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凍雪国編第5章
第18話 ティナの好奇心3
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モールは、机の上の甕を持ち上げ、先に部屋を出て行ったメリングとキントの後を追い、すぐに部屋を出て行ってしまう。
後に残されたティナは、しばしの沈黙後、軽いため息をつく。
モールは、一緒にいる者へ言葉をかけずに突然行動を起こすことが多い。
ティナは、モールとは今日会ったばかりだが、急に甕を取りに行ったり、突然庭に出たりして、モールの行動パターンが何となく読めてきている。
しかしそれでも、突然部屋に残された気持ちは、そのまま心に止めておきがたく、ついついため息をついてしまったのである。
そして、一緒に部屋へ残されたフレイの方を向き、初対面ながら、つい悪態までついてしまう。
「なんじゃ、あやつは? いつも、あぁなのか?」
「う、うん」
「困った奴じゃな」
ティナは、ふぅっと再びため息をつき、フレイに向かって右手を差し出す。
「わらわは、ティナ・アトワイトという。よろしくな」
「う、うん。ぼ、僕は、フレイ……」
ティナからの突然の自己紹介に慌てたフレイは、すぐに右手を出して、ティナの手を握る。
ふふふっと嫣然と笑ったティナは、フレイの手をしっかりと握り締め、勢いよく自分の手元へ引き寄せる。
「わっ!」
ティナは、フレイの右手中指から魔防布を取り外し、中指に嵌められている指輪を見て言う。
「ほほぅ……。これは、オセイアの秘石じゃな」
ティナは、したり顔で呟く。
だが、急に引き寄せられ、ティナの顔に近づいたフレイは、どぎまぎして顔を赤らめてしまう。
ティナの背は、フレイよりも僅かに小さく、指輪を覗き込んで下を向いたティナの顔が、フレイの胸元に来たのである。
「ん? どうしたのじゃ?」
「え、えっと……。ぼ、僕、村の人以外には、な、慣れてなくて……」
「おっ、そうか。それは、すまんことをしたの」
ティナは、魔防布を元に戻し、フレイの右手を放す。
急いで手を引っ込めたフレイは、左手でオセイアの秘石を包み込み、ティナの視線から隠そうとする。
「心配せずともよい。何も、奪い取りはせん」
「本当?」
「わらわをなんじゃと思っておるんじゃ? 追剥ではないぞ」
両手に腰を当てたティナは、ふんっと鼻息を荒くし、フレイを真正面から見つめる。
その切れ長の目は、フレイに優しく笑いかけており、怒ったようなポーズが見せかけだということを物語っている。
「追剥? よく分からないけど、取ったりしない?」
「うむ。多少無礼を働いたが、それを欲したりはせぬ。わらわは、お主の魔力波長の秘密が知りたかっただけじゃ。ふふふ……」
ティナは、両手を腰から離し、フレイに向かって縁側へ行こうと誘いの手を差し伸べる。
しかし、フレイは、その手は取らずに、何も言わずにティナの側を通り抜け、先に縁側へ腰を掛けてしまう。
「どうしたのじゃ? 怒っておるのか?」
フレイの隣に腰を下ろしたティナは、下からフレイの顔を覗き見る。
フレイの顔は、まだ赤面しており、ティナの視線に戸惑いの表情を浮かべる。
フレイは、ティナに対して、何を言えばいいのか、分からないのである。
しかし、ティナは、フレイが何も言わないため、一人ふむと頷いて、庭へ視線を移す。
そうして、しばらくお互いに沈黙を守っていたが、ティナは、フレイの気持ちが落ち着いた頃を見計らって喋り出す。
「ここは、長閑で良いところじゃな。わらわの生まれ故郷に似ておる」
「……そうなの?」
「うむ。わらわの村も、山の麓にあるし、豊かな自然に囲まれておる。しかも、ここと同じぐらい田舎じゃ」
「へぇ~。じゃぁ、すぐ近くに動物も、たくさんいるんだね」
「そうじゃな。じゃが、ここほど大きな獣はおらんぞ。この島は、ちょっと変わっておる」
ミショウ村の周辺に生息する獣は、濃い魔素の影響により大型化している。
また、獣たちの中には、大陸の獣とは比べ物にならないほど、獰猛で、攻撃性を有しているものもいる。
「ふ~ん……。僕は、生まれたときからここにいるから、どこが変なのか分からないよ」
「じゃろうな。ここの村の人々も、ちょっと変わっておるし、お主は、特に変わりもんじゃの」
「そうなの? 僕、どこかおかしい?」
フレイは、そう言って、自分の顔や手足を触って、ティナを見る。
「いやいや。見た目のことを言っておるのではない。お主の魔力やその属性のことじゃ」
「えっ! 僕の属性が分かるの!?」
「凡そはの。わらわとて、それなりに魔力や魔法に精通しておる。お主の非凡さが分かるぞ」
「非凡?」
「人と違っておるということじゃ。お主は、稀有な属性の持ち主じゃの」
ティナは、フレイが金雷属性や蒼炎属性を持っていることに気がついている。
また、寵獣属性のことは、はっきりとは掴めていないものの、稀少属性を持っていることは見抜いている。
何より、フレイは、ティナの側にいて、恐怖を抱かぬほど魔力量に優れている。
「お主は、わらわのことを怖がらぬのじゃな?」
「えっ?」
突然意表を突かれたフレイは、話の流れについていけず、目をパチクリとさせてしまう。
「お主は、わらわが怖くはないのか?」
「う、うん。別に、何とも思わないよ」
「そうか。それならば、よい……」
ティナは、フレイの顔を見て、嬉しそうに含み笑いをしてから、空を見上げる。
後に残されたティナは、しばしの沈黙後、軽いため息をつく。
モールは、一緒にいる者へ言葉をかけずに突然行動を起こすことが多い。
ティナは、モールとは今日会ったばかりだが、急に甕を取りに行ったり、突然庭に出たりして、モールの行動パターンが何となく読めてきている。
しかしそれでも、突然部屋に残された気持ちは、そのまま心に止めておきがたく、ついついため息をついてしまったのである。
そして、一緒に部屋へ残されたフレイの方を向き、初対面ながら、つい悪態までついてしまう。
「なんじゃ、あやつは? いつも、あぁなのか?」
「う、うん」
「困った奴じゃな」
ティナは、ふぅっと再びため息をつき、フレイに向かって右手を差し出す。
「わらわは、ティナ・アトワイトという。よろしくな」
「う、うん。ぼ、僕は、フレイ……」
ティナからの突然の自己紹介に慌てたフレイは、すぐに右手を出して、ティナの手を握る。
ふふふっと嫣然と笑ったティナは、フレイの手をしっかりと握り締め、勢いよく自分の手元へ引き寄せる。
「わっ!」
ティナは、フレイの右手中指から魔防布を取り外し、中指に嵌められている指輪を見て言う。
「ほほぅ……。これは、オセイアの秘石じゃな」
ティナは、したり顔で呟く。
だが、急に引き寄せられ、ティナの顔に近づいたフレイは、どぎまぎして顔を赤らめてしまう。
ティナの背は、フレイよりも僅かに小さく、指輪を覗き込んで下を向いたティナの顔が、フレイの胸元に来たのである。
「ん? どうしたのじゃ?」
「え、えっと……。ぼ、僕、村の人以外には、な、慣れてなくて……」
「おっ、そうか。それは、すまんことをしたの」
ティナは、魔防布を元に戻し、フレイの右手を放す。
急いで手を引っ込めたフレイは、左手でオセイアの秘石を包み込み、ティナの視線から隠そうとする。
「心配せずともよい。何も、奪い取りはせん」
「本当?」
「わらわをなんじゃと思っておるんじゃ? 追剥ではないぞ」
両手に腰を当てたティナは、ふんっと鼻息を荒くし、フレイを真正面から見つめる。
その切れ長の目は、フレイに優しく笑いかけており、怒ったようなポーズが見せかけだということを物語っている。
「追剥? よく分からないけど、取ったりしない?」
「うむ。多少無礼を働いたが、それを欲したりはせぬ。わらわは、お主の魔力波長の秘密が知りたかっただけじゃ。ふふふ……」
ティナは、両手を腰から離し、フレイに向かって縁側へ行こうと誘いの手を差し伸べる。
しかし、フレイは、その手は取らずに、何も言わずにティナの側を通り抜け、先に縁側へ腰を掛けてしまう。
「どうしたのじゃ? 怒っておるのか?」
フレイの隣に腰を下ろしたティナは、下からフレイの顔を覗き見る。
フレイの顔は、まだ赤面しており、ティナの視線に戸惑いの表情を浮かべる。
フレイは、ティナに対して、何を言えばいいのか、分からないのである。
しかし、ティナは、フレイが何も言わないため、一人ふむと頷いて、庭へ視線を移す。
そうして、しばらくお互いに沈黙を守っていたが、ティナは、フレイの気持ちが落ち着いた頃を見計らって喋り出す。
「ここは、長閑で良いところじゃな。わらわの生まれ故郷に似ておる」
「……そうなの?」
「うむ。わらわの村も、山の麓にあるし、豊かな自然に囲まれておる。しかも、ここと同じぐらい田舎じゃ」
「へぇ~。じゃぁ、すぐ近くに動物も、たくさんいるんだね」
「そうじゃな。じゃが、ここほど大きな獣はおらんぞ。この島は、ちょっと変わっておる」
ミショウ村の周辺に生息する獣は、濃い魔素の影響により大型化している。
また、獣たちの中には、大陸の獣とは比べ物にならないほど、獰猛で、攻撃性を有しているものもいる。
「ふ~ん……。僕は、生まれたときからここにいるから、どこが変なのか分からないよ」
「じゃろうな。ここの村の人々も、ちょっと変わっておるし、お主は、特に変わりもんじゃの」
「そうなの? 僕、どこかおかしい?」
フレイは、そう言って、自分の顔や手足を触って、ティナを見る。
「いやいや。見た目のことを言っておるのではない。お主の魔力やその属性のことじゃ」
「えっ! 僕の属性が分かるの!?」
「凡そはの。わらわとて、それなりに魔力や魔法に精通しておる。お主の非凡さが分かるぞ」
「非凡?」
「人と違っておるということじゃ。お主は、稀有な属性の持ち主じゃの」
ティナは、フレイが金雷属性や蒼炎属性を持っていることに気がついている。
また、寵獣属性のことは、はっきりとは掴めていないものの、稀少属性を持っていることは見抜いている。
何より、フレイは、ティナの側にいて、恐怖を抱かぬほど魔力量に優れている。
「お主は、わらわのことを怖がらぬのじゃな?」
「えっ?」
突然意表を突かれたフレイは、話の流れについていけず、目をパチクリとさせてしまう。
「お主は、わらわが怖くはないのか?」
「う、うん。別に、何とも思わないよ」
「そうか。それならば、よい……」
ティナは、フレイの顔を見て、嬉しそうに含み笑いをしてから、空を見上げる。
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