468 / 492
凍雪国編第5章
第17話 ティナの好奇心2
しおりを挟む
モールは、メリングたちを庭の端で出迎え、家の中にいるティナのことを簡単に教える。
そして、「ティナには敵意がなく、恐れられることを怖がっておる」と三人に説明し、「普段通りに接してやってくれ」と頼む。
メリングは、モールから「『天涯の遊子』が来ておる」と告げられたとき、瞬時にティナの正体を理解する。
しかし、キントとフレイは、大陸で出回っている情報などには疎いため、その後の「熟練の冒険者じゃ」という説明を聞いて、素直に目を輝かせる。
「お主たちは、余計なことを言うでないぞ。この村のことは、秘密じゃからな」
心が浮つき始めたフレイは、モールの話を半分に聞いている。
だが、キントは、それを横から注意し、兄弟子らしく落ち着いた態度でモールへ了解の意を示す。
「フレイも、分かったの?」
「う、うん。何に気をつければいいのか、よく分かんないけど、村のことは喋っちゃ駄目なんだね」
フレイは、こくこくと素直に頷き、隣のキントにも頷いておく。
その様子を見たモールは、やや不安げな表情をしながらも、メリングにも注意をしておく。
「お主は、そう警戒してはいかん。もっと力を抜き、ティナに優しく接してやれ」
「はい。気をつけます」
「うむ。では、ティナが待っておる。皆で昼飯にするぞ」
太陽はすでに中天を過ぎており、春の暖かな日差しがさんさんと地上に降り注いでいる。
モールたちがいる庭には、セキガ山の山頂から風が吹き降り、四人は、乾いた春風を感じながら家の中へと入る。
モールは、メリングたちを連れてティナが待つ部屋に入る。
ティナは、部屋の中央に両手を後ろで組み合わせて立っており、モールの後ろに続くメリングたちの顔を眺めていく。
(ほぅ……。隻眼の水禍がおったのか。金雷の刀姫といい、この村とどういう関わりがあるのか、気になるところじゃの)
ティナは、名のある冒険者であれば、一通り記憶している。
まして、オンジの副官であったメリングについては、大方の予想を立てていた。
ただ、メリングとは、これまで面識がなかったため、その魔力波長を感知していても、顔を見るまでは誰だか分からなかったのである。
「待たせたの」
「うむ」
ティナは、モールの声掛けに鷹揚に頷く。
そして、一瞬だけ、その視線をフレイの右手中指に向ける。
「この者たちは、わしの弟子たちじゃ。こっちは、かつての部下じゃな」
モールは、キントとフレイの頭に手を置いて、ティナに向かって頭を下げさせ、メリングに対しては目で挨拶をするように促す。
「お初にお目にかかります。ティナ様のお噂は、かねがね拝聴いたしております」
メリングは、冒険者の作法に則り、別格な存在である☆7冒険者に対して敬意を払う。
だが、ティナは、煩わしそうに首を横に振り、それを断る。
「ティナでよい。それに、敬語も不要じゃ」
「分かった」
メリングは、すぐに冒険者の口調に戻すとともに、ティナの寛容さを知り、陰ながら胸を撫で下ろす。
☆7冒険者の中には、話しかけることすら憚られるほどの威圧感を放つ者もいるのである。
「私も、この村の訪問者だ。紅寿様のもとでご厄介になっている」
「隻眼の水禍よ。お主のことは、存じておる。そこの荷物も、お主のものじゃな」
ティナは、部屋の隅に置いてある三段の箪笥の上にある麻袋を見て言う。
「そうだ」
「なるほど。ようやく、合点がいった。お主たちは、その男の元部下じゃったか。なるほど、なるほど」
ティナは、オンジとメリングがミショウ村の者と行動していることに納得する。
もっとも、なぜ行動しているかについては、相変わらず理解ができないが、二人とこの村との関係性が分かったので、善しとしたのである。
「ティナよ。その辺りのことは、後で話してやろう。今は、腹ごしらえが先じゃ」
そう言ってモールは、ティナの返事を待たずに、メリングとキントへ昼食の準備をするように頼む。
そうして、フレイに向かっては、「お主は、ティナの相手じゃ」といい、フレイの背中を押して、ティナの前に進ませる。
「わしは、その甕を片付けてくる。ティナとフレイは、縁側で待っておれ」
そして、「ティナには敵意がなく、恐れられることを怖がっておる」と三人に説明し、「普段通りに接してやってくれ」と頼む。
メリングは、モールから「『天涯の遊子』が来ておる」と告げられたとき、瞬時にティナの正体を理解する。
しかし、キントとフレイは、大陸で出回っている情報などには疎いため、その後の「熟練の冒険者じゃ」という説明を聞いて、素直に目を輝かせる。
「お主たちは、余計なことを言うでないぞ。この村のことは、秘密じゃからな」
心が浮つき始めたフレイは、モールの話を半分に聞いている。
だが、キントは、それを横から注意し、兄弟子らしく落ち着いた態度でモールへ了解の意を示す。
「フレイも、分かったの?」
「う、うん。何に気をつければいいのか、よく分かんないけど、村のことは喋っちゃ駄目なんだね」
フレイは、こくこくと素直に頷き、隣のキントにも頷いておく。
その様子を見たモールは、やや不安げな表情をしながらも、メリングにも注意をしておく。
「お主は、そう警戒してはいかん。もっと力を抜き、ティナに優しく接してやれ」
「はい。気をつけます」
「うむ。では、ティナが待っておる。皆で昼飯にするぞ」
太陽はすでに中天を過ぎており、春の暖かな日差しがさんさんと地上に降り注いでいる。
モールたちがいる庭には、セキガ山の山頂から風が吹き降り、四人は、乾いた春風を感じながら家の中へと入る。
モールは、メリングたちを連れてティナが待つ部屋に入る。
ティナは、部屋の中央に両手を後ろで組み合わせて立っており、モールの後ろに続くメリングたちの顔を眺めていく。
(ほぅ……。隻眼の水禍がおったのか。金雷の刀姫といい、この村とどういう関わりがあるのか、気になるところじゃの)
ティナは、名のある冒険者であれば、一通り記憶している。
まして、オンジの副官であったメリングについては、大方の予想を立てていた。
ただ、メリングとは、これまで面識がなかったため、その魔力波長を感知していても、顔を見るまでは誰だか分からなかったのである。
「待たせたの」
「うむ」
ティナは、モールの声掛けに鷹揚に頷く。
そして、一瞬だけ、その視線をフレイの右手中指に向ける。
「この者たちは、わしの弟子たちじゃ。こっちは、かつての部下じゃな」
モールは、キントとフレイの頭に手を置いて、ティナに向かって頭を下げさせ、メリングに対しては目で挨拶をするように促す。
「お初にお目にかかります。ティナ様のお噂は、かねがね拝聴いたしております」
メリングは、冒険者の作法に則り、別格な存在である☆7冒険者に対して敬意を払う。
だが、ティナは、煩わしそうに首を横に振り、それを断る。
「ティナでよい。それに、敬語も不要じゃ」
「分かった」
メリングは、すぐに冒険者の口調に戻すとともに、ティナの寛容さを知り、陰ながら胸を撫で下ろす。
☆7冒険者の中には、話しかけることすら憚られるほどの威圧感を放つ者もいるのである。
「私も、この村の訪問者だ。紅寿様のもとでご厄介になっている」
「隻眼の水禍よ。お主のことは、存じておる。そこの荷物も、お主のものじゃな」
ティナは、部屋の隅に置いてある三段の箪笥の上にある麻袋を見て言う。
「そうだ」
「なるほど。ようやく、合点がいった。お主たちは、その男の元部下じゃったか。なるほど、なるほど」
ティナは、オンジとメリングがミショウ村の者と行動していることに納得する。
もっとも、なぜ行動しているかについては、相変わらず理解ができないが、二人とこの村との関係性が分かったので、善しとしたのである。
「ティナよ。その辺りのことは、後で話してやろう。今は、腹ごしらえが先じゃ」
そう言ってモールは、ティナの返事を待たずに、メリングとキントへ昼食の準備をするように頼む。
そうして、フレイに向かっては、「お主は、ティナの相手じゃ」といい、フレイの背中を押して、ティナの前に進ませる。
「わしは、その甕を片付けてくる。ティナとフレイは、縁側で待っておれ」
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
侯爵夫人は子育て要員でした。
シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。
楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。
初恋も一瞬でさめたわ。
まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。
離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる