ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第38話 傭兵団の追尾1

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 ネオクトンの騎兵に率いられた傭兵の一団は、ダイザたちが追尾を始めてから2時間ほどで、進路を西に変え、凍土林の中へ分け入っていく。
 まだ日没まで1時間ほどあり、凍土林の中は薄暗いが、木漏れ日があり、足元はしっかりと確認できるほどの明るさがある。
 傭兵の一団は、無言で騎兵の後を追い続ける。
 そして、しばらく進んだところで、先頭の騎兵は行軍を止め、休息を取るのか、馬を降り、辺りの草を刈り出す。
 傭兵たちも騎兵に続き、23名が一度に作業をこなせば、ものの10分も経たないうちに、円形の休憩場が出来上がる。
 ダイザたちは、傭兵の一団から距離を取り、気配だけでその動向を探る。
 30分経っても、動き出す気配はなく、1時間が経過しても、特に変わった様子はみられない。
 ただ、傭兵の中には、仮眠を取る者もおり、休憩が長時間に及ぶことが窺える。

「あいつら……。これから、野営をするのか?」

 地平線に近づいた太陽は、凍土林の木々に遮られ、もう直接みることはできない。
 凍土林の明るさが、徐々に落ちていき、だんだんとお互いの顔が確認できないほどになってくる。
 隠れているダイザたちはもとより、傭兵団も火を灯すことはしない。
 そのことからも、傭兵団が通常の旅程にないことが分かる。

「気配では、そのようですが……。ただ、野営を始めるには、まだ時間が早過ぎます」

「だよな……」

 テムは、背負っていた革袋から非常用の干し肉を取り出し、水嚢の水で軟らかくしてから噛みちぎる。
 ダイザとオンジも、それぞれ背負っていた革袋から携帯食を取り出し、腹を満たし始める。
 傭兵たちが食事を取るなら、同じときに取らなければ、その後に取れる保証がないからである。

「これは、夜動くよな?」

「えぇ、その可能性が高いですね」

「てことは、俺たちも徹夜か?」

 テムは、うんざりした顔をして、三枚目の干し肉にかぶりつく。
 テムは、筋肉質で熊みたいながっちりとした体をしているが、ダイザよりも食事量は少な目である。
 そのテムが、夜の活動に備えて、いつもよりも多めに食べている。

「これを食べ終えたら、少し様子を探りに行きましょうか……?」

 オンジが、テムに尋ねる。
 ただじっと待つだけなのも、時間の無駄である。
 情報は多いほどよく、近づいて、話し声でも聞こえれば、何を待っているのかが分かるかもしれない。
 オンジは、ヤナリスたちと離れた場所から動く気配を見せない傭兵団の目的を図りかねている。

「それも、いいかもな。三人で行くか?」

「はい。ばらばらになるより、一緒に行動すれば、何かしらの対応が取れます。相手が移動したときに、また追尾しないといけませんし……」

「では、行くか。俺は、大方終わったぞ」

 テムは、食事の最後とばかりに、五枚目の干し肉を口の中に放り込み、咀嚼する。

「私も、これで終わりです」

 ダイザは、乾飯を飲み込み、水嚢の水で胃へ流し込む。
 オンジも、干し肉をもぐもぐと咀嚼し、ごくんと飲み込む。

「私も、食事を終えました。いつでも発てます」

 オンジは、背負い袋を担ぎ直し、水嚢を腰に下げる。
 それを見たダイザとテムも、出発の支度を整える。

「よし、行こう」

 テムの掛け声で、三人は気配を殺し、傭兵の一団に近づいていく。
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