ、平服に戻ったモールが二人の背後にふらりと現れ、二人に昼食の用意が整ったことを告げたのである。
「少しの間に、ずいぶんと仲良しになったのぅ」
モールは、微笑ましそうにフレイとティナを見つめ、ティナの顔つきが柔らかくなっていることに驚く。
「うん。ティナは、何でも知っていて、すごいよ。僕よりも年が下なのにね」
フレイは、ティナを尊敬の眼差しで見て、うんうんとしきりに頷く。
フレイは、現在15歳であり、14歳のティナとは、1つ年齢が上になる。
しかし、ティナは、10歳になる前から冒険者を始めており、数多の修羅場を潜り抜け、☆7冒険者まで登り詰めている。
ミショウ村でのんびりと育ったフレイとは、その知識量に差があって当然なのである。
「フレイには、有意義な時間になったようじゃの。むろん、お主にもな」
モールは、ティナを見下ろして、にやりと笑う。
モールは、どこか心を閉ざした感じのあるティナが、柔らかい笑みを浮かべていたことに安心したのである。
だが、ティナは、モールの視線を受けて途端に表情を険しくし、ふんっと鼻を鳴らして、そっぽを向いてしまう。
「わらわをからかうでない」
その言葉には、僅かに苛立ちが含まれている。
ティナ自身、フレイとの会話は楽しいものであった。
しかし、そのことをわざわざ指摘されると、煩わしさが先に立つのである。
まして、その指摘をした本人が紅の操者であるモールとなると、苛立ちも沸々と湧き上がってきてしまう。
ティナは、庭を見つめたまま沈黙し、「それ以上何も言うな」という空気を醸し出す。
「はははっ。素直になれん奴じゃな。まぁ、よい。それよりも、飯の支度ができあがった。食べに来るがよい」
モールは、ティナの様子に構わず、楽しげに言い、部屋へ入るように二人を手招きする。
そして、先に部屋へ入り、すでに着席しているメリングとキントの向かいの側の席を指差す。
縁側から部屋へ戻ってきたティナは、そこでモールの席がないことに気がつく。
「お主の席は、どこじゃ?」
「わしの席はない。わしは、すでに食べ終え、これから出かけてくるでな」
「どこにじゃ? ここは、お主の家じゃろう。わらわたちを置いて、どこへ行くというのじゃ?」
ティナは、不信の目をモールへ向ける。
ティナの目は、心なしか細められており、警戒している様子が垣間見える。
「姉者のところじゃ。わしは、少々調べものをしてくる」
「姉者? お主の姉がここにおるのか?」
「おるとも。わしの姉メラニアは、帝都で研鑽を積んだ薬師じゃよ」
「ほぅ……」
ティナは、モールの言葉を聞いて、抱きかけた警戒心を霧散させる。
帝都の薬師とは、大陸ではそれなりの権威を持つ存在である。
特に、医術の拙い地方都市では、帝都の薬師は、最高待遇で迎え入れられることが多く、その発言力も地方領主に勝ることがある。
帝都の冒険者ギルドに所属するティナは、当然そのことを熟知しており、モールの行動を理解する。
(この村には、それほどの者がおるのじゃな。不思議な村じゃの)
ティナは、モールへ了解の意を手振りで示し、メリングの前の席に腰掛ける。
フレイは、ティナの隣へ腰掛け、向かいのキントへ「美味しそうだねぇ」と暢気に声をかける。
料理は、メリングとキントが手作りしたもので、セキガ山で採れる山菜炒めと狼肉の蒸し焼き、畑で採れた青菜のスープがそれぞれの器に盛り付けられており、それに玄米がついている。
「フレイは、食事を摂ったら、ティナを姉者の家へ連れてきてくれ。メリングとキントは、後片付けを頼む」
「紅寿様。我々も、その後に赴けばよろしいのですか?」
「いや。姉者とは内密の話をする。メリングとキントは、ここで待っていてくれ」
モールは、申し訳なさそうにメリングに断りを入れる。
メリングは、モールの言う内密の話が気になったが、それは目の前にいるティナに関することであると推察されたので、それ以上は何も言わずに静かに頷く。
キントも、聞き分けよく頷き、出すぎた発言はしないように気をつけている。
「お主は、食事を楽しんでくれ。わしは、一足先に行っておるでな」
モールは、そうティナへ言いおき、さっさと庭へ降りて行ってしまう。
モールを見送ったティナは、フレイたちの顔を見渡して、ぼそりと呟く。
「お主たちも、大変じゃの」
フレイにとって、ティナの話は、どれも初めて聞くことばかりであり、大変興味を惹かれたが、難解な言葉も多く、分からないことが多々あった。
しかし、ティナは、フレイが顔をきょとんとさせるたびに、その都度言葉を付け加え、フレイの理解が追いつくように気を配った。
そのお陰で、フレイは、大陸での知識が増えていき、島の外の暮らしに、だんだんと想像が及ぶようになっていった。
また、ティナが話したことのなかには、モールやメリングも知らないディスガルド国以外の情勢も含まれており、フレイは、国という仕組みについても、朧気に理解ができるようになっていった。
そうして、いつしかティナがフレイへ講義を行うような話しの流れができつつある頃、戦闘服を脱ぎ、平服に戻ったモールが二人の背後にふらりと現れ、二人に昼食の用意が整ったことを告げたのである。
「少しの間に、ずいぶんと仲良しになったのぅ」
モールは、微笑ましそうにフレイとティナを見つめ、ティナの顔つきが柔らかくなっていることに驚く。
「うん。ティナは、何でも知っていて、すごいよ。僕よりも年が下なのにね」
フレイは、ティナを尊敬の眼差しで見て、うんうんとしきりに頷く。
フレイは、現在15歳であり、14歳のティナとは、1つ年齢が上になる。
しかし、ティナは、10歳になる前から冒険者を始めており、数多の修羅場を潜り抜け、☆7冒険者まで登り詰めている。
ミショウ村でのんびりと育ったフレイとは、その知識量に差があって当然なのである。
「フレイには、有意義な時間になったようじゃの。むろん、お主にもな」
モールは、ティナを見下ろして、にやりと笑う。
モールは、どこか心を閉ざした感じのあるティナが、柔らかい笑みを浮かべていたことに安心したのである。
だが、ティナは、モールの視線を受けて途端に表情を険しくし、ふんっと鼻を鳴らして、そっぽを向いてしまう。
「わらわをからかうでない」
その言葉には、僅かに苛立ちが含まれている。
ティナ自身、フレイとの会話は楽しいものであった。
しかし、そのことをわざわざ指摘されると、煩わしさが先に立つのである。
まして、その指摘をした本人が紅の操者であるモールとなると、苛立ちも沸々と湧き上がってきてしまう。
ティナは、庭を見つめたまま沈黙し、「それ以上何も言うな」という空気を醸し出す。
「はははっ。素直になれん奴じゃな。まぁ、よい。それよりも、飯の支度ができあがった。食べに来るがよい」
モールは、ティナの様子に構わず、楽しげに言い、部屋へ入るように二人を手招きする。
そして、先に部屋へ入り、すでに着席しているメリングとキントの向かいの側の席を指差す。
縁側から部屋へ戻ってきたティナは、そこでモールの席がないことに気がつく。
「お主の席は、どこじゃ?」
「わしの席はない。わしは、すでに食べ終え、これから出かけてくるでな」
「どこにじゃ? ここは、お主の家じゃろう。わらわたちを置いて、どこへ行くというのじゃ?」
ティナは、不信の目をモールへ向ける。
ティナの目は、心なしか細められており、警戒している様子が垣間見える。
「姉者のところじゃ。わしは、少々調べものをしてくる」
「姉者? お主の姉がここにおるのか?」
「おるとも。わしの姉メラニアは、帝都で研鑽を積んだ薬師じゃよ」
「ほぅ……」
ティナは、モールの言葉を聞いて、抱きかけた警戒心を霧散させる。
帝都の薬師とは、大陸ではそれなりの権威を持つ存在である。
特に、医術の拙い地方都市では、帝都の薬師は、最高待遇で迎え入れられることが多く、その発言力も地方領主に勝ることがある。
帝都の冒険者ギルドに所属するティナは、当然そのことを熟知しており、モールの行動を理解する。
(この村には、それほどの者がおるのじゃな。不思議な村じゃの)
ティナは、モールへ了解の意を手振りで示し、メリングの前の席に腰掛ける。
フレイは、ティナの隣へ腰掛け、向かいのキントへ「美味しそうだねぇ」と暢気に声をかける。
料理は、メリングとキントが手作りしたもので、セキガ山で採れる山菜炒めと狼肉の蒸し焼き、畑で採れた青菜のスープがそれぞれの器に盛り付けられており、それに玄米がついている。
「フレイは、食事を摂ったら、ティナを姉者の家へ連れてきてくれ。メリングとキントは、後片付けを頼む」
「紅寿様。我々も、その後に赴けばよろしいのですか?」
「いや。姉者とは内密の話をする。メリングとキントは、ここで待っていてくれ」
モールは、申し訳なさそうにメリングに断りを入れる。
メリングは、モールの言う内密の話が気になったが、それは目の前にいるティナに関することであると推察されたので、それ以上は何も言わずに静かに頷く。
キントも、聞き分けよく頷き、出すぎた発言はしないように気をつけている。
「お主は、食事を楽しんでくれ。わしは、一足先に行っておるでな」
モールは、そうティナへ言いおき、さっさと庭へ降りて行ってしまう。
モールを見送ったティナは、フレイたちの顔を見渡して、ぼそりと呟く。
「お主たちも、大変じゃの」
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