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凍雪国編第4章
第76話 テムの毛染め薬3
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ダイザとテム、オンジが、それぞれ協力してヘンナの葉を摘み取ると、10分もかからないうちに目標としていた量が集まる。
集められたヘンナの葉は、三人が抱えて河川敷へ運び、作業がしやすい場所へ置く。
テムは、小石の上に革袋を置き、その口を大きく開いた状態にする。
「さて、あとは、これを乾燥させて粉にすればいい」
テムは、魔力を練り上げ、水魔法を唱える。
『dehydration』
小石の上に積み重ねられたヘンナの葉は、みるみるうちに水分を抜き取られ、しなしなになって乾燥していく。
その過程で、濃い緑色をしていたのが茶色へと変化していく。
ヘンナの葉を乾燥させた粉は、茶色の粉末になり、毛を染めると赤茶色に仕上がる。
なお、テムが唱えた魔法は、物から水を抜き取る脱水魔法で、水魔法の使い方としては少々特殊である。
「テム殿」
「ん?」
ヘンナの葉の乾燥具合を確かめていたテムは、オンジの問い掛けに振り向く。
「その魔法は、人前では使用しないでください」
「何でだ?」
「その魔法が、禁忌魔法に指定されているからです」
脱水魔法は、大陸では知る者がほとんど残っておらず、失われた魔法の1つになる。
ただ、この魔法は、使い方を誤り、人や動物などに使用すると、命を奪う魔法になってしまう。
そのため、魔法師協会は、大昔に脱水魔法を禁忌に指定し、その存在そのものを抹消している。
「そうなのか? 凄く便利な魔法だぞ?」
ミショウ村では、ロシュフォール帝国で研究されていた魔法が廃れずに、今もなお使用され続けている。
特に、大陸では禁忌とされる魔法でも、生活に役立つ魔法は、村では日常的に使用されており、テムも保存食の乾燥に脱水魔法を使っている。
ただし、衣類の乾燥には、風魔法と火魔法を利用し、温風を作り出して乾燥させる。
そうしないと、繊維の水分が完全に失われ、生地がボロボロになってしまう。
「悪用する者に知られたら大変です。人が無惨に殺されかねません」
オンジは、テムを諭すように言い、ゆっくりと首を横に振る。
「そうか……。確かに、人に使えば、人はあっという間に干物にされてしまうな」
テムは、オンジの言葉に素直に頷き、脱水魔法の危険性を理解する。
そばで聞いていたダイザは、教練師に就いていた際に、禁忌魔法については一通り頭に入れていた。
だが、脱水魔法については初耳だった。
「私も、気をつけねばいけませんね。忘れていることや知らないことが多そうです」
「おいおい。軍の先生が頼りないのことを言ってくれるな」
「もう、随分前の話ですよ」
ダイザが、国都の教練師をしていたのは、35年ほど前のことである。
魔法師協会の決め事も、その頃より多く細かくなっているはずで、ダイザにも分からないことが多そうである。
「そうだがな……。俺は、教練師をやったこともないし、大陸の規則を学んだこともない」
テムは、己が大陸では世間知らずであることを認識している。
「オンジ殿。あとで、俺に講義をしてくれ。国都で動く前に、俺も知らなければいけないことが多そうだ」
「えぇ、いいですよ。しばらくは、ギルドに泊まって貰いますから、そのときに、詳しくお伝えします」
「助かる。無用なトラブルは、避けたいからな」
「オンジ。私も、同席していいか?」
「いいぞ。宗主が物知らずでは、困るからな」
「はははっ。違いない」
テムは、オンジの的を得た言葉を聞いて、愉快そうに笑う。
そうして、一頻り笑ったあと、乾燥させたヘンナの葉を革袋の中に入れ、粉々に砕いていく。
「あらかた完成したな。あとは、水に溶くだけで、毛染め薬として使える」
「ここで、染めてしまいますか?」
「そうだな。国都で悪目立ちする前がいい」
そう言って、テムは、凍土林の中に入り、丁度よい太さの木を切り倒して、その幹を削ってから簡易な器を作る。
そして戻ってきて、自身とダイザの分だけ、革袋の中からヘンナの粉を器で掬い上げる。
「残りは、国都で売ろう。年寄りの白髪染めとして、欲しがる人はいるだろう」
「売れますかね?」
「さぁな。売れなくてもいいんだ。要は、話し掛ける種になればいい」
テムは、ダイザとオンジに向かってにやりと笑い、一足先に川へと向かう。
集められたヘンナの葉は、三人が抱えて河川敷へ運び、作業がしやすい場所へ置く。
テムは、小石の上に革袋を置き、その口を大きく開いた状態にする。
「さて、あとは、これを乾燥させて粉にすればいい」
テムは、魔力を練り上げ、水魔法を唱える。
『dehydration』
小石の上に積み重ねられたヘンナの葉は、みるみるうちに水分を抜き取られ、しなしなになって乾燥していく。
その過程で、濃い緑色をしていたのが茶色へと変化していく。
ヘンナの葉を乾燥させた粉は、茶色の粉末になり、毛を染めると赤茶色に仕上がる。
なお、テムが唱えた魔法は、物から水を抜き取る脱水魔法で、水魔法の使い方としては少々特殊である。
「テム殿」
「ん?」
ヘンナの葉の乾燥具合を確かめていたテムは、オンジの問い掛けに振り向く。
「その魔法は、人前では使用しないでください」
「何でだ?」
「その魔法が、禁忌魔法に指定されているからです」
脱水魔法は、大陸では知る者がほとんど残っておらず、失われた魔法の1つになる。
ただ、この魔法は、使い方を誤り、人や動物などに使用すると、命を奪う魔法になってしまう。
そのため、魔法師協会は、大昔に脱水魔法を禁忌に指定し、その存在そのものを抹消している。
「そうなのか? 凄く便利な魔法だぞ?」
ミショウ村では、ロシュフォール帝国で研究されていた魔法が廃れずに、今もなお使用され続けている。
特に、大陸では禁忌とされる魔法でも、生活に役立つ魔法は、村では日常的に使用されており、テムも保存食の乾燥に脱水魔法を使っている。
ただし、衣類の乾燥には、風魔法と火魔法を利用し、温風を作り出して乾燥させる。
そうしないと、繊維の水分が完全に失われ、生地がボロボロになってしまう。
「悪用する者に知られたら大変です。人が無惨に殺されかねません」
オンジは、テムを諭すように言い、ゆっくりと首を横に振る。
「そうか……。確かに、人に使えば、人はあっという間に干物にされてしまうな」
テムは、オンジの言葉に素直に頷き、脱水魔法の危険性を理解する。
そばで聞いていたダイザは、教練師に就いていた際に、禁忌魔法については一通り頭に入れていた。
だが、脱水魔法については初耳だった。
「私も、気をつけねばいけませんね。忘れていることや知らないことが多そうです」
「おいおい。軍の先生が頼りないのことを言ってくれるな」
「もう、随分前の話ですよ」
ダイザが、国都の教練師をしていたのは、35年ほど前のことである。
魔法師協会の決め事も、その頃より多く細かくなっているはずで、ダイザにも分からないことが多そうである。
「そうだがな……。俺は、教練師をやったこともないし、大陸の規則を学んだこともない」
テムは、己が大陸では世間知らずであることを認識している。
「オンジ殿。あとで、俺に講義をしてくれ。国都で動く前に、俺も知らなければいけないことが多そうだ」
「えぇ、いいですよ。しばらくは、ギルドに泊まって貰いますから、そのときに、詳しくお伝えします」
「助かる。無用なトラブルは、避けたいからな」
「オンジ。私も、同席していいか?」
「いいぞ。宗主が物知らずでは、困るからな」
「はははっ。違いない」
テムは、オンジの的を得た言葉を聞いて、愉快そうに笑う。
そうして、一頻り笑ったあと、乾燥させたヘンナの葉を革袋の中に入れ、粉々に砕いていく。
「あらかた完成したな。あとは、水に溶くだけで、毛染め薬として使える」
「ここで、染めてしまいますか?」
「そうだな。国都で悪目立ちする前がいい」
そう言って、テムは、凍土林の中に入り、丁度よい太さの木を切り倒して、その幹を削ってから簡易な器を作る。
そして戻ってきて、自身とダイザの分だけ、革袋の中からヘンナの粉を器で掬い上げる。
「残りは、国都で売ろう。年寄りの白髪染めとして、欲しがる人はいるだろう」
「売れますかね?」
「さぁな。売れなくてもいいんだ。要は、話し掛ける種になればいい」
テムは、ダイザとオンジに向かってにやりと笑い、一足先に川へと向かう。
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