ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第53話 オンジとの合流4

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 ダイザとテムは、ゴイメールの傭兵団がオンジたちに制圧されたのを気配で察知した。
 また、そこから逃げ出した傭兵が数人いることにも気がついている。

「こっちに向かってくるな」

「そうですね。どうします?」

 馬に乗っているダイザは、街道をこちらへ向かって走ってくる傭兵たちをのんびりと眺める。
 ダイザとしては、誰も逃がすつもりはない。
 だが、こちらが迎え撃つ姿勢を見せると、傭兵たちは凍土林の中へ逃げてしまうかもしれない。

「しばらく静観して、近くにきたら倒す。もちろん、生かしてな」

「何か、聞けますかね?」

「分からん。この二人も、よく知らないようだしな」

 テムは、後ろへくいっと顎をしゃくると、その先には、緊張した面持ちでとぼとぼと後をついてくるミネルとキュリティがいる。
 ダイザとテムは、街道に出てから、二人にネオクトンのことを色々と尋ねたが、二人は傭兵に尋問した以上のことを知らなかった。
 ただ、ダイザとテムも、ヴァールハイトのオンジたちがいることを明かしておらず、二人の口が真実を語っていない可能性も残されている。

「お前たちは、戦わなくていい。ただ、邪魔をしたり、逃げたりはするなよ」

「は、はい……」

 ミネルは、ごくっと生唾を飲み込んで、怯えたように頷く。
 キュリティは、ダイザとテムが恐ろしいのか、街道に出てからずっとミネルの外套の端を掴んで離さない。
 二人の様子を見たテムは、にやりと笑い、背中の収納袋から斧を取り出す。

「ひっ!」

 キュリティは、恐怖に顔を引きつらせ、ミネルの背後に隠れてしまう。

「テムさん……。なんだか、楽しんでますね……」

「はははっ。こいつらを見ていると、己の未熟さを骨身に分からせたくなるのさ」

 ダイザには陽気に笑うテムだが、二人をじろりと睨むときは、鬼教官のような威圧感を前面に出す。
 今も二人は、テムの視線を受けて、背中に冷や汗をかいている。

「さて……。ダイザは、そのまま進み、何かあれば、二人を守ってやってくれ」

「分かりました」

「では、行ってくる」

 テムは、ダイザへ軽く手を上げて挨拶したあと、凍土林の中へ入っていく。
 テムは、凍土林を大きく迂回して、傭兵たちの背後へ回るつもりである。
 ダイザの前からくる傭兵たちは、全部で8人。
 それぞれが必死の形相で、戦いの場からのがれてくる。

(逃げる程度の覚悟なら、最初から依頼を受けなければいい)

 ダイザも、テムと同様、国都周辺にいる傭兵たちの不甲斐なさに憤りを感じている。
 島では獰猛な魔獣や獣が棲息しており、常に死と隣り合わせで生活していた。
 それが、国都周辺の傭兵は、安穏な生活を送る住民に馴染み、危機意識を薄れさせている。
それでは、戦場では役に立たず、命が幾つあっても足りない。
 テムが、ミネルとキュリティの甘さを厳しく指摘するのも当然である。
 だが、ダイザは、二人に対しては穏やかな口調で語りかける。

「君たちは、馬の背後に。矢が飛んでくるといけないからね」

 ミネルとキュリティは、オンジの仲間である。
 それに、二人はまだ幼く、アロンやジルの駆け出しの頃を思い出させる。

「は、はい……」

 ミネルとキュリティは、テムに見せる表情よりも、幾分安堵した顔を見せる。
 しかし、それでも見ず知らずのダイザに心を開くことはない。

(怖がらせ過ぎですよ。テムさん……)

 素直に馬の背後に隠れる二人は、固い表情を崩さず、静かに成り行きを見守っている。
 ダイザは、軽いため息をつき、視線を上げて、剣を引き抜く。
 走り寄ってくる傭兵の中に、弓に矢をつがえた者を見たのである。

(傭兵も、賊と変わらない)

 傭兵たちは、ダイザが乗る馬や荷を奪い、依頼失敗の穴埋めをするつもりらしい。

「やれやれ……」

 ダイザは、ため息とともに首を横に振り、頭を掻く。
 もし、テムがこの場にいたら、同じ仕草をしていただろう。

(もしかしたら、凍土林の中で同じことをしているのかもしれない)

 そう考えると、ダイザは急に可笑しくなり、馬上で微笑みを浮かべる。
 ミネルとキュリティは、馬の背後から顔を出し、前からくる傭兵たちをちらりと見る。
 そのとき、ダイザが、ふふふっと含み笑いをしているのに気がつく。

「笑ってるよ……。これから、戦いになるのに……」

「そうだね。この人も、怖い人だよね」

 ミネルとキュリティは、お互いに囁き合う。
 そして、念のために剣を引き抜き、己の身を守る構えを取る。

ビュッ、キィンッ

 前から矢が射られ、こともなくダイザが弾き返す。
 すると、凍土林の中を迂回したテムが、矢を放った傭兵の顔を殴りつけ、弓の弦を斧で切り飛ばす。

「すまん! 遅れた!」

 テムは、ダイザに大声で謝り、突然の伏兵に驚いた傭兵たちを次々と襲っていく。
 テムは、無駄な動きをせず、手近にいる者から殴り、ものの数分で、8人全員を街道に転がす。
 最後にテムが、わざとらしく、ぱんぱんと両手を叩いて戻ってくる。

「こっちも、大したことない奴らだ。おっ!」

 物足りないテムが、腕をぐるぐる回すと、遠く離れた馬車の一団からオンジが馬を走らせてくる。

「向こうも、終わったようだな」

「はい。ただ、オンジたちは、ゴイメールを殺してしまったようです」

「そのようだな。この先、話がこじれんといいがな」

 ダイザとテムは、無用な殺生はしない。
 しかし、オンジたちは、ゴイメールを敵と認識したのか、騎兵や傭兵を殺害してしまった。
 ゴイメール族が、そのことを知れば、オンジたちは仇として狙われることになりかねない。
 ダイザとテムは、そのことを危惧し、国都での活動に支障が出ぬよう気絶させていたのである。
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