405 / 492
凍雪国編第4章
第69話 最高純度の透輝石2
しおりを挟む
ダイザとテムの腰にある皮袋には、親指ほどの大きさの透輝石が入っている。
それらは、ドルマから10個ずつ渡されたもので、今、サイバジ族の集落リポウズを目指しているバージも同じものを持っている。
これらの透輝石は、もともとは戦いを想定して、魔力補充用として渡されたものだ。
しかし、それらを全て換金すると、たいへんな財を築けそうである。
「ふむ。どうして、それほど相場が上がっているのかな?」
テムは、透輝石の値段を聞いて驚いた。
だが、すぐに冷静になり、その背景を読み取ろうとする。
透輝石は、魔素が結晶化したもので、そこから魔力を吸い出すことができる。
この透輝石に魔方陣を刻み込み、魔法を発動できるように加工したものが魔石である。
どちらも戦争が近くなると、相場が上がりやすい傾向にある。
「国都では、近く戦いになるのではないかと噂されています」
「外国が攻めてくるのか?」
ディスガルド国からみた外国とは、南西にあるマクヤード国か、南方のバルト国やルシタニア帝国になる。
ただし、バルト国は長らく鎖国している国で、攻めてくることは考えにくい。
また、ルシタニア帝国にしても、ディスガルド国とは直接国境を接していない。
そのため、ルシタニア帝国が攻めてくるとすれば、バルト国を越えて攻め寄せてくるか、マクヤード国を経由してくるしかない。
テムの問いかけに、リュウトウは、ゆっくりと首を横に振る。
「いえ、外国ではなく、あるとすれば、チヌルの反乱です」
「チヌルか……」
テムは、初めて聞いた風を装う。
チヌルの長ヒュブは、ディスガルド国の外務卿であり、国都の重鎮である。
そのヒュブは、ミショウ村襲撃事件を裏で手引きした可能性があり、ダイザやテムにとって最重要人物である。
「はい。ここ最近では、チヌルが武装蜂起するのではないかとの噂が流れています。また実際に、我々商人に対して、チヌルからの武器や防具などの戦関連物資の受注が増えています」
「だから、こんなに高いのか……」
テムは、リュウトウの手にある透輝石を見つめる。
透輝石や魔石が高騰しているのは、短命族には魔力量の多い者や魔法を使いこなせる者が少ないからである。
「はい。ただ、私どもでは、これを買い取るだけの資金が手元にはありません」
「そうだよな……」
金貨550枚と言えば、大金である。
テムには、リュウトウがどれほどの規模の交易商かは分からないが、馬車で移動する商隊が通常金貨550枚を持ち運ぶことはない。
「分かった。それは抜きにしてくれていいから、そっちの魔石と宝石を買い取ってくれ。幾らぐらいになる?」
そう言って、テムは、残念そうな表情をちらりと見せたリュウトウから透輝石を受け取る。
テムにとっては、その透輝石はあまり希少価値のあるものではない。
親指大の透輝石は、ミショウ村の南西にあるテラ湖の湖畔へ行けば、幾らでも採取できる。
「総額で、金貨32枚と銀貨6枚です。内訳は、一等級が金貨1枚、二等級が銀貨7枚、三等級が銀貨3枚、四等級が銀貨1枚となります」
大陸での貨幣価値は、金貨1枚で銀貨10枚と交換できる。
書見台の上には、一等級は3個しかなく、二等級も5個しかない。
あとは、ほとんどが三等級で、四等級がぽつぽつとある。
「分かった。その金額でいい。買い取って貰えるか?」
テムは、リュウトウの鑑定に疑問を差し挟まず、リュウトウの言い値に応じる。
リュウトウは、自身の鑑定が信じられたことに満足し、礼を述べる。
「ありがとうございます。では、すぐにお代を持って来させます」
後ろを振り返ったリュウトウは、指示を出しておいた部下を手招きする。
それを見た部下は即座に動き、金属で補強された箱を運んでくる。
リュウトウは、その中からお代となる金貨と銀貨を取り出して、テムに手渡す。
「金貨32枚と銀貨6枚です。お確かめください」
テムは、金貨の半分をダイザに手渡し、残りの金貨と銀貨を数える。
そして、ダイザの数えた金貨と合算して、代金がきちんと合っていることを確認する。
「ぴったりだ。急な願いを快く引き受けてくれて、感謝する」
「いえいえ。私どもも、急騰している魔石を仕入れることができて、良い商いとなりました」
「国都では、これ以上の値がつくのか?」
「いえ。国都では、先程の値が相場です。私どもは、そのうちチヌルへ行き、高く売るつもりなのです」
リュウトウは、部下と目を合わせて笑い合う。
チヌルでは、本当に戦準備が進行しているようである。
それらは、ドルマから10個ずつ渡されたもので、今、サイバジ族の集落リポウズを目指しているバージも同じものを持っている。
これらの透輝石は、もともとは戦いを想定して、魔力補充用として渡されたものだ。
しかし、それらを全て換金すると、たいへんな財を築けそうである。
「ふむ。どうして、それほど相場が上がっているのかな?」
テムは、透輝石の値段を聞いて驚いた。
だが、すぐに冷静になり、その背景を読み取ろうとする。
透輝石は、魔素が結晶化したもので、そこから魔力を吸い出すことができる。
この透輝石に魔方陣を刻み込み、魔法を発動できるように加工したものが魔石である。
どちらも戦争が近くなると、相場が上がりやすい傾向にある。
「国都では、近く戦いになるのではないかと噂されています」
「外国が攻めてくるのか?」
ディスガルド国からみた外国とは、南西にあるマクヤード国か、南方のバルト国やルシタニア帝国になる。
ただし、バルト国は長らく鎖国している国で、攻めてくることは考えにくい。
また、ルシタニア帝国にしても、ディスガルド国とは直接国境を接していない。
そのため、ルシタニア帝国が攻めてくるとすれば、バルト国を越えて攻め寄せてくるか、マクヤード国を経由してくるしかない。
テムの問いかけに、リュウトウは、ゆっくりと首を横に振る。
「いえ、外国ではなく、あるとすれば、チヌルの反乱です」
「チヌルか……」
テムは、初めて聞いた風を装う。
チヌルの長ヒュブは、ディスガルド国の外務卿であり、国都の重鎮である。
そのヒュブは、ミショウ村襲撃事件を裏で手引きした可能性があり、ダイザやテムにとって最重要人物である。
「はい。ここ最近では、チヌルが武装蜂起するのではないかとの噂が流れています。また実際に、我々商人に対して、チヌルからの武器や防具などの戦関連物資の受注が増えています」
「だから、こんなに高いのか……」
テムは、リュウトウの手にある透輝石を見つめる。
透輝石や魔石が高騰しているのは、短命族には魔力量の多い者や魔法を使いこなせる者が少ないからである。
「はい。ただ、私どもでは、これを買い取るだけの資金が手元にはありません」
「そうだよな……」
金貨550枚と言えば、大金である。
テムには、リュウトウがどれほどの規模の交易商かは分からないが、馬車で移動する商隊が通常金貨550枚を持ち運ぶことはない。
「分かった。それは抜きにしてくれていいから、そっちの魔石と宝石を買い取ってくれ。幾らぐらいになる?」
そう言って、テムは、残念そうな表情をちらりと見せたリュウトウから透輝石を受け取る。
テムにとっては、その透輝石はあまり希少価値のあるものではない。
親指大の透輝石は、ミショウ村の南西にあるテラ湖の湖畔へ行けば、幾らでも採取できる。
「総額で、金貨32枚と銀貨6枚です。内訳は、一等級が金貨1枚、二等級が銀貨7枚、三等級が銀貨3枚、四等級が銀貨1枚となります」
大陸での貨幣価値は、金貨1枚で銀貨10枚と交換できる。
書見台の上には、一等級は3個しかなく、二等級も5個しかない。
あとは、ほとんどが三等級で、四等級がぽつぽつとある。
「分かった。その金額でいい。買い取って貰えるか?」
テムは、リュウトウの鑑定に疑問を差し挟まず、リュウトウの言い値に応じる。
リュウトウは、自身の鑑定が信じられたことに満足し、礼を述べる。
「ありがとうございます。では、すぐにお代を持って来させます」
後ろを振り返ったリュウトウは、指示を出しておいた部下を手招きする。
それを見た部下は即座に動き、金属で補強された箱を運んでくる。
リュウトウは、その中からお代となる金貨と銀貨を取り出して、テムに手渡す。
「金貨32枚と銀貨6枚です。お確かめください」
テムは、金貨の半分をダイザに手渡し、残りの金貨と銀貨を数える。
そして、ダイザの数えた金貨と合算して、代金がきちんと合っていることを確認する。
「ぴったりだ。急な願いを快く引き受けてくれて、感謝する」
「いえいえ。私どもも、急騰している魔石を仕入れることができて、良い商いとなりました」
「国都では、これ以上の値がつくのか?」
「いえ。国都では、先程の値が相場です。私どもは、そのうちチヌルへ行き、高く売るつもりなのです」
リュウトウは、部下と目を合わせて笑い合う。
チヌルでは、本当に戦準備が進行しているようである。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※
チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~
ふゆ
ファンタジー
私は死んだ。
はずだったんだけど、
「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」
神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。
なんと幼女になっちゃいました。
まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!
エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか?
*不定期更新になります
*誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください!
*ところどころほのぼのしてます( ^ω^ )
*小説家になろう様にも投稿させていただいています
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
生産性厨が異世界で国造り~授けられた能力は手から何でも出せる能力でした~
天樹 一翔
ファンタジー
対向車線からトラックが飛び出してきた。
特に恐怖を感じることも無く、死んだなと。
想像したものを具現化できたら、もっと生産性があがるのにな。あと、女の子でも作って童貞捨てたい。いや。それは流石に生の女の子がいいか。我ながら少しサイコ臭して怖いこと言ったな――。
手から何でも出せるスキルで国を造ったり、無双したりなどの、異世界転生のありがちファンタジー作品です。
王国? 人外の軍勢? 魔王? なんでも来いよ! 力でねじ伏せてやるっ!
感想やお気に入り、しおり等々頂けると幸甚です!
モチベーション上がりますので是非よろしくお願い致します♪
また、本作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨムで公開している作品となります。
小説家になろうの閲覧数は170万。
エブリスタの閲覧数は240万。また、毎日トレンドランキング、ファンタジーランキング30位以内に入っております!
カクヨムの閲覧数は45万。
日頃から読んでくださる方に感謝です!
王女の夢見た世界への旅路
ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。
無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。
王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。
これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる