456 / 492
凍雪国編第5章
第5話 モールとティナの手合い1
しおりを挟む
モールは、ティナの答えを聞いて破顔する。
「はははっ。面白いのぅ……。人は、長く生きてみるもんじゃな。あのロンギマルの娘に出会えるとはのぅ……」
「お主、父者を知っておるのか?」
「あぁ、知っておる。いや、詳しくは知らん」
「どっちじゃ? 意味不明なことを言うでない」
僅かに口をへの字に曲げたティナからは、年相応の可愛らしさが垣間見える。
「なに。お主の父とは、戦場で出会ったことがあるだけじゃ。じゃから、剣を通してしか、お主の父を知らん」
ティナは、モールの言葉を聞いて、父からかつて聞かされていたことを思い起こす。
(確か、父者は……)
ティナは、目の前にいるモールの出で立ちをしげしげと眺める。
モールの着る紅のローブは、膝丈まである長いローブで、魔法師が着るものとしては、かなり長い。
また、ローブのしたから見える朱色に縁取りされた鎧は、黒鋼の素材で作られており、剣や矢を受け流す流線型模様が至るところに施されている。
モールの装備は、どこかの国の正規兵のものではなく、それぞれが特注した品々であることが分かる。
「そうか。お主が、紅の操者か……。生きておったのじゃな」
紅の操者とは、モールの二つ名である。
モールは、紅のローブを纏い、戦場で魔法を駆使して戦う姿から、紅の操者と謳われていた。
しかし、ある時期から噂が忽然と消えてしまったので、死亡説が定着していたのである。
「こりゃ。人を勝手に殺すではない」
「ふふふっ。であれば、それだけの魔力波も頷けるの」
ティナは、父から戦場で紅の操者を仕留め損なったと伝え聞いている。
また、ティナは、幾度も父の残念がる姿を見てきている。
ただし、ロンギマルには、モールへの私怨はなく、純粋に好敵手を倒しきれなかったことを悔いていたのである。
「父者からお主のことを聞かされておる。良い機会じゃ。わらわが一太刀食らわせてやろう」
ティナは、腰に下げていた剣を引き抜き、覇気を先鋭化していく。
ティナの剣からは、尋常ではないほどの剣気が立ち上る。
「ほぅ……。やる気じゃな」
ティナの目を見たモールは、鞘から紅剣を引き抜き、右半身の構えを取る。
「あくまでも手合いじゃ。わらわは、魔法は使わん」
「よかろう。受けて立つぞ」
モールは、威嚇のために出した魔力波を遮断し、魔力を魔臓へ仕舞い込む。
ティナも、それに応えるかのように魔力波を消し、腰を低く落とす。
ざわめいていた木々は、急に静寂を取り戻し、辺りには重苦しい空気が漂い始める。
「ロンギマルの娘よ。父がかつて倒せなかったわしの剣を受けてみるがよい」
「わらわは、いまだ父には及ばぬ。じゃが、年老いた剣には負けるつもりはない」
先制は、ティナが取る。
モールの間合いに一気に踏み込み、横薙ぎの斬撃を放ち、追撃の蹴りを繰り出す。
軽く飛び退ったモールは、ティナの剣を難なくやり過ごし、続いてくる蹴りに肘打ちを食らわす。
ガンッ
硬い金属的な音がし、モールがやや顔をしかめる。
ティナの脛には、脛当てが装着されており、少しだぶついたズボンの上からでは見抜けなかったのである。
「無闇に乙女の柔肌に触れるものではない」
微小を浮かべたティナは、蹴り足を素早く引き戻し、代わりに地面を蹴ってモールの背後へ回り込む。
「はははっ。打撃を受けるとは、まだまだじゃの。超一流は、かわすものじゃ」
突き出されたティナの剣を、身を翻すことでかわしたモールは、がら空きになったティナの背中に反撃の斬撃を振り下ろす。
キィンッ
素早く剣を背中に回したティナが、モールの重い斬撃を弾き返す。
キィキィィィン
モールは、体勢の整わないティナへ立て続けに斬撃を飛ばすが、悉く弾かれてしまう。
モールは、一瞬楽しげに目を細め、軽い足捌きでちょこまかと動き回るティナへ追撃の剣を見舞う。
しかし、ティナは、幼女の細腕によくもそれほどの力があったなと思わせるほど簡単に、モールの重い一撃を弾き、受け流していく。
涼しい顔でティナは、モールの剣筋を見極めつつ、突如として体を回転させ、手首と肘の返しを利用し、モールの胸元へ剣を伸ばす。
モールは、それを軽く横にステップを踏んでかわし、懐へ飛び込んできたティナへ三宝滅の秘技・八方連撃を繰り出す。
ギギギギギギギギィィィンッ
モールは、八方向からの剣撃を一度に放つ。
だが、ティナもモールの剣速に負けじと、同じ八方連撃を繰り出し、モールの剣を全て弾き返す。
「!」
モールは、大きく後ろへ跳び、ティナから距離を開ける。
ティナは、八方連撃の後に突きを繰り出し、その姿勢のまま動きを止める。
ティナの顔には、不敵な笑みが湛えており、息一つ乱れていない。
「どうしたのじゃ? 三宝滅は、何もお主だけが使える技ではないぞ」
ゆっくりと自然体に戻ったティナは、大きく目を見開いて驚いているモールへ言い放つ。
「はははっ。面白いのぅ……。人は、長く生きてみるもんじゃな。あのロンギマルの娘に出会えるとはのぅ……」
「お主、父者を知っておるのか?」
「あぁ、知っておる。いや、詳しくは知らん」
「どっちじゃ? 意味不明なことを言うでない」
僅かに口をへの字に曲げたティナからは、年相応の可愛らしさが垣間見える。
「なに。お主の父とは、戦場で出会ったことがあるだけじゃ。じゃから、剣を通してしか、お主の父を知らん」
ティナは、モールの言葉を聞いて、父からかつて聞かされていたことを思い起こす。
(確か、父者は……)
ティナは、目の前にいるモールの出で立ちをしげしげと眺める。
モールの着る紅のローブは、膝丈まである長いローブで、魔法師が着るものとしては、かなり長い。
また、ローブのしたから見える朱色に縁取りされた鎧は、黒鋼の素材で作られており、剣や矢を受け流す流線型模様が至るところに施されている。
モールの装備は、どこかの国の正規兵のものではなく、それぞれが特注した品々であることが分かる。
「そうか。お主が、紅の操者か……。生きておったのじゃな」
紅の操者とは、モールの二つ名である。
モールは、紅のローブを纏い、戦場で魔法を駆使して戦う姿から、紅の操者と謳われていた。
しかし、ある時期から噂が忽然と消えてしまったので、死亡説が定着していたのである。
「こりゃ。人を勝手に殺すではない」
「ふふふっ。であれば、それだけの魔力波も頷けるの」
ティナは、父から戦場で紅の操者を仕留め損なったと伝え聞いている。
また、ティナは、幾度も父の残念がる姿を見てきている。
ただし、ロンギマルには、モールへの私怨はなく、純粋に好敵手を倒しきれなかったことを悔いていたのである。
「父者からお主のことを聞かされておる。良い機会じゃ。わらわが一太刀食らわせてやろう」
ティナは、腰に下げていた剣を引き抜き、覇気を先鋭化していく。
ティナの剣からは、尋常ではないほどの剣気が立ち上る。
「ほぅ……。やる気じゃな」
ティナの目を見たモールは、鞘から紅剣を引き抜き、右半身の構えを取る。
「あくまでも手合いじゃ。わらわは、魔法は使わん」
「よかろう。受けて立つぞ」
モールは、威嚇のために出した魔力波を遮断し、魔力を魔臓へ仕舞い込む。
ティナも、それに応えるかのように魔力波を消し、腰を低く落とす。
ざわめいていた木々は、急に静寂を取り戻し、辺りには重苦しい空気が漂い始める。
「ロンギマルの娘よ。父がかつて倒せなかったわしの剣を受けてみるがよい」
「わらわは、いまだ父には及ばぬ。じゃが、年老いた剣には負けるつもりはない」
先制は、ティナが取る。
モールの間合いに一気に踏み込み、横薙ぎの斬撃を放ち、追撃の蹴りを繰り出す。
軽く飛び退ったモールは、ティナの剣を難なくやり過ごし、続いてくる蹴りに肘打ちを食らわす。
ガンッ
硬い金属的な音がし、モールがやや顔をしかめる。
ティナの脛には、脛当てが装着されており、少しだぶついたズボンの上からでは見抜けなかったのである。
「無闇に乙女の柔肌に触れるものではない」
微小を浮かべたティナは、蹴り足を素早く引き戻し、代わりに地面を蹴ってモールの背後へ回り込む。
「はははっ。打撃を受けるとは、まだまだじゃの。超一流は、かわすものじゃ」
突き出されたティナの剣を、身を翻すことでかわしたモールは、がら空きになったティナの背中に反撃の斬撃を振り下ろす。
キィンッ
素早く剣を背中に回したティナが、モールの重い斬撃を弾き返す。
キィキィィィン
モールは、体勢の整わないティナへ立て続けに斬撃を飛ばすが、悉く弾かれてしまう。
モールは、一瞬楽しげに目を細め、軽い足捌きでちょこまかと動き回るティナへ追撃の剣を見舞う。
しかし、ティナは、幼女の細腕によくもそれほどの力があったなと思わせるほど簡単に、モールの重い一撃を弾き、受け流していく。
涼しい顔でティナは、モールの剣筋を見極めつつ、突如として体を回転させ、手首と肘の返しを利用し、モールの胸元へ剣を伸ばす。
モールは、それを軽く横にステップを踏んでかわし、懐へ飛び込んできたティナへ三宝滅の秘技・八方連撃を繰り出す。
ギギギギギギギギィィィンッ
モールは、八方向からの剣撃を一度に放つ。
だが、ティナもモールの剣速に負けじと、同じ八方連撃を繰り出し、モールの剣を全て弾き返す。
「!」
モールは、大きく後ろへ跳び、ティナから距離を開ける。
ティナは、八方連撃の後に突きを繰り出し、その姿勢のまま動きを止める。
ティナの顔には、不敵な笑みが湛えており、息一つ乱れていない。
「どうしたのじゃ? 三宝滅は、何もお主だけが使える技ではないぞ」
ゆっくりと自然体に戻ったティナは、大きく目を見開いて驚いているモールへ言い放つ。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
侯爵夫人は子育て要員でした。
シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。
楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。
初恋も一瞬でさめたわ。
まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。
離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる