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凍雪国編第4章
第111話 レイドックの条件4
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レイドックは、ダイザとテムを建物内へ誘い、工房として使用している部屋へ案内する。
そこは、加工された魔石を金枠に嵌め込み、武器や防具に取り付ける場所である。
材料となる魔石は、数は少ないものの、割と良質な魔石が使われているようで、壁際に据えつけられた棚に整然と並べられている。
一方、武器や防具は、種類ごとに区分けされた箱の中に仕舞われ、作業台の横に置かれている。
箱の中の武器や防具は、どれも小型のものばかりで、武器は短剣が多く、防具は腕輪が多い。
ただ、工房の奥には、ゴイメール騎兵隊の鎧兜一式が幾つか並べられており、ハルバードと呼ばれる槍と斧が一体となった長槍が鎧兜と同じ数だけ壁に立て掛けられている。
「応接室というものはないのでな。悪いが、ここで話をさせてくれ」
レイドックは、ダイザとテムに、作業台の周りにある椅子を勧める。
ダイザとテムは、そんなことを気にもしておらず、レイドックに勧められるままに椅子へ座る。
そして、レイドックが「飲み物を持ってくる」と言って、部屋を出て行った後、二人は、工房の中をもの珍しげに見渡し、魔石や完成した魔道具などをしげしげと見つめる。
「まずまずの品だな」
テムが、箱の中にある細かい装飾が施された短剣を指差す。
ダイザも、テムの隣に椅子を寄せて、その短剣を鑑定する。
「ネオクトンやゴイメールの冒険者たちが持っていたものよりも良品ですね。これなら、すぐに買い手が見つかりますよ」
「そうだよな。レイドック殿たちは、割と職人気質なのかもしれんな」
そんな話をダイザとテムが繰り返していると、レイドックは、娘のモイスを伴って現れ、作業台に人数分のコップを置いていく。
コップの中に入っているのは、南国で採取される茶葉を煮出したものである。
この茶葉は、ディスガルドでは最高級品とされており、手に入れるにはそれなりの対価が必要となってくる。
ダイザとテムは、さすがにゴイメール族長の実弟であると思うとともに、この茶葉を出されたということは、自分たちが客人としてもてなされているということを理解する。
「早速だが、本題に入らしてもらう」
レイドックは、そう前置きをしてから、娘のモイスをちらりと見る。
モイスは、ダイザたちと向かい合わせになる形で椅子に座っており、緊張した面持ちでレイドックを見上げている。
「先ほどの頼みというやつだな。何でも言ってくれ。受けるかどうかは、話の内容で判断する」
テムは、モイスがこの場に来たことで、レイドックのいう頼みとはモイスに関するものだろうと推測する。
ただ、そのモイスが硬い表情をしているため、それほどの覚悟がいるものなのかと若干の訝しみを覚えている。
「分かった。頼みとは、このモイスのことだ。このモイスを国都にいるウズキという者のところへ送り届けて欲しい」
レイドックは、またも苦しげな表情を一瞬見せる。
だが、それをすぐに隠し、ダイザとテムに向かって頭を下げる。
「頼みというのは、それだけか? 案外簡単な願いのように思うのだが……」
ダイザとテムは、レイドックの言葉を聞いて、やや拍子抜けしたような顔をする。
二人とも、モイスの様子から難題を押し付けられるのかと、少し身構えていたのである。
しかし、レイドックの口から出たのは、モイスを国都へ連れて行くことだけである。
「我々にとっては、簡単なことではない」
「そうなのか? どう簡単ではないのかよく分からんが、そのウズキというのは何者なんだ?」
「ウズキは、国主の側室として嫁いだ族長の娘だ。私の姪にあたる。我々は、国主の居城に近づくことができないため、ウズキに謁見することができないんだ」
レイドックは、ゴイメールの族人であれ、他族の者であれ、現在、国主に自由に謁見できるのは、ロマキ族の者だけに限られていると説明する。
また、ロマキ族の者以外が謁見を申し出る場合、厳密な身体検査が施され、謁見に至るまでには数日ほどの日数が掛かると付け加える。
「ゴイメールの実弟である私をはじめ、国都やここにいる族人は、誰もウズキに会うことができていない」
レイドックは、苦悩を吐露するかのように、声を絞り出し、再びダイザとテムに向かって頭を下げる。
「二人は、宗主国の人であるとみた。モイスのことを頼みたい」
ダイザとテムは、レイドックに宗主国のこと告げた覚えはない。
しかし、魔力に敏感なモイスがここにおり、ダイザとテムが田舎から上京し、長命族であることを考え合わせれば、宗主国の人間であることを導き出すのは、そう難しいことではない。
「ふむ……。俺たちが宗主国の人間であるかと言われれば、答えは微妙なところだな。少なくとも、俺たちの田舎の村は、宗主国の中にはない」
テムは、嘘は言っていない。
ミショウ村は、宗主国であるリポウズなどの集落を形成している北半島の中にない。
ミショウ村は、ディスガルド北半島と南半島に囲まれた島にあるのであり、絶海の孤島にあるのである。
そのため、テムの言うように、ダイザとテムは宗主国の人間ではなく、厳密には、宗主国が崇める人間なのである。
「まぁ……。詳しいことは、これ以上は話せん。ただ、国都にいる宗主国の人間は知っている。その者たちに取り次ぐことはできるし、おそらく国主にも謁見することは可能だろう」
テムの答えを聞いて、レイドックは、最初は眉根を顰めたが、国主に謁見できると聞き、安堵の吐息を漏らす。
ただ、レイドックの隣に座るモイスは、硬い表情をさらに硬くさせて、目を閉じてうつむいてしまう。
そこは、加工された魔石を金枠に嵌め込み、武器や防具に取り付ける場所である。
材料となる魔石は、数は少ないものの、割と良質な魔石が使われているようで、壁際に据えつけられた棚に整然と並べられている。
一方、武器や防具は、種類ごとに区分けされた箱の中に仕舞われ、作業台の横に置かれている。
箱の中の武器や防具は、どれも小型のものばかりで、武器は短剣が多く、防具は腕輪が多い。
ただ、工房の奥には、ゴイメール騎兵隊の鎧兜一式が幾つか並べられており、ハルバードと呼ばれる槍と斧が一体となった長槍が鎧兜と同じ数だけ壁に立て掛けられている。
「応接室というものはないのでな。悪いが、ここで話をさせてくれ」
レイドックは、ダイザとテムに、作業台の周りにある椅子を勧める。
ダイザとテムは、そんなことを気にもしておらず、レイドックに勧められるままに椅子へ座る。
そして、レイドックが「飲み物を持ってくる」と言って、部屋を出て行った後、二人は、工房の中をもの珍しげに見渡し、魔石や完成した魔道具などをしげしげと見つめる。
「まずまずの品だな」
テムが、箱の中にある細かい装飾が施された短剣を指差す。
ダイザも、テムの隣に椅子を寄せて、その短剣を鑑定する。
「ネオクトンやゴイメールの冒険者たちが持っていたものよりも良品ですね。これなら、すぐに買い手が見つかりますよ」
「そうだよな。レイドック殿たちは、割と職人気質なのかもしれんな」
そんな話をダイザとテムが繰り返していると、レイドックは、娘のモイスを伴って現れ、作業台に人数分のコップを置いていく。
コップの中に入っているのは、南国で採取される茶葉を煮出したものである。
この茶葉は、ディスガルドでは最高級品とされており、手に入れるにはそれなりの対価が必要となってくる。
ダイザとテムは、さすがにゴイメール族長の実弟であると思うとともに、この茶葉を出されたということは、自分たちが客人としてもてなされているということを理解する。
「早速だが、本題に入らしてもらう」
レイドックは、そう前置きをしてから、娘のモイスをちらりと見る。
モイスは、ダイザたちと向かい合わせになる形で椅子に座っており、緊張した面持ちでレイドックを見上げている。
「先ほどの頼みというやつだな。何でも言ってくれ。受けるかどうかは、話の内容で判断する」
テムは、モイスがこの場に来たことで、レイドックのいう頼みとはモイスに関するものだろうと推測する。
ただ、そのモイスが硬い表情をしているため、それほどの覚悟がいるものなのかと若干の訝しみを覚えている。
「分かった。頼みとは、このモイスのことだ。このモイスを国都にいるウズキという者のところへ送り届けて欲しい」
レイドックは、またも苦しげな表情を一瞬見せる。
だが、それをすぐに隠し、ダイザとテムに向かって頭を下げる。
「頼みというのは、それだけか? 案外簡単な願いのように思うのだが……」
ダイザとテムは、レイドックの言葉を聞いて、やや拍子抜けしたような顔をする。
二人とも、モイスの様子から難題を押し付けられるのかと、少し身構えていたのである。
しかし、レイドックの口から出たのは、モイスを国都へ連れて行くことだけである。
「我々にとっては、簡単なことではない」
「そうなのか? どう簡単ではないのかよく分からんが、そのウズキというのは何者なんだ?」
「ウズキは、国主の側室として嫁いだ族長の娘だ。私の姪にあたる。我々は、国主の居城に近づくことができないため、ウズキに謁見することができないんだ」
レイドックは、ゴイメールの族人であれ、他族の者であれ、現在、国主に自由に謁見できるのは、ロマキ族の者だけに限られていると説明する。
また、ロマキ族の者以外が謁見を申し出る場合、厳密な身体検査が施され、謁見に至るまでには数日ほどの日数が掛かると付け加える。
「ゴイメールの実弟である私をはじめ、国都やここにいる族人は、誰もウズキに会うことができていない」
レイドックは、苦悩を吐露するかのように、声を絞り出し、再びダイザとテムに向かって頭を下げる。
「二人は、宗主国の人であるとみた。モイスのことを頼みたい」
ダイザとテムは、レイドックに宗主国のこと告げた覚えはない。
しかし、魔力に敏感なモイスがここにおり、ダイザとテムが田舎から上京し、長命族であることを考え合わせれば、宗主国の人間であることを導き出すのは、そう難しいことではない。
「ふむ……。俺たちが宗主国の人間であるかと言われれば、答えは微妙なところだな。少なくとも、俺たちの田舎の村は、宗主国の中にはない」
テムは、嘘は言っていない。
ミショウ村は、宗主国であるリポウズなどの集落を形成している北半島の中にない。
ミショウ村は、ディスガルド北半島と南半島に囲まれた島にあるのであり、絶海の孤島にあるのである。
そのため、テムの言うように、ダイザとテムは宗主国の人間ではなく、厳密には、宗主国が崇める人間なのである。
「まぁ……。詳しいことは、これ以上は話せん。ただ、国都にいる宗主国の人間は知っている。その者たちに取り次ぐことはできるし、おそらく国主にも謁見することは可能だろう」
テムの答えを聞いて、レイドックは、最初は眉根を顰めたが、国主に謁見できると聞き、安堵の吐息を漏らす。
ただ、レイドックの隣に座るモイスは、硬い表情をさらに硬くさせて、目を閉じてうつむいてしまう。
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