ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第5章

第3話 守護者モールの出陣2

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 メリングとキントが、食卓で話をしていると、奥の部屋からガタゴトと荷物を引っ掻き回す音が聞こえてくる。
 始めは、メリングとキントも、モールが何かを探しているのだと思い、特に気にしていなかった。
 しかし、ガタゴトという音に加え、時にドスンと重いものを倒す音が聞こえてくる。
 メリングとキントは、いつもとは様子がおかしいと感じ取り、二人揃ってモールのいる奥の部屋へと行ってみる。
 すると、モールの寝室では、大小様々な木箱が開けられており、その中心には、完全武装をしたモールが立っている。
 紅のローブを纏い、朱色に縁取りされた鎧を身に着け、モールの愛用している紅剣を腰に下げている。
 その姿は、モールがゼルスト国の紅燐騎士団や教導騎士団の魔法指南役に就いていたときの格好である。

「ど、どうされたのですか!?」

 目を見開いたメリングは、思わずモールへ問い詰めてしまう。
 メリングは、合わせてモールのもとへと駆け寄りたかったが、モールが開けた木箱たちがメリングの行く手を阻んだのである。

「お主は、何も感じんのか? だとしたら、まだまだじゃの」

「敵……ですか!? 私は、何も感じません!」

 悔しそうに僅かに唇を噛み締めたメリングは、モールをきっと睨むように見つめる。
 だが、静かに立っていたモールは、穏やかな表情でメリングの目を見返し、東の方を指差す。

「この島の東……。海の向こうに、化け物みたいに強い奴がおる」

「海の向こう!? それでは、私には無理です!」

「意識を向けよ。間もなく、海を渡り終える」

 メリングをちらりと見たモールは、側にある小さな木箱を開け、中から魔道具の腕輪を取り出し、左手首に嵌める。
 腕輪の中央には、暗黒に染まった透輝石が嵌め込まれており、そこからは尋常ではないほど強い魔力波長が漏れ出ている。

「闇障壁! それほどの相手ですか!?」

 モールが左手首に嵌めた腕輪は、闇属性のシールドを作り出す秘宝である。

「わしと同じか、それ以上じゃな。はたして、なまったわしで、かなうかどうか……」

 一度目を閉じたモールは、体の隅々まで意識を通し、体を活性化させる。
 ただ、魔力は、魔臓に抑え込んだままで、それを解き放つことはしない。

「私も、行きます!」

 メリングは、決意を目に込めて、モールへ訴える。
 それに対して、モールは、ゆっくりと首を横に振り、メリングのはやる気持ちを押しとどめる。
 
「お主は、ドルマにこの事を告げよ。それと、キントともうすぐここへ来るフレイを連れ、ドルマとともに村を守るのじゃ」

「しかし!」

「メリング」

 なおも食い下がるメリングを、モールは、やんわりとたしなめる。

「適材適所じゃ」

「くっ……! 分かりました」

 メリングは、悔し涙を浮かべ、かつての上官の指示に従う。
 モールが同格かそれ以上と言うであれば、格下のメリングが敵う相手ではない。
 メリングは、モールと別れてからも修練を積み続けたが、いまだにモールの高みには達していない。

「これから来る奴が、村を滅ぼす気なら、ここは戦場になる。お主は、守りを固め、罪なき者を守り抜くのじゃ」

 モールもメリングも、王国の騎士団を辞めたとはいえ、善良な者を守る使命は忘れていない。
 メリングは、勢いよく跪き、首を垂れて拝命する。

「我が剣に誓い、命を果たします!」

「うむ。ならば、早く行け。わしは、ここへ結界を張り、奴を出迎えに行く」

「はっ!」

 跳ね起きたメリングは、後ろで立ち尽くしているキントの腕を掴み、強引に引っ張って行く。
 メリングは、モールの姿から、猶予はそれほどないと感じ取り、己の剣を取ってからモールの家を飛び出す。
 メリングとキントは、山道の途中でフレイを拾い、ドルマのいる村の入り口へと急ぐ。
 ドルマは、村の入り口脇の柵を修理しており、その姿は山道からも見えていたのである。
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