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凍雪国編第4章
第42話 道守の者たち
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テムは、聞きたいことを聞く前に、怪しまれぬように、テムたちがリポウズから国都へ向かっていることを話し、友好的な姿勢を見せつける。
道守をしているという背の高い男は、テムの言葉を聞き、エラノーゴと名乗り、テムに対してエラと呼んでくれと、気さくな笑みをたたえて言う。
「あんたたちは、この辺りに住んでいるのか?」
「そうだ。ハルキーに住んでいる」
テムは、エラが言ったハルキーという集落がよく分からなかったので、後ろのオンジに目配せをして、小声で説明を受ける。
ハルキーは、丘から街道へ出て北へ向かった最初にある農村で、たまに訪れる旅人の逗留場所にもなっている。
また、ハルキーを開拓したのはロマキ族で、その住人は皆ロマキ族の族人であるとのことである。
「では、あんたたちは、ロマキ族の人たちなのか?」
「そうだ」
「なんで、あんたたちが道守をしているんだ?」
「この街道が、私たちの州都マルサナに通じているからだ。だから、国都から来る者たちを見張っているんだ」
テムは、また後ろを振り返り、オンジに説明を求める。
マルサナとは、国都の北方帯に広がって暮らすロマキ族の州都である。
マルサナは、街道を北へ進み、二股に別れるところを東へ進むと辿り着く。
そして、そこを西に進めば、サイバジ族の集落リポウズへ至る。
エラたちは、ロマキ族の守りとして街道を監視する役目を負っているのである。
「なるほどな……。ようやく、合点がいった」
テムは、エラの言葉を聞き、ダイザが感じていた視線の目的を理解した。
エラは、ダイザたちを監視していたのではなく、街道を往来する者たち全員を監視し、ロマキ族に害を為す者たちを見つけようとしていた。
テムの後ろでは、ダイザがほっとした表情を浮かべ、頷いている。
エラたち道守と、戦わなくて済みそうだからである。
「オンジ殿」
テムは、オンジに場所を譲って、エラたちと話すように促す。
ここからは、国都の情勢を知っているオンジでなくば、話が進められない。
オンジも、それは分かっており、テムの後を引き継いで、エラたちに尋ねる。
「エラ殿。昼過ぎに下の街道を北へ急行した馬車の一団を知っているか?」
「知っている。それが何だ?」
オンジは、エラの答えを聞き、ヤナリスのことは知っていないと確信する。
「いや、その者たちが、急いでマルサナに行きたいと言っていたのでな。マルサナに何があるのか聞きたかったのだ」
「マルサナに……? 流行しているものか、何かか?」
エラは、馬車の一団がただの交易商の類いだと見ており、仕入れに向かったのだと考えているようである。
「それを聞きたかったのだが、知らなければ、それはいい。それよりも、エラ殿たちは、ここで野営をしているのか?」
「一泊だけな。明日の昼過ぎには、次の者が来て、交代する。次に泊まるのは、一週間後だな」
「それも、大変だな」
オンジは、エラの言葉に頷きを持って答える。
オンジは、もう聞きたいことは聞いたので、少しずつ話題を逸らし、ここから離れることにする。
(エラがヤナリス様のことを知っていれば、マルサナへ走って貰いたかったが、それは望み薄だな)
オンジは、エラたちが敵ではないことが分かっただけでも収穫があったと思う。
「ところで、国都への方角を教えてくれないか? また道に迷って、ここまで登らなくても済むようにな」
「それなら、南の方へ向かえばいい。夜に移動するなら、あの星を目印にするといい」
エラが指差した星は、南天の空に瞬く一等級の明るさを持つ星で、名前をアンタイルと言う。
「アンタイルか……。分かりやすいな」
オンジは、いかにも迷子の旅人を演じ、エラたちに礼と真夜中の非礼を詫び、丘の頂上をあとにする。
道守をしているという背の高い男は、テムの言葉を聞き、エラノーゴと名乗り、テムに対してエラと呼んでくれと、気さくな笑みをたたえて言う。
「あんたたちは、この辺りに住んでいるのか?」
「そうだ。ハルキーに住んでいる」
テムは、エラが言ったハルキーという集落がよく分からなかったので、後ろのオンジに目配せをして、小声で説明を受ける。
ハルキーは、丘から街道へ出て北へ向かった最初にある農村で、たまに訪れる旅人の逗留場所にもなっている。
また、ハルキーを開拓したのはロマキ族で、その住人は皆ロマキ族の族人であるとのことである。
「では、あんたたちは、ロマキ族の人たちなのか?」
「そうだ」
「なんで、あんたたちが道守をしているんだ?」
「この街道が、私たちの州都マルサナに通じているからだ。だから、国都から来る者たちを見張っているんだ」
テムは、また後ろを振り返り、オンジに説明を求める。
マルサナとは、国都の北方帯に広がって暮らすロマキ族の州都である。
マルサナは、街道を北へ進み、二股に別れるところを東へ進むと辿り着く。
そして、そこを西に進めば、サイバジ族の集落リポウズへ至る。
エラたちは、ロマキ族の守りとして街道を監視する役目を負っているのである。
「なるほどな……。ようやく、合点がいった」
テムは、エラの言葉を聞き、ダイザが感じていた視線の目的を理解した。
エラは、ダイザたちを監視していたのではなく、街道を往来する者たち全員を監視し、ロマキ族に害を為す者たちを見つけようとしていた。
テムの後ろでは、ダイザがほっとした表情を浮かべ、頷いている。
エラたち道守と、戦わなくて済みそうだからである。
「オンジ殿」
テムは、オンジに場所を譲って、エラたちと話すように促す。
ここからは、国都の情勢を知っているオンジでなくば、話が進められない。
オンジも、それは分かっており、テムの後を引き継いで、エラたちに尋ねる。
「エラ殿。昼過ぎに下の街道を北へ急行した馬車の一団を知っているか?」
「知っている。それが何だ?」
オンジは、エラの答えを聞き、ヤナリスのことは知っていないと確信する。
「いや、その者たちが、急いでマルサナに行きたいと言っていたのでな。マルサナに何があるのか聞きたかったのだ」
「マルサナに……? 流行しているものか、何かか?」
エラは、馬車の一団がただの交易商の類いだと見ており、仕入れに向かったのだと考えているようである。
「それを聞きたかったのだが、知らなければ、それはいい。それよりも、エラ殿たちは、ここで野営をしているのか?」
「一泊だけな。明日の昼過ぎには、次の者が来て、交代する。次に泊まるのは、一週間後だな」
「それも、大変だな」
オンジは、エラの言葉に頷きを持って答える。
オンジは、もう聞きたいことは聞いたので、少しずつ話題を逸らし、ここから離れることにする。
(エラがヤナリス様のことを知っていれば、マルサナへ走って貰いたかったが、それは望み薄だな)
オンジは、エラたちが敵ではないことが分かっただけでも収穫があったと思う。
「ところで、国都への方角を教えてくれないか? また道に迷って、ここまで登らなくても済むようにな」
「それなら、南の方へ向かえばいい。夜に移動するなら、あの星を目印にするといい」
エラが指差した星は、南天の空に瞬く一等級の明るさを持つ星で、名前をアンタイルと言う。
「アンタイルか……。分かりやすいな」
オンジは、いかにも迷子の旅人を演じ、エラたちに礼と真夜中の非礼を詫び、丘の頂上をあとにする。
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