ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第39話 傭兵団の追尾2

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 ダイザたちは、傭兵の一団が通った獣道ではなく、別の獣道を探し出し、相手に気がつかれぬように、足音を立てずに近づいていく。
 冒険者稼業が長いオンジは、忍び足に長けており、凍土林の枯れ葉を上手く避けて、音を一切立てずに進んでいく。
 一方、ダイザは、斥候としての技術に乏しいため、先頭を歩くオンジの足跡の上を歩き、極力足音を出さずについていく。
 最後尾のテムは、森の中を歩き慣れており、音がならない草を知っているため、そこを選んで歩き、オンジとダイザよりも離れた場所を進んでいる。
 三人は、ゆっくりと時間をかけて近づき、傭兵団の姿が確認できる位置まで来る。
 三人は、それぞれ違う巨木の陰に身を潜め、傭兵団の様子を観察する。
 傭兵団は、眠っている者が多く、くつろいだ雰囲気を纏っている者もいる。
 寄せ集めの一団には、緊張感が徐々に薄らいでいるようにも見える。
 なかでも、戦闘経験が浅い者たちは、皆から離れた場所で、私語を始めている。
 ダイザたちは、少し場所を移動し、ひそひそ話が聞こえてくる位置まで忍び寄っていく。

「まだ、眠くないのに寝ろって言われてもさぁ……」

「寝れないよね」

 先に話した少年がミネルで、それに答えた少女がキュリティである。
 ミネルとキュリティは、二人とも16歳になるかならないかという年頃で、傭兵たちの中で最も若い兵である。
 二人は、駆け出しの冒険者がよく装備する中古の革製防具を身に着けている。
 その胴当ては、使い古された様子から明らかに強度が不足しているのが見て取れる。
 また、手持ちの剣も、正規の武器屋で購入した品ではなく、行商が集まる交易市場で買い求めたような代物で、手に馴染んだという感じも見受けられない。

「でもさぁ、眠くなくても寝るしかないよな?」

「うん。夜に移動するんだもんね。あたしは、夜苦手なのに……」

 キュリティは、まだ徹夜に慣れておらず、夜の見張り番でさえ、ついうとうとしてしまい、満足に務め上げることができない。

「俺たち、受ける依頼を間違えたかな?」

「そうかもしれないね。今では、ちょっと後悔しているもん」

「だよなぁ……」

 ミネルとキュリティは、先月に見習いの☆1冒険者から駆け出しの☆2冒険者へ昇格したばかりである。
 また、これまでの依頼は、日帰りでできる国都周辺の採取依頼しか受けていない。
 しかし今回は、ギルドの掲示板で募集していた高額報酬に惹かれ、思わず掲示板から依頼書を剥がし、そのままの勢いで受付へ持って行ってしまった。
 今回の依頼は、☆2冒険者まで幅広く募集しており、誘拐された子どもを取り戻すことであった。
 正義感の強いミネルとキュリティは、良いことをしてお金が稼げると喜び、集合場所であるネオクトンの集落まで足を運んだのであった。
 それが3日前の話で、それから野営を繰り返して、北へ北へと移動して来たのである。

「でも、今夜で誘拐犯に追いつくから、あと少しの辛抱だよな」

「うん。早く温かい湯船に浸かって、体の疲れを癒したい」

 キュリティは、女の子らしい願いを口にする。

「早く終わらしたいよ」

「俺たちは、無理をしなくていいらしい。だから、犯人を逃がさないように退路を断とう」

「うん」

 キュリティは、ようやく眠くなってきたのか、大きな欠伸をして、背中を木に預ける。
 それを見たミネルも、まだ眠くはならないものの、それ以上の私語を止め、キュリティ同様、木に寄りかかり、目をつぶる。
 その様子を木陰からじっと見ていたダイザたちは、お互いに目配せを送り合う。

(一度、離れよう)

 テムは、二人に後ろをちょいちょいと指し示し、隠れていた木から離れ、音を立てずに傭兵団から遠ざかる。
 オンジも、それに続き、ダイザは、オンジの足跡を辿るようにして、その場を離れる。
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