ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第50話 オンジとの合流1

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 テムは、男のほかにも、まだ意識がある者たちを探し出し、次々と首筋に手刀を叩き込んで、意識を刈り取っていく。
 その間に、ダイザは、騎兵が乗っていた騎馬を捕まえにいく。

(さて、こんなところか……)

 ネオクトンの騎兵と傭兵は、皆獣道に横たわり、伸びている。

(しかし……。傭兵にしては、全然大したことないな)

 傭兵たちの中には、武器に手を掛け、反撃する構えを見せた者もいる。
 だが、誰一人として、剣を抜いた者はいない。
 ダイザとテムの攻撃が速すぎたとはいえ、国都周辺の戦闘レベルが如何に低いかを物語っている。
 テムが、やれやれと頭を掻いていると、凍土林の中から逃げ出した馬に乗ったダイザが現れる。

「その馬は貰っていくのか?」

「えぇ。向こうまで乗っていきます」

「それは、いいな」

 テムは、馬の背中や腿をぽんぽんと叩き、筋肉の張りを確かめる。

「いい馬だ。流石は、騎馬民族だな」

 ネオクトンが飼育した馬は、駿馬しゅんめに育つことが多く、戦利品となった馬も、なかなかに優秀な馬である。

「これなら、若者二人ぐらいは乗せられるな」
 
「先程話していた二人ですか?」

 ダイザは、テムがミネルとキュリティを抱えて、この場を一度離れたことを知っている。
 その二人は、100mほど行ったところで眠らされており、今もまだ眠ったままである。

「そうだ。助けてやってくれと言われたからな」

「では、二人を拾っていきましょう」

 ダイザは、馬を操り、獣道から外れ、木々の間に乗り入れる。

「いや、先に行ってくれ。俺は、こいつらを襲ったのが、賊の仕業であるように見せかける。路銀の足しにもできるしな。はははっ」

 テムは、いたずらをするような子どもの顔になり、愉快そうに笑う。

「ほどほどにしてくださいよ。私は、二人を乗せたら、また戻ってきます」

「おぉ。ゆっくりでいいぞ」

 テムは、嬉々として追い剥ぎ作業に取り掛かる。
 傭兵たちは、それぞれ溜め込んだ報酬を携行しており、金子きんす袋がぱんぱんに張っている者が多い。
 テムは、それらの者の懐や収納袋を探り、金銭だけでなく、魔石や魔道具の類いも奪っていく。
 ダイザは、そんなテムをちらりと見てから、ミネルとキュリティのもとへと急ぐ。



 ミネルとキュリティは、子どもらしく、あどけない寝顔を見せている。
 ただ、テムの打撃を受けたところは、赤く腫れており、痛々しい様子である。

aqua healアクアヒール

 ダイザは、二人に回復魔法を掛けてやり、怪我を直してやる。
 それから、すやすやと眠る二人を馬の背に乗せ、テムのところまで戻る。



 ダイザが馬に乗って、ネオクトンの傭兵たちが倒れているところに戻ると、テムが大きな袋を抱えて待っている。

「二人は、無事だったな」

 テムは、陽気に笑い、うつ伏せで馬の背に乗せられているミネルとキュリティの顔を除き込む。
 二人は、すでに目覚めており、馬に揺すられて苦しかったのか、顔を歪ませている。

「お前たち。騒がずにいろよ。騒げば、また意識を落とすからな」

 テムは、わざとらしく怖い声を出し、二人に言い聞かせる。
 ミネルとキュリティは、素直にこくこくと頷き、恐怖で顔を引きつらせる。

「それより、随分せしめましたね」

「はははっ。少し欲張り過ぎたな」

 ダイザは、テムが抱える戦利品を呆れたような顔で見ている。
 だが、テムは、その視線を笑って受け流す。
 そして、ミネルとキュリティを馬から降ろし、その代わりに抱えていた革袋を載せる。

「よし。ここには、もう用はない。向こうへ行くぞ」

 テムは、ダイザが乗る馬の尻をぺしぺしと叩き、馬に進むように指示を出す。

「お前たちは、馬のあとを走れ。逃げるなよ」

 ミネルとキュリティは、テムのドスの聞いた声を聞いて、「ひっ!」と怯える。
 ダイザは楽しそうに笑い、後ろを振り返って、テムに突っ込む。

「それでは、完全に悪役ですよ」

「はははっ。たまには、こういう役も悪くない。やっていて、楽しいぞ」

 テムは、恐怖で棒立ちになっている二人の背中を押し、無理矢理歩かせる。
 ミネルとキュリティは、テムの真意が分からず、一瞬たたらを踏んだものの、テムの力に逆らえるはずもなく、ダイザの乗る馬を追いかけ出す。
 テムも、二人の後ろを小走りし、ゴイメールの傭兵たちとオンジたちがいる場所に向かう。
 向こうでも、すでに戦闘が終了しており、オンジたちがゴイメールを制圧した後である。
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