ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第56話 ゴイメールの目的3

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 ダイザとテムが、街道から凍土林の少し奥に入った場所へ、ゴイメールの傭兵たちを寝かしたあと、再び街道に戻り、馬車の一団を目指す。
 ダイザは、ネオクトンの騎兵から奪った馬に乗り、テムはその隣を歩いていく。
 ダイザの鞍の後ろには、テムがネオクトンとゴイメールの傭兵たちから剥ぎ取った貨幣や魔石、宝石類などが詰まった革袋が積まれている。
 それらの革袋はかなり重いらしく、ダイザの乗る馬が時折、嫌そうに背中や尻を横に振る。
 その度にテムは、馬の尻をぽんぽんと叩いて、馬をなだめる。

「ゴイメールの騎兵は、それほど強いのか?」

「私の認識だと、まぁまぁ……というところでしょうか。国都の兵よりかは、強兵です」

「そうか……」

 テムは、オンジが手加減できないほど、ゴイメールの騎兵が強かったのかと首を捻る。
 大昔、テムが国都周辺を旅したときには、ゴイメールはもとよりネオクトンなどの諸部族も、大した強さではなかった。

「オンジの口振りですと、兵の質が上がったのかもしれません。ネオクトンにバウリという騎将が現れたように、ゴイメールでも名将が出たのかもしれませんね」

「あぁ、それなら分かる。猛将のもとに、弱兵なし……だからな」

 テムは、ダイザの言葉に頷き、ちょうど凍土林から出てきたヤナリスたちを眺める。
 ヤナリスのほかに、その子どもたちや御者の顔は見ていたが、知らない顔が幾つかある。

「気配から察すると、ほかの馬車に乗っていた奴らかな?」

「えぇ。間違いないようです」

「お付きの者たちと……、馬車を用立てた交易商たちかな?」

 テムがざっと見たところ、ヤナリスの侍女が二人いて、交易商らしき紳士と勤勉そうな若者が二人いる。
 あとは、馬車を御していた者たちである。
 ただ、テムが気になるのは、ヤナリスの馬車に乗っていた御者と側にいた護衛ザウバの姿が見えないことである。

「私にも、そう見えますね。あの商人は、国主の御用商人でしょうか?」

「はははっ。俺に聞いても、分からんぞ」

 陽気に笑ったテムは、両手を広げておどけて見せる。
 今のテムには、国都のことは何も分からないのである。

「そうでしたね。はははっ」

 ダイザも笑い返し、馬車の周りに蔓延はびこる陰気な空気を払い飛ばす。



 オンジは、ヤナリスを迎えたあと、ガンドたちの労をねぎらい、救援に駆けつけた経緯を話す。
 そして、エスレートが捕虜にしている隊長章をつけた騎兵のもとへ行く。
 そこには、すでにダイザとテムも到着している。
 テムは、騎兵の傷に魔法を掛けて治し、意識を取り戻させている。
 オンジがそこへ近寄ると、テムは、自身がいた場所をオンジへ譲り、ダイザとともに遠巻きに様子を見守る。
 少し離れたところには、エスレートのほかに、オンジと一緒に来たヤナリスたちがいる。

「ゴイメールの騎兵隊長だな?」

 オンジが皆を代表して、麻紐で拘束された男に尋ねる。

「……」

 男は、オンジを睨みつけたまま、話そうとはしない。
 男にとって、オンジは部下たちを殺した張本人なのである。

「口が利けないのか? それとも、話したくないのか?」

 オンジは、男が敢えて口を開かないことを見抜いている。
 だが、男の口を割らせるためには、挑発も必要である。

「……」

「喋らぬのなら、無理に喋らなくともよい」

 オンジは、男の頭を右手で掴み、無詠唱で金雷魔法を指先から発動させる。
 体内に雷を直接発するため、外へはバリバリという音は聞こえない。
 また、魔力感知ができないものは、オンジが魔法を使っていることさえ分からず、ただ単に頭を握り潰そうとしているようにしか見えない。

「あがががっ!」

 男の目が大きく見開かれ、口から雄叫びのような声がほとばしる。
 その後、男の耳からうっすらと煙のようなものが漏れ出る。

「余計な手間を取らせるな」

 金雷魔法は、直接脳に作用させると、精神活動そのものを麻痺させることもできる。
 オンジは、この尋問手法を得意としており、体を痛めつけなくとも、必要な情報を聞き出すことができるのである。

「もう一度聞く。ゴイメールの騎兵隊長だな?」

「あ、あぁ……」

 男は、虚ろな目をして、素直に答える。
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