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凍雪国編第4章
第81話 国都西の工房1
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ダイザとテムは、オンジと別れたあと、すぐに職人の男を追うのではなく、そばの果樹園を見学し、そのまま北の凍土林の中へと入る。
男の気配は、ダイザが追い続けており、西の城門ぐらいまで離れても見失うことはない。
また、即座に尾行を開始するよりも、別の方角へ進んだ方が怪しまれずに済む。
凍土林内を北上していく二人は、林の中で特に変わったところがないかを確認していく。
国都周辺の凍土林には、大型獣が寄りつかないため、林の中は小鳥や兎などの小動物で溢れている。
「何も……ないな」
ミショウ村の自然の中で育った二人は、林の中で人手が入っている場所があれば、すぐに気がつくはずである。
しかし、国都周辺の林の中は、春の若葉が生い茂っており、山菜採りの人が歩いたとおぼしき細い林道が奥へと続いているだけである。
「えぇ、そのようですね。魔力波も感じませんね」
ダイザとテムは、辺りをキョロキョロと見渡すが、人工物などはなく、ごく自然な植生が広がっている。
テムは、林道の奥を指差し、ダイザへ聞いてみる。
「この奥へ進んでみるか?」
「いえ。これ以上、男と離れれば、見失う可能性が高くなります」
「そうだよな。国都に入られたら、まずいしな」
テムは、林道の奥が気になるものの、尾行主体を見失っては元も子もないと思い直す。
「ここを調べるのは、また今度だな」
「はい。あの男が、どこで何をしていたのか、気になります。しかし、それは、本人を問い詰めた方が早そうですね」
「……だな。では、尾行を開始するか」
「えぇ」
ダイザとテムは、凍土林の中での探索を止め、職人男のあとを追い始める。
ただ、先日の尾行とは異なり、今度は馬に乗っているため、気配を完全に消すことはできない。
そのため、必要以上の接近は避けなければならない。
二人は、一度北の城門まで戻り、そこから男と同じように城壁に沿って南下する道を辿る。
ダイザとテムが、西の城門前まで来ても、先に進んでいた職人男は南下を続け、国都へ入る様子を見せない。
二人は、幾分ほっとしたものの、男の行き先が分からず、首を傾げつつ、男との距離を保つ。
そして、男の視界に、二人の姿が入らないように注意して尾行を続ける。
男が進む先には、城壁に沿って南城門まで出る道と、そのまま南下し、南街道まで出る道の分岐点がある。
また、その手前には、西の凍土林の中へ入る細い道も存在している。
男は、ダイザとテムが尾行していることには全く気がつかず、前を向いて歩き続け、急に西の凍土林の中へ入る道を選ぶ。
「おっ! 動きがあったな」
男との距離は、テムも気配が察知できるところまできている。
「曲がりましたね。今度は、こちらの林に用があるんですね」
「そのようだな。何か、感じるか?」
「そうですね……。あの岩場の向こうに、複数人の気配を感じます。それと、そこから僅かな魔力波も……」
ダイザが指し示したのは、西の凍土林の中にある岩場である。
その辺り一帯だけは、木が生えておらず、また小山になっているため、北の城壁角に身を隠している二人からも見て取れる。
もっとも、身を隠しているとはいえ、二人は、職人男を気配で探っているのであり、城壁の陰から身を乗り出して覗き見しているわけではない。
そのため、北の城門に並んでいる人たちからダイザやテムを見れば、城壁の日陰で馬に乗り、立ち話をしているようにしか見えない。
「それだな。何をしているか、突き止めてみるか」
テムは、男が曲がった道を行くのではなく、このまま近くにある林へ入り、大きく迂回するつもりである。
「しかし、こうなると、馬が邪魔だな。オンジ殿へ預けてしまえば良かった」
「確かに、そうですね。どこかで置いていきますか?」
「あぁ。林の中で乗り捨てよう。軽い結界を張っておけば、問題ないだろう」
テムは、馬を凍土林の中へ待たせ、人や獣避けの結界を張るつもりである。
国都の人々は、ダイザやテムほど魔力が強くないため、テムの結界を破ることはまず無理である。
二人は、先に身軽になることを優先し、身を隠していた城壁から西の凍土林へ向かう。
男の気配は、ダイザが追い続けており、西の城門ぐらいまで離れても見失うことはない。
また、即座に尾行を開始するよりも、別の方角へ進んだ方が怪しまれずに済む。
凍土林内を北上していく二人は、林の中で特に変わったところがないかを確認していく。
国都周辺の凍土林には、大型獣が寄りつかないため、林の中は小鳥や兎などの小動物で溢れている。
「何も……ないな」
ミショウ村の自然の中で育った二人は、林の中で人手が入っている場所があれば、すぐに気がつくはずである。
しかし、国都周辺の林の中は、春の若葉が生い茂っており、山菜採りの人が歩いたとおぼしき細い林道が奥へと続いているだけである。
「えぇ、そのようですね。魔力波も感じませんね」
ダイザとテムは、辺りをキョロキョロと見渡すが、人工物などはなく、ごく自然な植生が広がっている。
テムは、林道の奥を指差し、ダイザへ聞いてみる。
「この奥へ進んでみるか?」
「いえ。これ以上、男と離れれば、見失う可能性が高くなります」
「そうだよな。国都に入られたら、まずいしな」
テムは、林道の奥が気になるものの、尾行主体を見失っては元も子もないと思い直す。
「ここを調べるのは、また今度だな」
「はい。あの男が、どこで何をしていたのか、気になります。しかし、それは、本人を問い詰めた方が早そうですね」
「……だな。では、尾行を開始するか」
「えぇ」
ダイザとテムは、凍土林の中での探索を止め、職人男のあとを追い始める。
ただ、先日の尾行とは異なり、今度は馬に乗っているため、気配を完全に消すことはできない。
そのため、必要以上の接近は避けなければならない。
二人は、一度北の城門まで戻り、そこから男と同じように城壁に沿って南下する道を辿る。
ダイザとテムが、西の城門前まで来ても、先に進んでいた職人男は南下を続け、国都へ入る様子を見せない。
二人は、幾分ほっとしたものの、男の行き先が分からず、首を傾げつつ、男との距離を保つ。
そして、男の視界に、二人の姿が入らないように注意して尾行を続ける。
男が進む先には、城壁に沿って南城門まで出る道と、そのまま南下し、南街道まで出る道の分岐点がある。
また、その手前には、西の凍土林の中へ入る細い道も存在している。
男は、ダイザとテムが尾行していることには全く気がつかず、前を向いて歩き続け、急に西の凍土林の中へ入る道を選ぶ。
「おっ! 動きがあったな」
男との距離は、テムも気配が察知できるところまできている。
「曲がりましたね。今度は、こちらの林に用があるんですね」
「そのようだな。何か、感じるか?」
「そうですね……。あの岩場の向こうに、複数人の気配を感じます。それと、そこから僅かな魔力波も……」
ダイザが指し示したのは、西の凍土林の中にある岩場である。
その辺り一帯だけは、木が生えておらず、また小山になっているため、北の城壁角に身を隠している二人からも見て取れる。
もっとも、身を隠しているとはいえ、二人は、職人男を気配で探っているのであり、城壁の陰から身を乗り出して覗き見しているわけではない。
そのため、北の城門に並んでいる人たちからダイザやテムを見れば、城壁の日陰で馬に乗り、立ち話をしているようにしか見えない。
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「しかし、こうなると、馬が邪魔だな。オンジ殿へ預けてしまえば良かった」
「確かに、そうですね。どこかで置いていきますか?」
「あぁ。林の中で乗り捨てよう。軽い結界を張っておけば、問題ないだろう」
テムは、馬を凍土林の中へ待たせ、人や獣避けの結界を張るつもりである。
国都の人々は、ダイザやテムほど魔力が強くないため、テムの結界を破ることはまず無理である。
二人は、先に身軽になることを優先し、身を隠していた城壁から西の凍土林へ向かう。
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