ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第102話 南方人の事情2

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 ダイザは、テムがレティとファイナと話しているときに、南方人の夜営場所から離れていった衰弱したような二つの気配を探っていた。
 すると、林道を進んだ先にそれらの気配はあり、最初はたどたどしくもゆっくりと東へ東へと移動していた。
 だが、あるとき瞬間的に気配が消えてしまった。
 ダイザは、その二つの気配に何かが起きたと感じ取り、テムに声をかけて走り出したのである。
 ダイザは走るのが、速い。
 しかし、テムも、薄暗い夜道にも関わらず、ダイザから遅れることなくついて行く。

「何があった?」

 テムがダイザのすぐ後ろから、声をかける。
 ダイザは、前を向いたまま走り続け、振り向くことなく答える。

「分かりません。先ほど二人の連れと思われる気配が、突然消えました」

「何!? 殺されたのか?」

「いえ。違うと思います」

「なら、何があった?」

「それを確かめに行きます」

 ダイザは、そう言って、倒木を飛び越え、なおも駆け続ける。
 テムも、倒木は見えており、難なく回避してダイザに続き、後ろから来ている南方人へ向け、合図の火魔法を打ち上げる。

fire ballファイヤーボール

 テムは、打ち上げた火の玉を上空で弾けさせ、周囲に明るさを撒き散らす。

「奴らも、ついて来ている。危険な箇所は知らせてやらんとな」

 そう言ってテムは、進む先々で火の玉を打ち上げては弾けさせる。

「テムさん。着きましたよ」

 ダイザは、二つの気配が消えた地点にたどり着き、すぐに周りを見渡す。
 すると、そこは崖際であり、ダイザの足元の先には、ぽっかりと大きな穴が開いている。
 走り寄ってきたテムも、それを見つけて、ここで何が起きたかを悟る。

「落ちたんだな?」

「えぇ。そうだと思います。底の方に、僅かながら気配を感じます」

「あぁ、本当だ。まだ、生きているな」

 テムは、そう言って周囲の木々を見渡し、暗がりの中で蔦が巻きついている木を見つける。

「よし。ロープを作ろう。ダイザは、そこから回復魔法を掛けてやれ。届くだろう?」

 ダイザは、穴の縁にしゃがみこみ、底で横たわっている二つの気配までの距離を測る。
 ダイザの感覚では、二人は10mほど下の場所におり、ダイザの魔法が届く範囲にいる。

「えぇ。この距離なら、大丈夫ですよ」

 テムは、ダイザの言葉に頷き、早速自分がやるべきことに取りかかる。
 背中の収納袋から斧を取り出したテムは、蔦が絡まっている木の前へ進み、斧を振りかぶって真空刃を叩き込む。

ズズン……

 幹が1mはあろうかという木が、いとも簡単に切り倒される。
 テムは、倒れた木から太めの蔦を選んで引き抜き、それを器用に三つに編んでいく。
 しばらく、その作業に没頭していたテムは、ダイザが回復魔法を掛け終わって近づいてくるのを感じ取り、出来上がったロープを渡していく。

「これを丈夫にしてくれ」

 ロープ自体は、頑丈にできた。
 だが、テムは、穴に落ちた二人の体重を支えるのには不十分だと感じ、ダイザに鋼岩魔法でロープを鋼に変えてもらうように頼む。
 ダイザは、すぐに了解し、魔力を練り上げ、鋼岩属性の魔法を発動させる。

iron conversionアイロンコンバージョン

 蔦でできたロープは、突然金属的な軋み音を発し、固く締まっていく。
 それを見たテムは、ロープを持ち上げ、力任せに引っ張る。

「大丈夫そうだな」

 テムは、ロープが鋼の強度を持ったことに、満足そうに頷く。

「俺が下に降りる。ダイザは、落ちた奴らを引き上げてくれ」

「分かりました。気をつけてください。下は、どうなっているのか、分かりません」

「あぁ、十分用心するさ。そのロープの端をそこの木に括りつけてくれ。俺は、先に降りるぞ」

 テムは、そう言って、躊躇なく穴の中に飛び降りる。
 テムにとって、10mほどの距離は障害ではない。
 ダイザも、そのことは知っているので、特に慌てず、テムに指示された木にロープを括りつけ、反対の端を穴の中へ投げ入れる。
 すると、穴の中から、テムの声が聞こえてくる。

「大丈夫だ。二人とも息をしている。それより、松明になる木を忘れた。そこの切り倒した木でいいから、その枝を下に落としてくれ」

「分かりました」

 ダイザは、テムの指示通りに動き、引き抜いた剣で木から枝を切り落とし、テムが持ちやすいように、余分な小枝や葉を削ぎ落とす。

「落としますよ。二人には当たらないように、気をつけてください」

「あぁ、頼む。二人は壁に寄りかからせた。遠慮せんでいい」
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