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凍雪国編第4章
第69話 最高純度の透輝石2
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ダイザとテムの腰にある皮袋には、親指ほどの大きさの透輝石が入っている。
それらは、ドルマから10個ずつ渡されたもので、今、サイバジ族の集落リポウズを目指しているバージも同じものを持っている。
これらの透輝石は、もともとは戦いを想定して、魔力補充用として渡されたものだ。
しかし、それらを全て換金すると、たいへんな財を築けそうである。
「ふむ。どうして、それほど相場が上がっているのかな?」
テムは、透輝石の値段を聞いて驚いた。
だが、すぐに冷静になり、その背景を読み取ろうとする。
透輝石は、魔素が結晶化したもので、そこから魔力を吸い出すことができる。
この透輝石に魔方陣を刻み込み、魔法を発動できるように加工したものが魔石である。
どちらも戦争が近くなると、相場が上がりやすい傾向にある。
「国都では、近く戦いになるのではないかと噂されています」
「外国が攻めてくるのか?」
ディスガルド国からみた外国とは、南西にあるマクヤード国か、南方のバルト国やルシタニア帝国になる。
ただし、バルト国は長らく鎖国している国で、攻めてくることは考えにくい。
また、ルシタニア帝国にしても、ディスガルド国とは直接国境を接していない。
そのため、ルシタニア帝国が攻めてくるとすれば、バルト国を越えて攻め寄せてくるか、マクヤード国を経由してくるしかない。
テムの問いかけに、リュウトウは、ゆっくりと首を横に振る。
「いえ、外国ではなく、あるとすれば、チヌルの反乱です」
「チヌルか……」
テムは、初めて聞いた風を装う。
チヌルの長ヒュブは、ディスガルド国の外務卿であり、国都の重鎮である。
そのヒュブは、ミショウ村襲撃事件を裏で手引きした可能性があり、ダイザやテムにとって最重要人物である。
「はい。ここ最近では、チヌルが武装蜂起するのではないかとの噂が流れています。また実際に、我々商人に対して、チヌルからの武器や防具などの戦関連物資の受注が増えています」
「だから、こんなに高いのか……」
テムは、リュウトウの手にある透輝石を見つめる。
透輝石や魔石が高騰しているのは、短命族には魔力量の多い者や魔法を使いこなせる者が少ないからである。
「はい。ただ、私どもでは、これを買い取るだけの資金が手元にはありません」
「そうだよな……」
金貨550枚と言えば、大金である。
テムには、リュウトウがどれほどの規模の交易商かは分からないが、馬車で移動する商隊が通常金貨550枚を持ち運ぶことはない。
「分かった。それは抜きにしてくれていいから、そっちの魔石と宝石を買い取ってくれ。幾らぐらいになる?」
そう言って、テムは、残念そうな表情をちらりと見せたリュウトウから透輝石を受け取る。
テムにとっては、その透輝石はあまり希少価値のあるものではない。
親指大の透輝石は、ミショウ村の南西にあるテラ湖の湖畔へ行けば、幾らでも採取できる。
「総額で、金貨32枚と銀貨6枚です。内訳は、一等級が金貨1枚、二等級が銀貨7枚、三等級が銀貨3枚、四等級が銀貨1枚となります」
大陸での貨幣価値は、金貨1枚で銀貨10枚と交換できる。
書見台の上には、一等級は3個しかなく、二等級も5個しかない。
あとは、ほとんどが三等級で、四等級がぽつぽつとある。
「分かった。その金額でいい。買い取って貰えるか?」
テムは、リュウトウの鑑定に疑問を差し挟まず、リュウトウの言い値に応じる。
リュウトウは、自身の鑑定が信じられたことに満足し、礼を述べる。
「ありがとうございます。では、すぐにお代を持って来させます」
後ろを振り返ったリュウトウは、指示を出しておいた部下を手招きする。
それを見た部下は即座に動き、金属で補強された箱を運んでくる。
リュウトウは、その中からお代となる金貨と銀貨を取り出して、テムに手渡す。
「金貨32枚と銀貨6枚です。お確かめください」
テムは、金貨の半分をダイザに手渡し、残りの金貨と銀貨を数える。
そして、ダイザの数えた金貨と合算して、代金がきちんと合っていることを確認する。
「ぴったりだ。急な願いを快く引き受けてくれて、感謝する」
「いえいえ。私どもも、急騰している魔石を仕入れることができて、良い商いとなりました」
「国都では、これ以上の値がつくのか?」
「いえ。国都では、先程の値が相場です。私どもは、そのうちチヌルへ行き、高く売るつもりなのです」
リュウトウは、部下と目を合わせて笑い合う。
チヌルでは、本当に戦準備が進行しているようである。
それらは、ドルマから10個ずつ渡されたもので、今、サイバジ族の集落リポウズを目指しているバージも同じものを持っている。
これらの透輝石は、もともとは戦いを想定して、魔力補充用として渡されたものだ。
しかし、それらを全て換金すると、たいへんな財を築けそうである。
「ふむ。どうして、それほど相場が上がっているのかな?」
テムは、透輝石の値段を聞いて驚いた。
だが、すぐに冷静になり、その背景を読み取ろうとする。
透輝石は、魔素が結晶化したもので、そこから魔力を吸い出すことができる。
この透輝石に魔方陣を刻み込み、魔法を発動できるように加工したものが魔石である。
どちらも戦争が近くなると、相場が上がりやすい傾向にある。
「国都では、近く戦いになるのではないかと噂されています」
「外国が攻めてくるのか?」
ディスガルド国からみた外国とは、南西にあるマクヤード国か、南方のバルト国やルシタニア帝国になる。
ただし、バルト国は長らく鎖国している国で、攻めてくることは考えにくい。
また、ルシタニア帝国にしても、ディスガルド国とは直接国境を接していない。
そのため、ルシタニア帝国が攻めてくるとすれば、バルト国を越えて攻め寄せてくるか、マクヤード国を経由してくるしかない。
テムの問いかけに、リュウトウは、ゆっくりと首を横に振る。
「いえ、外国ではなく、あるとすれば、チヌルの反乱です」
「チヌルか……」
テムは、初めて聞いた風を装う。
チヌルの長ヒュブは、ディスガルド国の外務卿であり、国都の重鎮である。
そのヒュブは、ミショウ村襲撃事件を裏で手引きした可能性があり、ダイザやテムにとって最重要人物である。
「はい。ここ最近では、チヌルが武装蜂起するのではないかとの噂が流れています。また実際に、我々商人に対して、チヌルからの武器や防具などの戦関連物資の受注が増えています」
「だから、こんなに高いのか……」
テムは、リュウトウの手にある透輝石を見つめる。
透輝石や魔石が高騰しているのは、短命族には魔力量の多い者や魔法を使いこなせる者が少ないからである。
「はい。ただ、私どもでは、これを買い取るだけの資金が手元にはありません」
「そうだよな……」
金貨550枚と言えば、大金である。
テムには、リュウトウがどれほどの規模の交易商かは分からないが、馬車で移動する商隊が通常金貨550枚を持ち運ぶことはない。
「分かった。それは抜きにしてくれていいから、そっちの魔石と宝石を買い取ってくれ。幾らぐらいになる?」
そう言って、テムは、残念そうな表情をちらりと見せたリュウトウから透輝石を受け取る。
テムにとっては、その透輝石はあまり希少価値のあるものではない。
親指大の透輝石は、ミショウ村の南西にあるテラ湖の湖畔へ行けば、幾らでも採取できる。
「総額で、金貨32枚と銀貨6枚です。内訳は、一等級が金貨1枚、二等級が銀貨7枚、三等級が銀貨3枚、四等級が銀貨1枚となります」
大陸での貨幣価値は、金貨1枚で銀貨10枚と交換できる。
書見台の上には、一等級は3個しかなく、二等級も5個しかない。
あとは、ほとんどが三等級で、四等級がぽつぽつとある。
「分かった。その金額でいい。買い取って貰えるか?」
テムは、リュウトウの鑑定に疑問を差し挟まず、リュウトウの言い値に応じる。
リュウトウは、自身の鑑定が信じられたことに満足し、礼を述べる。
「ありがとうございます。では、すぐにお代を持って来させます」
後ろを振り返ったリュウトウは、指示を出しておいた部下を手招きする。
それを見た部下は即座に動き、金属で補強された箱を運んでくる。
リュウトウは、その中からお代となる金貨と銀貨を取り出して、テムに手渡す。
「金貨32枚と銀貨6枚です。お確かめください」
テムは、金貨の半分をダイザに手渡し、残りの金貨と銀貨を数える。
そして、ダイザの数えた金貨と合算して、代金がきちんと合っていることを確認する。
「ぴったりだ。急な願いを快く引き受けてくれて、感謝する」
「いえいえ。私どもも、急騰している魔石を仕入れることができて、良い商いとなりました」
「国都では、これ以上の値がつくのか?」
「いえ。国都では、先程の値が相場です。私どもは、そのうちチヌルへ行き、高く売るつもりなのです」
リュウトウは、部下と目を合わせて笑い合う。
チヌルでは、本当に戦準備が進行しているようである。
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