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凍雪国編第4章
第43話 北の軍気1
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丘を下り、凍土林の中を北へ移動しているダイザたちは、急ぎながらも、先程丘の頂上で会ったエラノーゴたちのことを話し合う。
獣道はまだ薄暗いが、そろそろ夜明けが近づいてきており、月明かりよりも先が見通しやすくなっている。
ただ、小鳥たちは眠りについたままで、凍土林の中が森閑としているのは変わりがない。
ダイザたちは、周辺の気配を探りつつ、声を抑えて会話する。
「エラたちは、ただの道守だったのだな」
「えぇ。取り越し苦労で、ほっとしましたよ」
一行の先頭で、ぼそりと呟いたテムに、その後ろにいるダイザが答える。
オンジは、最後尾を歩いており、静かに二人の会話を聞いている。
「俺たちを見ても、特に何も言わなかったところをみると、運良く飛竜を目撃されなかったみたいだな」
「そうですね。あのとき、北へ移動していた者たちが道守で、そのあとエラ殿たちが任務についたと考えるのが自然でしょうね」
「そうだな」
テムは、ダイザの意見に賛成で、「本当に運が良かったな」と続けて言い、幸運に感謝する。
「それより、向こうの軍気はどうだ? 何か動きはないか?」
テムは、向かっている先の動きが気になる。
「今のところは、動いていません。休息しているように思われます」
「そうか……」
それっきり、テムは押し黙り、獣道を黙々と進む。
そして、それから1時間ほど歩き続けると、テムとオンジにも軍気が察知できるようになる。
テムは、立ち止まって振り返り、ダイザとオンジに話しかける。
「あれだな?」
「えぇ。どうやら、国主の妻やガンド殿たちもいるようです」
正面の凍土林の向こう側に、ヤナリスやガンドたちの気配があり、ヤナリスたちの周りに幾つもの戦い慣れた者たちの気配がある。
「気配からは、捕まっているような感じですね……」
「そのようだな」
テムは、腕を組んで考え込む。
南からきた軍気は、ネオクトンの騎兵に率いられた傭兵団で、誘拐された子どもを助けに向かうとミネルやキュリティに教えていたらしい。
それを聞いたダイザたちは、てっきりネオクトンの騎兵がミネルたち傭兵を騙して、ヤナリスやその子どもたちを狙っているのかと思い込んでいた。
しかし、北に現れた軍気は、ヤナリスたちを護衛しに来たとみていたが、どうやら、その予想は外れたようである。
「あいつら、何者かな?」
テムは、国都の情勢に詳しいオンジへ聞く。
三人とも、ヤナリスやガンドたちの気配が落ち着いているため、それほど焦ってはいない。
また、取り巻いている傭兵たちの気配も、緊張はしているが、先鋭化してはいない。
「ここからでは、分かりません。少し近づいて確認しましょう」
「分かった。では、先に行ってくれ」
テムは、オンジに先頭を譲り、ダイザも先に行かせてから、最後尾につく。
ここから軍気までは300mほどあり、近くには人や獣の気配はない。
三人は、気配と足音を消し、風下になる東から接近していく。
軍気に近づくにつれ、凍土林の木々がまばらになり、木陰を利用しなくては近づけなくなる。
先頭を忍び足で進んでいたオンジは、巨木の後ろで歩みを止める。
そこからなら、人の顔も朧気ながら判別できる。
ただ、巨木の陰に入れるのは一人のみであり、オンジは後続のダイザとテムに立ち止まるように合図する。
それを見た二人は頷き、それぞれが身を隠せる木を探し、オンジの背後に控える。
オンジの視線の先には、ヤナリスたちが乗車していた4台の馬車があり、馬車1台につき、傭兵らしき者たちが二名ずつ側に立って見張っている。
オンジは、馬車から少し離れた場所にたむろする男たちを見る。
その男たちは、明らかに傭兵とは異なる鎧兜に身を包み、正規兵であることが分かる。
(ゴイメール族……?)
ゴイメール族は、ディスガルド南半島の南部を勢力地にしている一族である。
国都の遥か西南方に位置する部族で、この辺りで目撃するには、チヌルやネオクトンよりも意外な部族である。
(バイソンの角に馬の蹄。間違いなくゴイメールの紋章だ)
鎧兜を纏う兵が持つ盾には、遥か昔、遊牧部族であったことを窺わせる意匠が刻まれている。
ゴイメール族は、南半島に広がる草原を馬で駆け巡っていた部族であり、その辺りは今でも馬の一大生産地となっている。
(なぜ、こんなところに騎馬民族が……?)
オンジの目の前では、国都の北へは滅多に来ないゴイメール族がヤナリスが乗る馬車を囲んでいる。
ただ、馬車の中からは、ヤナリスとその子どもたちの気配があり、御者台に座る御者も無事な様子である。
また、最後尾の馬車には、ガンドたちの気配があり、馬車から離れたところに、それぞれの馬車に護衛としてついていた騎兵の姿も見える。
しかし、ヤナリスの馬車を護衛していたザウバの姿はなく、その気配もない。
(殺されたのか?)
ザウバの腕は、テムに仕掛けた攻撃を見る限り、国都にいる兵の中ではまあまあ強い方である。
ただ、ゴイメール族は幼き頃より騎馬に乗り、生涯を通して狩猟に励む部族である。
オンジは、ザウバの腕ではゴイメール族には敵わないとみている。
獣道はまだ薄暗いが、そろそろ夜明けが近づいてきており、月明かりよりも先が見通しやすくなっている。
ただ、小鳥たちは眠りについたままで、凍土林の中が森閑としているのは変わりがない。
ダイザたちは、周辺の気配を探りつつ、声を抑えて会話する。
「エラたちは、ただの道守だったのだな」
「えぇ。取り越し苦労で、ほっとしましたよ」
一行の先頭で、ぼそりと呟いたテムに、その後ろにいるダイザが答える。
オンジは、最後尾を歩いており、静かに二人の会話を聞いている。
「俺たちを見ても、特に何も言わなかったところをみると、運良く飛竜を目撃されなかったみたいだな」
「そうですね。あのとき、北へ移動していた者たちが道守で、そのあとエラ殿たちが任務についたと考えるのが自然でしょうね」
「そうだな」
テムは、ダイザの意見に賛成で、「本当に運が良かったな」と続けて言い、幸運に感謝する。
「それより、向こうの軍気はどうだ? 何か動きはないか?」
テムは、向かっている先の動きが気になる。
「今のところは、動いていません。休息しているように思われます」
「そうか……」
それっきり、テムは押し黙り、獣道を黙々と進む。
そして、それから1時間ほど歩き続けると、テムとオンジにも軍気が察知できるようになる。
テムは、立ち止まって振り返り、ダイザとオンジに話しかける。
「あれだな?」
「えぇ。どうやら、国主の妻やガンド殿たちもいるようです」
正面の凍土林の向こう側に、ヤナリスやガンドたちの気配があり、ヤナリスたちの周りに幾つもの戦い慣れた者たちの気配がある。
「気配からは、捕まっているような感じですね……」
「そのようだな」
テムは、腕を組んで考え込む。
南からきた軍気は、ネオクトンの騎兵に率いられた傭兵団で、誘拐された子どもを助けに向かうとミネルやキュリティに教えていたらしい。
それを聞いたダイザたちは、てっきりネオクトンの騎兵がミネルたち傭兵を騙して、ヤナリスやその子どもたちを狙っているのかと思い込んでいた。
しかし、北に現れた軍気は、ヤナリスたちを護衛しに来たとみていたが、どうやら、その予想は外れたようである。
「あいつら、何者かな?」
テムは、国都の情勢に詳しいオンジへ聞く。
三人とも、ヤナリスやガンドたちの気配が落ち着いているため、それほど焦ってはいない。
また、取り巻いている傭兵たちの気配も、緊張はしているが、先鋭化してはいない。
「ここからでは、分かりません。少し近づいて確認しましょう」
「分かった。では、先に行ってくれ」
テムは、オンジに先頭を譲り、ダイザも先に行かせてから、最後尾につく。
ここから軍気までは300mほどあり、近くには人や獣の気配はない。
三人は、気配と足音を消し、風下になる東から接近していく。
軍気に近づくにつれ、凍土林の木々がまばらになり、木陰を利用しなくては近づけなくなる。
先頭を忍び足で進んでいたオンジは、巨木の後ろで歩みを止める。
そこからなら、人の顔も朧気ながら判別できる。
ただ、巨木の陰に入れるのは一人のみであり、オンジは後続のダイザとテムに立ち止まるように合図する。
それを見た二人は頷き、それぞれが身を隠せる木を探し、オンジの背後に控える。
オンジの視線の先には、ヤナリスたちが乗車していた4台の馬車があり、馬車1台につき、傭兵らしき者たちが二名ずつ側に立って見張っている。
オンジは、馬車から少し離れた場所にたむろする男たちを見る。
その男たちは、明らかに傭兵とは異なる鎧兜に身を包み、正規兵であることが分かる。
(ゴイメール族……?)
ゴイメール族は、ディスガルド南半島の南部を勢力地にしている一族である。
国都の遥か西南方に位置する部族で、この辺りで目撃するには、チヌルやネオクトンよりも意外な部族である。
(バイソンの角に馬の蹄。間違いなくゴイメールの紋章だ)
鎧兜を纏う兵が持つ盾には、遥か昔、遊牧部族であったことを窺わせる意匠が刻まれている。
ゴイメール族は、南半島に広がる草原を馬で駆け巡っていた部族であり、その辺りは今でも馬の一大生産地となっている。
(なぜ、こんなところに騎馬民族が……?)
オンジの目の前では、国都の北へは滅多に来ないゴイメール族がヤナリスが乗る馬車を囲んでいる。
ただ、馬車の中からは、ヤナリスとその子どもたちの気配があり、御者台に座る御者も無事な様子である。
また、最後尾の馬車には、ガンドたちの気配があり、馬車から離れたところに、それぞれの馬車に護衛としてついていた騎兵の姿も見える。
しかし、ヤナリスの馬車を護衛していたザウバの姿はなく、その気配もない。
(殺されたのか?)
ザウバの腕は、テムに仕掛けた攻撃を見る限り、国都にいる兵の中ではまあまあ強い方である。
ただ、ゴイメール族は幼き頃より騎馬に乗り、生涯を通して狩猟に励む部族である。
オンジは、ザウバの腕ではゴイメール族には敵わないとみている。
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