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凍雪国編第4章
第77話 国都の検問1
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国都の北にある凍土林の中を流れる川の水を利用して、ヘンナの粉末を毛染め薬に変える。
ダイザとテムは、赤茶色のドロドロした液体を丹念に髪に塗りつけ、薬効が現れるまでしばし待つ。
二人とも、髪の毛が短いため、根元付近までしっかりと毛染め薬を塗り、白銀色が見えないように気をつける。
また、眉毛にも毛染め薬を塗り、眉毛の毛染めも忘れないようにする。
そうして、30分ほど経った頃に、川の水で全てを洗い流すと、白銀色の髪の毛や眉毛は、見事に赤茶色に染まる。
ダイザとテムは、お互いを見合って、がらりと印象が変わったことを笑い合う。
熱帯雨林に住む者たちは、日常的にヘンナで髪を染めており、赤茶色の髪の毛は、南国に住む者を連想させるのである。
ただし、南国の者たちは、日焼けした肌をしている。
そのため、普段から農作業で日焼けしているテムは違和感がない。
しかし、ダイザは、透き通るような白い肌をしており、毛染め薬を使用していることが分かってしまう。
もちろん、毛染め薬を使用していることが周りに知られたからといって、すぐに不都合が生じるかと言えば、そういうこともない。
国都でも、白髪を染めて、赤茶色の髪の毛をしている者も多いのである。
「はははっ。ダイザは、似合わんな。それじゃぁ、気取った洒落者だな」
「そういうテムさんは、まるっきり南部の人ですよ。オシバス共和国から来たと言えば、誰も疑わないでしょうね」
ダイザは、愉快そうに笑うテムに、これまた楽しそうに言い返す。
オシバス共和国は、ルシタニア帝国の南に位置する国で、熱帯雨林があり、頭皮を守るためにヘンナの葉で髪の毛を染めている者が多い。
今のテムは、オシバス共和国の住人と比べても、それほど変わらない姿である。
「はははっ。そうか? 国都でどこから来たと問われたときには、上手い言い逃れができるな」
テムは、出身地を明かすわけにはいかず、昔に作成した国民証には、サイバジ族のリポウズが出身地であると記載されている。
これは、ミショウ村と記載できないため、サイバジ族に協力して貰った結果である。
なお、ダイザとバージも、自身の国民証の出身地は、テムと同じリポウズになっている。
「それは、無理ですよ。方言が違いますから……」
「はははっ。確かに、しゃべれば、見破られるな。その嘘は、やめておこう」
テムは、嘘を重ねれば、どこかで無理がくることを理解している。
そのため、サイバジ族の者であることを誇りにして語るしかない。
ダイザとテムは、オンジが待つところまで戻り、オンジからも二人で話したような感想を貰う。
その後、三人は馬に乗り、国都の城門へ向かう。
ダイザとテムの毛染めが終わっても、まだ日は高く、昼を少し過ぎた時刻である。
三人が城門へ近づくと、検問の行列はかなり解消されて、今は30分も待てば、順番が回ってきそうである。
「ダイザ、テム殿」
すでに馬を降りていたオンジは、手綱を引いて行列の最後尾につき、二人にも馬を降りてくるような仕草をする。
「おっ」
オンジの意図を汲み取ったテムは、素早く馬を降り、行列に並ぶ。
ダイザも、二人に倣って馬を降り、テムの隣に立つ。
「検問では、国民証を見せてください。田舎から馬を売りに来たと言えば、すんなりと通してくれるはずです」
「分かった。準備をしておこう」
テムは、背負っていた収納袋をガサガサと引っ掻き回し、底の方に眠っていた国民証を取り出す。
すでに経年劣化が見られ、古びた印象である。
「私は、先に検問を受けます。ダイザとテム殿は、あとに受けてください」
三人は、先程の凍土林の中で、検問を受けるときのことを話し合っている。
それによると、オンジは、ギルドの依頼を終えて戻ってきたことにし、ダイザとテムは、馬と黒銀熊の毛皮を売りに来たことにした。
そのため、三人が乗る鞍に彫られたネオクトンやゴイメールの紋章は、テムが斧で器用に削り取り、それと分からぬように補修を済ませている。
また、誰も乗らぬ三頭の馬は裸馬にし、取り付けられていた手綱以外の馬具は、凍土林の中で燃やしてしまった。
これで、一見すると、ダイザとテムは、リポウズからやって来たように見える。
ダイザとテムは、赤茶色のドロドロした液体を丹念に髪に塗りつけ、薬効が現れるまでしばし待つ。
二人とも、髪の毛が短いため、根元付近までしっかりと毛染め薬を塗り、白銀色が見えないように気をつける。
また、眉毛にも毛染め薬を塗り、眉毛の毛染めも忘れないようにする。
そうして、30分ほど経った頃に、川の水で全てを洗い流すと、白銀色の髪の毛や眉毛は、見事に赤茶色に染まる。
ダイザとテムは、お互いを見合って、がらりと印象が変わったことを笑い合う。
熱帯雨林に住む者たちは、日常的にヘンナで髪を染めており、赤茶色の髪の毛は、南国に住む者を連想させるのである。
ただし、南国の者たちは、日焼けした肌をしている。
そのため、普段から農作業で日焼けしているテムは違和感がない。
しかし、ダイザは、透き通るような白い肌をしており、毛染め薬を使用していることが分かってしまう。
もちろん、毛染め薬を使用していることが周りに知られたからといって、すぐに不都合が生じるかと言えば、そういうこともない。
国都でも、白髪を染めて、赤茶色の髪の毛をしている者も多いのである。
「はははっ。ダイザは、似合わんな。それじゃぁ、気取った洒落者だな」
「そういうテムさんは、まるっきり南部の人ですよ。オシバス共和国から来たと言えば、誰も疑わないでしょうね」
ダイザは、愉快そうに笑うテムに、これまた楽しそうに言い返す。
オシバス共和国は、ルシタニア帝国の南に位置する国で、熱帯雨林があり、頭皮を守るためにヘンナの葉で髪の毛を染めている者が多い。
今のテムは、オシバス共和国の住人と比べても、それほど変わらない姿である。
「はははっ。そうか? 国都でどこから来たと問われたときには、上手い言い逃れができるな」
テムは、出身地を明かすわけにはいかず、昔に作成した国民証には、サイバジ族のリポウズが出身地であると記載されている。
これは、ミショウ村と記載できないため、サイバジ族に協力して貰った結果である。
なお、ダイザとバージも、自身の国民証の出身地は、テムと同じリポウズになっている。
「それは、無理ですよ。方言が違いますから……」
「はははっ。確かに、しゃべれば、見破られるな。その嘘は、やめておこう」
テムは、嘘を重ねれば、どこかで無理がくることを理解している。
そのため、サイバジ族の者であることを誇りにして語るしかない。
ダイザとテムは、オンジが待つところまで戻り、オンジからも二人で話したような感想を貰う。
その後、三人は馬に乗り、国都の城門へ向かう。
ダイザとテムの毛染めが終わっても、まだ日は高く、昼を少し過ぎた時刻である。
三人が城門へ近づくと、検問の行列はかなり解消されて、今は30分も待てば、順番が回ってきそうである。
「ダイザ、テム殿」
すでに馬を降りていたオンジは、手綱を引いて行列の最後尾につき、二人にも馬を降りてくるような仕草をする。
「おっ」
オンジの意図を汲み取ったテムは、素早く馬を降り、行列に並ぶ。
ダイザも、二人に倣って馬を降り、テムの隣に立つ。
「検問では、国民証を見せてください。田舎から馬を売りに来たと言えば、すんなりと通してくれるはずです」
「分かった。準備をしておこう」
テムは、背負っていた収納袋をガサガサと引っ掻き回し、底の方に眠っていた国民証を取り出す。
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「私は、先に検問を受けます。ダイザとテム殿は、あとに受けてください」
三人は、先程の凍土林の中で、検問を受けるときのことを話し合っている。
それによると、オンジは、ギルドの依頼を終えて戻ってきたことにし、ダイザとテムは、馬と黒銀熊の毛皮を売りに来たことにした。
そのため、三人が乗る鞍に彫られたネオクトンやゴイメールの紋章は、テムが斧で器用に削り取り、それと分からぬように補修を済ませている。
また、誰も乗らぬ三頭の馬は裸馬にし、取り付けられていた手綱以外の馬具は、凍土林の中で燃やしてしまった。
これで、一見すると、ダイザとテムは、リポウズからやって来たように見える。
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