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凍雪国編第4章
第104話 南方人の事情4
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テムは、夜の林道を引き返し、後から追ってきている二人のキルビナ人を迎えにいく。
その途中、火魔法で火球を生み出し、上空へ大きく投げて弾けさせる。
(二人への合図は、これでいいだろう。あまりダイザから離れるのも、良くないしな)
テムは、それ以上進むのを止め、辺りを見渡す。
林道の両脇に広がる凍土林は、木々がそれほど密集しておらず、間伐の手が入っているようである。
テムは、薄暗い木々に目を凝らし、あの子どもたちの栄養源になるものを探してみる。
すると、少し奥へ入ったところに、野草が群生しているのが朧気に見える。
テムは、再び火球を生み出し、野草の辺りでそれを弾けさせる。
そこでは、間伐が広く行われており、倒木した木を避けるようにして若葉が生い茂り、時折、木々の間を抜けてきた風にそよいでいる。
その場所まで進んだテムは、それらの野草を摘み、背中の収納袋から取り出した麻袋に詰めていく。
(ちょうど良いところに、シマツナソが芽吹いていたな。これなら、あの子たちも食べられるだろう)
奴隷として酷使されてきた子どもたちは、骨の形が見えるほど痩せ細り、頬がげっそりとこけてしまっている。
(おそらく、あの子たちの胃は固形物を受けつけないだろう。このシマツナソは、湯通しをしてから細かく刻み、粥と合わせるのがいいな)
テムは、背中の収納袋を降ろしたついでに、乾飯が入った麻袋も取り出し、中身を確認する。
その麻袋の中には、両手で掬えるほどの乾飯が残されており、子どもたちの粥の材料としては十分な量がある。
(とりあえずは、これで間に合う。しかし……)
テムは、あの子たちの健康状態を気遣う。
レティとファイナが、国都の検問を強行突破した理由は、奴隷となったあの子たちを国へ連れ戻すためだとの推測がつく。
ただし、子どもたちは衰弱しており、長期の逃避行に耐えられるはずがない。
テムは、その辺りのことを憂慮し、眉間にしわを寄せる。
しばらくそうして佇んでいたが、テムは、レティとファイナの気配が近くまで来ていることに気がつく。
(おっ! 来たか……)
テムは、林道まで戻り、暗闇の中を懸命に駆けてくるレティとファイナを出迎える。
「遅かったな」
「何を!」
テムの言葉に、苛立ちを露にしたレティが剣を引き抜く。
すると、やや遅れて追いついてきたファイナが、すぐにレティの腕にしがみつき、レティの行動を止めにかかる。
「待って! レティ!」
「邪魔をするな! こいつは、サルクとマラニを!」
レティが走りながら気配を探ったところ、サルクとマラニの気配が突然消えた。
その側には、先ほど対峙したダイザとテムの気配があり、レティは、サルクとマラニが二人に殺されてしまったに違いないと思い込んだ。
「ん? あの子たちは、サルクとマラニというのか?」
「何を今さら! 白々しく言うな!」
レティは、力でファイナを振りほどき、テムに向けて剣を一閃させる。
ギィィィン
テムの手には、先ほどから斧が握られており、その斧でレティの剣を軽々と弾き飛ばす。
テムは、シマツナソでパンパンになった麻袋を収納袋に詰めたとき、収納袋に空きスペースがなくなってしまったので、仕方なく手に斧を持っていたのである。
「無駄なことは、するな。お前では、俺に勝てん」
「くっ!」
レティは、悔しさで唇を噛み締める。
だが、歴然とした力量差を前にそれ以上の手出しができなくなる。
「レティ! 待って!」
ファイナが再びレティを制止し、テムとレティとの間に割って入る。
「ほぅ……。その魔法師のほうが、よく状況を理解しているな」
テムは、ファイナに感心してみせる。
テムが見たところ、ファイナは先ほどから気配察知と魔力探知を繰り返しており、ダイザの側にあるサルクとマラニの存在に気がついている。
「何を言っている!」
テムの言葉は、今のレティには怒りを注ぐ言葉でしかない。
「だから、待って! サルクとマラニは生きているの!」
「何! 本当か!?」
レティは驚いて、ファイナに振り向く。
レティが再び気配を探っても、二人の気配は察知できないのである。
「えぇ、そうよ。さっき、もう一人いたでしょ? その人の側にいるわ」
ファイナは、テムを指差してレティに説明する。
指差されたテムは、不愉快そうに僅かに顔をしかめる。
テムは、ファイナの仕草が気に入らなかったのである。
「私には、分からないぞ」
「だったら、私を信じて。サルクとマラニは生きているわ」
ファイナは、レティの目を真っ直ぐに見つめて、断言する。
レティは、そんなファイナにやや気圧され、テムへの怒気を萎れさせる。
(どうやら、気配察知と魔力感知の能力では、ファイナのほうが優れているらしい)
テムは、二人のやり取りをのんびりと見やって、分析する。
ただ、今が流れの変え時だとみて、レティに向かって声をかける。
「まずは、その剣を仕舞え。俺たちは、敵じゃない」
「それなら、お前こそ、その斧を仕舞ったらどうだ。私は、先に仕舞う気がないぞ」
「ん? これか? これは、仕舞えないから出したんだ。ほれっ」
テムはそう言って、背中の収納袋を二人に見せる。
そして、収納袋がパンパンに膨れているところを強調するかのように、体を揺すって収納袋をわさわさと左右に振る。
「さっき、その奥でシマツナソを摘んだ。あの子たちの栄養食用にな」
テムは、早とちりをしたレティに、それを見せつけるように言い、にやりと笑う。
その途中、火魔法で火球を生み出し、上空へ大きく投げて弾けさせる。
(二人への合図は、これでいいだろう。あまりダイザから離れるのも、良くないしな)
テムは、それ以上進むのを止め、辺りを見渡す。
林道の両脇に広がる凍土林は、木々がそれほど密集しておらず、間伐の手が入っているようである。
テムは、薄暗い木々に目を凝らし、あの子どもたちの栄養源になるものを探してみる。
すると、少し奥へ入ったところに、野草が群生しているのが朧気に見える。
テムは、再び火球を生み出し、野草の辺りでそれを弾けさせる。
そこでは、間伐が広く行われており、倒木した木を避けるようにして若葉が生い茂り、時折、木々の間を抜けてきた風にそよいでいる。
その場所まで進んだテムは、それらの野草を摘み、背中の収納袋から取り出した麻袋に詰めていく。
(ちょうど良いところに、シマツナソが芽吹いていたな。これなら、あの子たちも食べられるだろう)
奴隷として酷使されてきた子どもたちは、骨の形が見えるほど痩せ細り、頬がげっそりとこけてしまっている。
(おそらく、あの子たちの胃は固形物を受けつけないだろう。このシマツナソは、湯通しをしてから細かく刻み、粥と合わせるのがいいな)
テムは、背中の収納袋を降ろしたついでに、乾飯が入った麻袋も取り出し、中身を確認する。
その麻袋の中には、両手で掬えるほどの乾飯が残されており、子どもたちの粥の材料としては十分な量がある。
(とりあえずは、これで間に合う。しかし……)
テムは、あの子たちの健康状態を気遣う。
レティとファイナが、国都の検問を強行突破した理由は、奴隷となったあの子たちを国へ連れ戻すためだとの推測がつく。
ただし、子どもたちは衰弱しており、長期の逃避行に耐えられるはずがない。
テムは、その辺りのことを憂慮し、眉間にしわを寄せる。
しばらくそうして佇んでいたが、テムは、レティとファイナの気配が近くまで来ていることに気がつく。
(おっ! 来たか……)
テムは、林道まで戻り、暗闇の中を懸命に駆けてくるレティとファイナを出迎える。
「遅かったな」
「何を!」
テムの言葉に、苛立ちを露にしたレティが剣を引き抜く。
すると、やや遅れて追いついてきたファイナが、すぐにレティの腕にしがみつき、レティの行動を止めにかかる。
「待って! レティ!」
「邪魔をするな! こいつは、サルクとマラニを!」
レティが走りながら気配を探ったところ、サルクとマラニの気配が突然消えた。
その側には、先ほど対峙したダイザとテムの気配があり、レティは、サルクとマラニが二人に殺されてしまったに違いないと思い込んだ。
「ん? あの子たちは、サルクとマラニというのか?」
「何を今さら! 白々しく言うな!」
レティは、力でファイナを振りほどき、テムに向けて剣を一閃させる。
ギィィィン
テムの手には、先ほどから斧が握られており、その斧でレティの剣を軽々と弾き飛ばす。
テムは、シマツナソでパンパンになった麻袋を収納袋に詰めたとき、収納袋に空きスペースがなくなってしまったので、仕方なく手に斧を持っていたのである。
「無駄なことは、するな。お前では、俺に勝てん」
「くっ!」
レティは、悔しさで唇を噛み締める。
だが、歴然とした力量差を前にそれ以上の手出しができなくなる。
「レティ! 待って!」
ファイナが再びレティを制止し、テムとレティとの間に割って入る。
「ほぅ……。その魔法師のほうが、よく状況を理解しているな」
テムは、ファイナに感心してみせる。
テムが見たところ、ファイナは先ほどから気配察知と魔力探知を繰り返しており、ダイザの側にあるサルクとマラニの存在に気がついている。
「何を言っている!」
テムの言葉は、今のレティには怒りを注ぐ言葉でしかない。
「だから、待って! サルクとマラニは生きているの!」
「何! 本当か!?」
レティは驚いて、ファイナに振り向く。
レティが再び気配を探っても、二人の気配は察知できないのである。
「えぇ、そうよ。さっき、もう一人いたでしょ? その人の側にいるわ」
ファイナは、テムを指差してレティに説明する。
指差されたテムは、不愉快そうに僅かに顔をしかめる。
テムは、ファイナの仕草が気に入らなかったのである。
「私には、分からないぞ」
「だったら、私を信じて。サルクとマラニは生きているわ」
ファイナは、レティの目を真っ直ぐに見つめて、断言する。
レティは、そんなファイナにやや気圧され、テムへの怒気を萎れさせる。
(どうやら、気配察知と魔力感知の能力では、ファイナのほうが優れているらしい)
テムは、二人のやり取りをのんびりと見やって、分析する。
ただ、今が流れの変え時だとみて、レティに向かって声をかける。
「まずは、その剣を仕舞え。俺たちは、敵じゃない」
「それなら、お前こそ、その斧を仕舞ったらどうだ。私は、先に仕舞う気がないぞ」
「ん? これか? これは、仕舞えないから出したんだ。ほれっ」
テムはそう言って、背中の収納袋を二人に見せる。
そして、収納袋がパンパンに膨れているところを強調するかのように、体を揺すって収納袋をわさわさと左右に振る。
「さっき、その奥でシマツナソを摘んだ。あの子たちの栄養食用にな」
テムは、早とちりをしたレティに、それを見せつけるように言い、にやりと笑う。
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