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凍雪国編第4章
第55話 ゴイメールの目的2
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結局、ミネルとキュリティからは、ネオクトンの傭兵から聞いた以上のことは聞き出せなかった。
オンジは、二人からもう一度話を聞いたあと、説教を少し行い、二人を解放することにする。
ミネルとキュリティは、オンジとダイザに頭を下げ、小走りで国都へ向かう。
ダイザとオンジは、二人を見送ったあと、テムのもとへ行く。
テムは、ゴイメールに雇われた傭兵を尋問し終わり、再び意識を刈り取ったあと、ほかの傭兵たちの荷物を漁っている。
テムは、ここでも賊の仕業に見せかけるため、追い剥ぎをするつもりである。
「テムさん。何か聞けましたか?」
「いや、特に何もないな。ネオクトンの傭兵よりも、情報を知らされていない」
テムは、奪った戦利品を、これまた奪った革袋に詰め込み、ダイザが乗る鞍の後ろに積み込む。
ぱんぱんと手を叩いたテムは、馬車の方を指差し、オンジを見る。
「余計なことかもしれんが、殺してしまって良かったのか?」
テムは、馬車の周りに倒れているゴイメールの騎兵から生気が失われていることに気がついている。
また、エスレートの側に、一人だけ生気が残っている者がいることも分かっている。
「ヤナリス様をお守りするためには、仕方がなかったのです。彼らは、ヤナリス様に剣を向けました。国都では、反逆者は死罪になります」
オンジとて、無益な殺生は好まない。
しかし、戦闘になれば、僅かな情が命取りになることも事実である。
まして、正規の訓練を受けた兵は、命を奪われるまで任務を達成しようとする。
オンジは、ヤナリスの身が完全に守れる保証がなかったため、敵に情けをかけず、厳しく対処したのである。
「まぁ、そう言われれば、確かにそうだが……」
戦場を渡り歩いたことのないテムは、人が大勢死ぬところを見るのはやりきれない。
まして、捕虜にできるならば、生かして何かの役に立てた方がいいと思ってしまう。
「テム殿の気持ちは、分かります。私とて、助けられるなら、助けたかった。しかし、このようなところで、国主の妃を失う訳にはいかないのです」
「いや。俺は別に、オンジ殿を責めている訳ではない。俺も、余裕がなければ、殺していたからな。ただ、オンジ殿が国都へ戻ったときに、報復を受けないかと心配したまでだ」
ダイザやテムと違い、オンジは、国都に住んでいる。
恩讐の類いは長年に渡り尾を引き、いつ何時それが降りかかってくるのか分からない。
テムは、ゴイメールの矛先がオンジへ向かないかと、その身を案じているのである。
「心配していただき、感謝します。しかし、私は、戦場へ身を投じた者です。そのことは、覚悟の上です」
「そうか……」
テムは、生きる世界の違いを感じ取る。
また、外界と隔絶したミショウ村で暮らすテムは、国都で生活している者にそれ以上の深入りを避けなければならない。
テムが気にかけたところで、助けに行くことができないからである。
「それより、向こうにいる兵には、何か聞いたのか?」
テムは、唯一生き残った兵を指差す。
「いえ、まだです。ヤナリス様を迎えに行ってから、聞き出します」
ヤナリスと子どもたちは、馬車から少し離れた凍土林の中で、ガンドとハンナに守られている。
また、同じように避難していたほかの馬車の御者や乗客、護衛も、ヤナリスのもとへ集まっている。
「では、先に行ってくれ。あとから追いかける」
「分かりました」
オンジは、馬を切り返して、ヤナリスのもとへ馬を走らせる。
テムは、ダイザとともにオンジを見送り、街道の外に転がっている傭兵たちを見る。
「ダイザ。手伝ってくれ」
テムは、ダイザを手招きをしたあと、手近にいる傭兵を担ぎ上げ、凍土林の中へ入っていく。
傭兵たちは、テムが手加減して助けた命である。
また、何も事情を知らされていない傭兵たちである。
ヤナリスの采配により、死罪を言い渡され、無惨に殺されてしまうのは心苦しい。
ダイザも、その可能性に気がついており、素早く行動し、ヤナリスの目に留まらないようにする。
「こいつらは、ここで山賊に会い、追い剥ぎにあったんだ」
「えぇ。そうですね」
にやりと笑ったテムに、ダイザもいたずらっぽく微笑む。
オンジは、二人からもう一度話を聞いたあと、説教を少し行い、二人を解放することにする。
ミネルとキュリティは、オンジとダイザに頭を下げ、小走りで国都へ向かう。
ダイザとオンジは、二人を見送ったあと、テムのもとへ行く。
テムは、ゴイメールに雇われた傭兵を尋問し終わり、再び意識を刈り取ったあと、ほかの傭兵たちの荷物を漁っている。
テムは、ここでも賊の仕業に見せかけるため、追い剥ぎをするつもりである。
「テムさん。何か聞けましたか?」
「いや、特に何もないな。ネオクトンの傭兵よりも、情報を知らされていない」
テムは、奪った戦利品を、これまた奪った革袋に詰め込み、ダイザが乗る鞍の後ろに積み込む。
ぱんぱんと手を叩いたテムは、馬車の方を指差し、オンジを見る。
「余計なことかもしれんが、殺してしまって良かったのか?」
テムは、馬車の周りに倒れているゴイメールの騎兵から生気が失われていることに気がついている。
また、エスレートの側に、一人だけ生気が残っている者がいることも分かっている。
「ヤナリス様をお守りするためには、仕方がなかったのです。彼らは、ヤナリス様に剣を向けました。国都では、反逆者は死罪になります」
オンジとて、無益な殺生は好まない。
しかし、戦闘になれば、僅かな情が命取りになることも事実である。
まして、正規の訓練を受けた兵は、命を奪われるまで任務を達成しようとする。
オンジは、ヤナリスの身が完全に守れる保証がなかったため、敵に情けをかけず、厳しく対処したのである。
「まぁ、そう言われれば、確かにそうだが……」
戦場を渡り歩いたことのないテムは、人が大勢死ぬところを見るのはやりきれない。
まして、捕虜にできるならば、生かして何かの役に立てた方がいいと思ってしまう。
「テム殿の気持ちは、分かります。私とて、助けられるなら、助けたかった。しかし、このようなところで、国主の妃を失う訳にはいかないのです」
「いや。俺は別に、オンジ殿を責めている訳ではない。俺も、余裕がなければ、殺していたからな。ただ、オンジ殿が国都へ戻ったときに、報復を受けないかと心配したまでだ」
ダイザやテムと違い、オンジは、国都に住んでいる。
恩讐の類いは長年に渡り尾を引き、いつ何時それが降りかかってくるのか分からない。
テムは、ゴイメールの矛先がオンジへ向かないかと、その身を案じているのである。
「心配していただき、感謝します。しかし、私は、戦場へ身を投じた者です。そのことは、覚悟の上です」
「そうか……」
テムは、生きる世界の違いを感じ取る。
また、外界と隔絶したミショウ村で暮らすテムは、国都で生活している者にそれ以上の深入りを避けなければならない。
テムが気にかけたところで、助けに行くことができないからである。
「それより、向こうにいる兵には、何か聞いたのか?」
テムは、唯一生き残った兵を指差す。
「いえ、まだです。ヤナリス様を迎えに行ってから、聞き出します」
ヤナリスと子どもたちは、馬車から少し離れた凍土林の中で、ガンドとハンナに守られている。
また、同じように避難していたほかの馬車の御者や乗客、護衛も、ヤナリスのもとへ集まっている。
「では、先に行ってくれ。あとから追いかける」
「分かりました」
オンジは、馬を切り返して、ヤナリスのもとへ馬を走らせる。
テムは、ダイザとともにオンジを見送り、街道の外に転がっている傭兵たちを見る。
「ダイザ。手伝ってくれ」
テムは、ダイザを手招きをしたあと、手近にいる傭兵を担ぎ上げ、凍土林の中へ入っていく。
傭兵たちは、テムが手加減して助けた命である。
また、何も事情を知らされていない傭兵たちである。
ヤナリスの采配により、死罪を言い渡され、無惨に殺されてしまうのは心苦しい。
ダイザも、その可能性に気がついており、素早く行動し、ヤナリスの目に留まらないようにする。
「こいつらは、ここで山賊に会い、追い剥ぎにあったんだ」
「えぇ。そうですね」
にやりと笑ったテムに、ダイザもいたずらっぽく微笑む。
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