429 / 492
凍雪国編第4章
第93話 国都西の城門前3
しおりを挟む
テムから話を聞いたダイザは、腕を組んで眉間にしわを寄せる。
「黒づくめ……というのが気になりますね」
「そうだな。だが、こんな昼過ぎには、闇の者は出歩かんだろ?」
「確かにそうですが、何かがあったのかもしれません」
ダイザは、テムが商人の護衛兵と話している間にも、周辺の気配をさぐっていた。
南の城門付近では、多くの人が集まっていて、混乱が広がっているようである。
また、そこから立ち昇る煙は、徐々に黒煙となり、巨大化してきている。
これは、火災が大きくなってきている証拠で、消火がうまくできていないことを示している。
しかし、そちらの方角からは、もう魔力波は感じず、火魔法を使用した魔法師もいない。
「心当たりがあるのか? それとも、何かを掴んだのか?」
テムの質問に、ダイザは、首を横に振る。
「いえ、ただの勘です」
「そうか……」
テムは、ダイザの直感がよく当たることを知っている。
そのため、今後どうするべきかを考え始める。
「テムさん」
「ん?」
ダイザは、城門内を指差す。
城門内では、兵士たちが、相変わらずばたばたと動き回っている。
しかし、国都から外へ出て行く方の検問は、再開されたらしく、ぽつりぽつりと人が出てくる。
「オンジが間もなく来ます」
そうダイザに言われて、テムもオンジの気配が近づいてきていることに気がつく。
「おぉ、そうだな。……ん?」
テムは、オンジの後ろに二つの強い気配を感じ取る。
「これは……?」
「はい。テムさんが感じた通り、おそらく皇衛兵のものです」
「……だよな。魔力波に馴染みがあるもんな」
テムが感じた気配は、どちらも長命族特有の魔力波長を帯びており、その魔力量も短命族に比べて桁違いに多い。
ただ、その二つの気配よりも、オンジの魔力量の方が多いため、始めはそのことに気がつかなかったのである。
「オンジが、国都にいた皇衛兵に知らせてくれたみたいですね」
「そのようだな。これで、少しは楽ができる」
テムは、楽しそうに笑い、ダイザの背中をぽんぽんと叩く。
皇衛兵は、宗主のダイザを守るためにやって来るのである。
テムとしては、ダイザの身を案じることから少し解放され、それだけ自由に動くことができる。
ただし、ダイザにしてみれば、敬われることが増えてしまい、気苦労が絶えないことになってしまう。
「やっぱり、気を使わせていましたか?」
「少しはな」
テムはそう言って、にやりと笑う。
ミショウ村を離れ、遥々国都まで来て、宗主を失う訳にはいかない。
また、ダイザは、ロシュフォール皇族ヤグラムの血を色濃く受け継ぐ者である。
不審な輩をダイザに近づけることも、阻止しなければならない。
「ありがとうございます。でも、テムさんこそ、大切な存在ですよ」
「はははっ。俺は所詮、異端児だ。キントさえ、無事であればいい」
テムは、村に残してきた息子を思いやる。
「おっ! 出てきたぞ」
城門からは、テムが言うように、まずオンジが出てきて、その後ろからは黒い鎧に身を包んだ男女が現れる。
「見たことない顔だな。ダイザは、知っているか?」
「いえ。私も、初めてですよ」
「鎧は、ケーボイ族のものらしいが……、少し違うか?」
ケーボイ族は、国都の遥か北にある部族で、鍛冶職に精通している者が多い部族である。
そのケーボイ族は、黒錆加工を施して作り上げた黒鋼を鎧に採用している。
ただ、オンジの後ろにいる二人は、黒鋼の鎧を着込んではいるが、胴に描かれた意匠は三ツ又の矛と海竜であり、ケーボイ族の鉄鎚と炎の意匠とは異なる。
「あれは、ウテルナ族のものですね。最近、ケーボイ族から別れた支族ですよ」
「ほぅ……。大陸の部族も、色々と変わってきているんだな」
「えぇ。トセンがいい例ですね。あそこも、あと数十年したら、トセン族と呼ばれ、新しい部族になるのかもしれません」
「はははっ。長命族が増えて、賑やかになるのはいいが、そうなっては覚えられんな」
テムは、陽気に笑い、今回の件が済んだら、各部族を巡ってみても悪くないと心の片隅で思う。
「黒づくめ……というのが気になりますね」
「そうだな。だが、こんな昼過ぎには、闇の者は出歩かんだろ?」
「確かにそうですが、何かがあったのかもしれません」
ダイザは、テムが商人の護衛兵と話している間にも、周辺の気配をさぐっていた。
南の城門付近では、多くの人が集まっていて、混乱が広がっているようである。
また、そこから立ち昇る煙は、徐々に黒煙となり、巨大化してきている。
これは、火災が大きくなってきている証拠で、消火がうまくできていないことを示している。
しかし、そちらの方角からは、もう魔力波は感じず、火魔法を使用した魔法師もいない。
「心当たりがあるのか? それとも、何かを掴んだのか?」
テムの質問に、ダイザは、首を横に振る。
「いえ、ただの勘です」
「そうか……」
テムは、ダイザの直感がよく当たることを知っている。
そのため、今後どうするべきかを考え始める。
「テムさん」
「ん?」
ダイザは、城門内を指差す。
城門内では、兵士たちが、相変わらずばたばたと動き回っている。
しかし、国都から外へ出て行く方の検問は、再開されたらしく、ぽつりぽつりと人が出てくる。
「オンジが間もなく来ます」
そうダイザに言われて、テムもオンジの気配が近づいてきていることに気がつく。
「おぉ、そうだな。……ん?」
テムは、オンジの後ろに二つの強い気配を感じ取る。
「これは……?」
「はい。テムさんが感じた通り、おそらく皇衛兵のものです」
「……だよな。魔力波に馴染みがあるもんな」
テムが感じた気配は、どちらも長命族特有の魔力波長を帯びており、その魔力量も短命族に比べて桁違いに多い。
ただ、その二つの気配よりも、オンジの魔力量の方が多いため、始めはそのことに気がつかなかったのである。
「オンジが、国都にいた皇衛兵に知らせてくれたみたいですね」
「そのようだな。これで、少しは楽ができる」
テムは、楽しそうに笑い、ダイザの背中をぽんぽんと叩く。
皇衛兵は、宗主のダイザを守るためにやって来るのである。
テムとしては、ダイザの身を案じることから少し解放され、それだけ自由に動くことができる。
ただし、ダイザにしてみれば、敬われることが増えてしまい、気苦労が絶えないことになってしまう。
「やっぱり、気を使わせていましたか?」
「少しはな」
テムはそう言って、にやりと笑う。
ミショウ村を離れ、遥々国都まで来て、宗主を失う訳にはいかない。
また、ダイザは、ロシュフォール皇族ヤグラムの血を色濃く受け継ぐ者である。
不審な輩をダイザに近づけることも、阻止しなければならない。
「ありがとうございます。でも、テムさんこそ、大切な存在ですよ」
「はははっ。俺は所詮、異端児だ。キントさえ、無事であればいい」
テムは、村に残してきた息子を思いやる。
「おっ! 出てきたぞ」
城門からは、テムが言うように、まずオンジが出てきて、その後ろからは黒い鎧に身を包んだ男女が現れる。
「見たことない顔だな。ダイザは、知っているか?」
「いえ。私も、初めてですよ」
「鎧は、ケーボイ族のものらしいが……、少し違うか?」
ケーボイ族は、国都の遥か北にある部族で、鍛冶職に精通している者が多い部族である。
そのケーボイ族は、黒錆加工を施して作り上げた黒鋼を鎧に採用している。
ただ、オンジの後ろにいる二人は、黒鋼の鎧を着込んではいるが、胴に描かれた意匠は三ツ又の矛と海竜であり、ケーボイ族の鉄鎚と炎の意匠とは異なる。
「あれは、ウテルナ族のものですね。最近、ケーボイ族から別れた支族ですよ」
「ほぅ……。大陸の部族も、色々と変わってきているんだな」
「えぇ。トセンがいい例ですね。あそこも、あと数十年したら、トセン族と呼ばれ、新しい部族になるのかもしれません」
「はははっ。長命族が増えて、賑やかになるのはいいが、そうなっては覚えられんな」
テムは、陽気に笑い、今回の件が済んだら、各部族を巡ってみても悪くないと心の片隅で思う。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
庭にできた異世界で丸儲け。破格なクエスト報酬で社畜奴隷からニートになる。〜投資額に応じたスキルを手に入れると現実世界でも無双していました〜
k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
※元々執筆していたものを加筆して、キャラクターを少し変更したリメイク版です。
ブラック企業に勤めてる服部慧は毎日仕事に明け暮れていた。残業続きで気づけば寝落ちして仕事に行く。そんな毎日を過ごしている。
慧の唯一の夢はこの社会から解放されるために"FIRE"することだった。
FIREとは、Financial Independence Retire Earlyの頭文字をとり、「経済的な自立を実現させて、仕事を早期に退職する生活スタイル」という意味を持っている。簡単に言えば、働かずにお金を手に入れて生活をすることを言う。
慧は好きなことして、ゆっくりとニート生活することを夢見ている。
普段通りに仕事を終えソファーで寝落ちしていると急に地震が起きた。地震速報もなく夢だったのかと思い再び眠るが、次の日、庭に大きな穴が空いていた。
どこか惹かれる穴に入ると、脳内からは無機質なデジタル音声が聞こえてきた。
【投資信託"全世界株式インデックス・ファンド"を所持しているため、一部パラメーターが上昇します】
庭の穴は異世界に繋がっており、投資額に応じてスキルを手に入れる世界だった。しかも、クエストをクリアしないと現実世界には戻れないようだ。
そして、クエストをクリアして戻ってきた慧の手に握られていたのはクエスト報酬と素材売却で手に入れた大金。
これは異世界で社畜会社員が命がけでクエストを達成し、金稼ぎをするそんな物語だ。
ある意味凄惨な異世界 ~ 憧れた異世界転移だったのに ~
ねこうさぎ
ファンタジー
剣と魔法とモンスターの異世界に憧れていたオタク高校生男子が、念願叶って異世界に行けたのだが、そこは彼が憧れていた異世界とは、ちょっと、だいぶ違う異世界だった。
理想とは違う異世界に絶望し、元の世界に帰ろうとする、そんなお話しです。
ギャグ多めです。
りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!
ひつじのはね
ファンタジー
経験値はゼロ、知識は無限大!
無邪気な無表情で周囲を振り回す、ピュアクール美幼児は転生AI?!
突如異世界で『意識』が芽生えたAI『リュウ』は、いつの間にか幼児となっていて――!
最強の知識を持ちながら、AIゆえに無垢で純粋な心を持つリュウ。初めての感情と五感に戸惑いながら、幼子として、人として異世界で生きていこうと奮闘する。
……AIゆえに、幼子ゆえに、ちょっとばかりトンデモ幼児ではあったとしても。
一方、トンデモ幼児を拾ってしまった苦労人、冒険者のリトにもどうやら重い事情があるようで……?
大切に慈しむような、二人の不器用で穏やかな日々。成長していく絆と共に、互いの宿命が交差していく――。
本来タイトル『りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります! ――デジタル・ドラゴン花鳥風月――』です。
サブタイトルが入らなかった……!
旧タイトル『デジタル・ドラゴン ~迷えるAIは幼子としてばんがります~』
※挿絵(羊毛写真)あり。挿絵画像のある話には「*」印をつけています。苦手な方はご注意ください。
検索魔法で助けたもふもふ奴隷が伝説の冒険者だったなんて聞いてませんっ
富士とまと
ファンタジー
異世界に妹と別々の場所へと飛ばされました。
唯一使える鑑定魔法を頼りに妹を探す旅を始めます。
ですがどうにも、私の鑑定魔法って、ちょっと他の人と違うようです。
【鑑定結果〇〇続きはWEBで】と出るんです。
続きをWEBで調べると、秘伝のポーションのレシピまで表示されるんです。
なんだか、もふもふ奴隷さんに懐かれてしまったのですけど、奴隷とか無理ですごめんなさいっ。
尻尾ふらないでぇ!もふもふもふ。
ギルド職員に一目置かれちゃったんですけど、私、普通の接客業ですよ?
*無自覚の能力チート+日本人の知識無双で、時々プチざまぁしつつの、もふもふスローライフ?*
『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する
はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。
スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。
だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。
そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。
勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。
そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。
周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。
素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。
しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。
そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。
『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・
一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる