ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第93話 国都西の城門前3

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 テムから話を聞いたダイザは、腕を組んで眉間にしわを寄せる。

「黒づくめ……というのが気になりますね」

「そうだな。だが、こんな昼過ぎには、闇の者は出歩かんだろ?」

「確かにそうですが、何かがあったのかもしれません」

 ダイザは、テムが商人の護衛兵と話している間にも、周辺の気配をさぐっていた。
 南の城門付近では、多くの人が集まっていて、混乱が広がっているようである。
 また、そこから立ち昇る煙は、徐々に黒煙となり、巨大化してきている。
 これは、火災が大きくなってきている証拠で、消火がうまくできていないことを示している。
 しかし、そちらの方角からは、もう魔力波は感じず、火魔法を使用した魔法師もいない。

「心当たりがあるのか? それとも、何かを掴んだのか?」

 テムの質問に、ダイザは、首を横に振る。

「いえ、ただの勘です」

「そうか……」

 テムは、ダイザの直感がよく当たることを知っている。
 そのため、今後どうするべきかを考え始める。

「テムさん」

「ん?」

 ダイザは、城門内を指差す。
 城門内では、兵士たちが、相変わらずばたばたと動き回っている。
 しかし、国都から外へ出て行く方の検問は、再開されたらしく、ぽつりぽつりと人が出てくる。

「オンジが間もなく来ます」

 そうダイザに言われて、テムもオンジの気配が近づいてきていることに気がつく。

「おぉ、そうだな。……ん?」

 テムは、オンジの後ろに二つの強い気配を感じ取る。

「これは……?」

「はい。テムさんが感じた通り、おそらく皇衛兵のものです」

「……だよな。魔力波に馴染みがあるもんな」

 テムが感じた気配は、どちらも長命族特有の魔力波長を帯びており、その魔力量も短命族に比べて桁違いに多い。
 ただ、その二つの気配よりも、オンジの魔力量の方が多いため、始めはそのことに気がつかなかったのである。

「オンジが、国都にいた皇衛兵に知らせてくれたみたいですね」

「そのようだな。これで、少しは楽ができる」

 テムは、楽しそうに笑い、ダイザの背中をぽんぽんと叩く。
 皇衛兵は、宗主のダイザを守るためにやって来るのである。
 テムとしては、ダイザの身を案じることから少し解放され、それだけ自由に動くことができる。
 ただし、ダイザにしてみれば、敬われることが増えてしまい、気苦労が絶えないことになってしまう。

「やっぱり、気を使わせていましたか?」

「少しはな」

 テムはそう言って、にやりと笑う。
 ミショウ村を離れ、遥々はるばる国都まで来て、宗主を失う訳にはいかない。
 また、ダイザは、ロシュフォール皇族ヤグラムの血を色濃く受け継ぐ者である。
 不審な輩をダイザに近づけることも、阻止しなければならない。

「ありがとうございます。でも、テムさんこそ、大切な存在ですよ」

「はははっ。俺は所詮、異端児だ。キントさえ、無事であればいい」

 テムは、村に残してきた息子を思いやる。

「おっ! 出てきたぞ」

 城門からは、テムが言うように、まずオンジが出てきて、その後ろからは黒い鎧に身を包んだ男女が現れる。

「見たことない顔だな。ダイザは、知っているか?」

「いえ。私も、初めてですよ」

「鎧は、ケーボイ族のものらしいが……、少し違うか?」

 ケーボイ族は、国都の遥か北にある部族で、鍛冶職に精通している者が多い部族である。
 そのケーボイ族は、黒錆加工を施して作り上げた黒鋼くろはがねを鎧に採用している。
 ただ、オンジの後ろにいる二人は、黒鋼の鎧を着込んではいるが、胴に描かれた意匠は三ツ又のほこと海竜であり、ケーボイ族の鉄鎚かなづちと炎の意匠とは異なる。

「あれは、ウテルナ族のものですね。最近、ケーボイ族から別れた支族ですよ」

「ほぅ……。大陸の部族も、色々と変わってきているんだな」

「えぇ。トセンがいい例ですね。あそこも、あと数十年したら、トセン族と呼ばれ、新しい部族になるのかもしれません」

「はははっ。長命族が増えて、賑やかになるのはいいが、そうなっては覚えられんな」

 テムは、陽気に笑い、今回の件が済んだら、各部族を巡ってみても悪くないと心の片隅で思う。
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