373 / 492
凍雪国編第4章
第37話 東の軍気2
しおりを挟む
街道から外れ、凍土林の中の獣道を東へ歩くこと1時間。
北部から流れてきた川にぶつかったところで、軍気を発する一団を発見した。
ダイザたちは、背の高い木に登って気配を殺し、その部隊が目の前を通り過ぎていくのをじっと観察する。
騎馬に乗り、部隊を先導している者は、緋色の鎧兜を纏い、上から黒の外套を着けている。
それに続く者たちは、皆が傭兵風の出で立ちをしており、縦に並んではいるものの、規律正しくはなく、馬に乗った者の後をぞろぞろとついて歩いている。
それらの者の中には、古びた鎧兜を着ける者がいる一方、革の胴当てのみの者や体に鎖を巻き付けただけの者もいる。
統一感のなさや、年齢や性別もばらばらなことから、彼らが雇われ兵であることは一目瞭然である。
ただし、話をする者はなく、その辺りの命令は、一応守っているようである。
ダイザは、集団の人数を数えていき、その中で魔法に長けている者がいないかを確認していく。
だが、誰も魔法師愛用のローブを着んでおらず、また、杖を所持している者もいない。
ただ、魔道具を装備している者は、数人いる。
しかし、いずれの品質も低級で、ダイザたちの魔法を防げるほどの効果は期待できない。
ダイザたちは、息を潜め、総勢23名の集団が通り過ぎるのをじっと待つ。
オンジは、知った顔がいないかと、目を凝らして、一人一人の顔を確認していく。
(……!)
オンジは、視線を次々と移動させ、一団の最後尾付近まで視線を動かしたとき、眉間にシワを寄せる。
やはり、一団の中に見た顔が二人いて、オンジの懸念が当たってしまったのである。
(あの子たち……。報酬に目が眩んだか……)
オンジが発見したのは、最近ヴァールハイトに所属した駆け出しのギルド員である。
(名前は、確かミネルとキュリティ……)
まだ若い男女は幼馴染みで、国都周辺にある村から上京してきたばかりである。
オンジは、ダイザとテムに手で合図を送り、二人の顔を覚えておくように頼む。
(二人から情報を取れるかもしれない。一団から離れたところを拐えればいいが……)
オンジは、一団を全滅させることになっても、ミネルとキュリティだけは助けるつもりである。
(あの二人には、良い教訓になる)
オンジは、ギルド員の初級講座を開いたときに、二人を含め、新人には政治的な依頼を受けるなと何度も警告しておいた。
それが、まだ未熟な二人は、依頼がどのような意図を持ってなされたのか、見抜くことができなかったのである。
集団は、川沿いを北上し続け、ダイザたちから遠ざかっていく。
集団が見えなくなったところで、ダイザたちは木から降り、周囲を警戒しながら巨木の陰に隠れる。
「オンジ。あの二人は、誰だ?」
ダイザは、先程の少年と少女のことを聞く。
「ギルドの者たちだ」
「何だ? なら、味方か?」
「いや、違うと思う。先導していたのは、ネオクトンの騎兵だった」
ネオクトンの族人は、緋色の鎧兜を纏い、稲と剣で意匠された紋章を胴当てに刻み込む。
集団を先導していた者の胴当てにも、その紋章が刻まれていた。
「では、敵方についたのか?」
「いや、それも考えにくい。あの子たちは、レナール族出身で、ネオクトンとは関係がない」
「ならば、雇われ兵か……」
ダイザは、傭兵集団がどこに向かうのか、気配を追い続けている。
一方、丘の上の気配は、すでに離れ過ぎたため、その気配は追えていない。
丘の上からの視線は、ダイザたちが凍土林に入ったところで途絶えたが、しばらくは気配に何の変化もみられなかった。
今では、あれが何だったのか、知る由もない。
「あの二人は、助けてやってくれ。おそらく、何も考えずに依頼を受けたはずだからな」
「助けるのは構わない。しかし、助けたら、ヴァールハイトが疑われるのではないか?」
あの二人が、ギルドで依頼を受けたのなら、あの二人だけが助かったら、ネオクトンからあらぬ疑いを掛けられるかもしれない。
その場合、ヴァールハイトが襲撃を仕掛けたと糾弾されかねない。
事実、ヴァールハイトのギルド支部長であるオンジが手を下すのである。
「それは、気にしなくてもいい。あの子たちには、依頼失敗の罰を与え、しばらく謹慎させる」
オンジは、ギルド支部長として厳正な処分を課すつもりである。
それでなくば、もしネオクトンから難癖をつけられたときに反論できない。
ギルドは、政治的に中立でなければならず、どの部族にも肩入れはしない。
もっとも、これは表向きのことであり、内実は、ギルドも政治を加味して行動する。
オンジが、国主の妻ヤナリスを助けるのも、親レナール族側についているからである。
北部から流れてきた川にぶつかったところで、軍気を発する一団を発見した。
ダイザたちは、背の高い木に登って気配を殺し、その部隊が目の前を通り過ぎていくのをじっと観察する。
騎馬に乗り、部隊を先導している者は、緋色の鎧兜を纏い、上から黒の外套を着けている。
それに続く者たちは、皆が傭兵風の出で立ちをしており、縦に並んではいるものの、規律正しくはなく、馬に乗った者の後をぞろぞろとついて歩いている。
それらの者の中には、古びた鎧兜を着ける者がいる一方、革の胴当てのみの者や体に鎖を巻き付けただけの者もいる。
統一感のなさや、年齢や性別もばらばらなことから、彼らが雇われ兵であることは一目瞭然である。
ただし、話をする者はなく、その辺りの命令は、一応守っているようである。
ダイザは、集団の人数を数えていき、その中で魔法に長けている者がいないかを確認していく。
だが、誰も魔法師愛用のローブを着んでおらず、また、杖を所持している者もいない。
ただ、魔道具を装備している者は、数人いる。
しかし、いずれの品質も低級で、ダイザたちの魔法を防げるほどの効果は期待できない。
ダイザたちは、息を潜め、総勢23名の集団が通り過ぎるのをじっと待つ。
オンジは、知った顔がいないかと、目を凝らして、一人一人の顔を確認していく。
(……!)
オンジは、視線を次々と移動させ、一団の最後尾付近まで視線を動かしたとき、眉間にシワを寄せる。
やはり、一団の中に見た顔が二人いて、オンジの懸念が当たってしまったのである。
(あの子たち……。報酬に目が眩んだか……)
オンジが発見したのは、最近ヴァールハイトに所属した駆け出しのギルド員である。
(名前は、確かミネルとキュリティ……)
まだ若い男女は幼馴染みで、国都周辺にある村から上京してきたばかりである。
オンジは、ダイザとテムに手で合図を送り、二人の顔を覚えておくように頼む。
(二人から情報を取れるかもしれない。一団から離れたところを拐えればいいが……)
オンジは、一団を全滅させることになっても、ミネルとキュリティだけは助けるつもりである。
(あの二人には、良い教訓になる)
オンジは、ギルド員の初級講座を開いたときに、二人を含め、新人には政治的な依頼を受けるなと何度も警告しておいた。
それが、まだ未熟な二人は、依頼がどのような意図を持ってなされたのか、見抜くことができなかったのである。
集団は、川沿いを北上し続け、ダイザたちから遠ざかっていく。
集団が見えなくなったところで、ダイザたちは木から降り、周囲を警戒しながら巨木の陰に隠れる。
「オンジ。あの二人は、誰だ?」
ダイザは、先程の少年と少女のことを聞く。
「ギルドの者たちだ」
「何だ? なら、味方か?」
「いや、違うと思う。先導していたのは、ネオクトンの騎兵だった」
ネオクトンの族人は、緋色の鎧兜を纏い、稲と剣で意匠された紋章を胴当てに刻み込む。
集団を先導していた者の胴当てにも、その紋章が刻まれていた。
「では、敵方についたのか?」
「いや、それも考えにくい。あの子たちは、レナール族出身で、ネオクトンとは関係がない」
「ならば、雇われ兵か……」
ダイザは、傭兵集団がどこに向かうのか、気配を追い続けている。
一方、丘の上の気配は、すでに離れ過ぎたため、その気配は追えていない。
丘の上からの視線は、ダイザたちが凍土林に入ったところで途絶えたが、しばらくは気配に何の変化もみられなかった。
今では、あれが何だったのか、知る由もない。
「あの二人は、助けてやってくれ。おそらく、何も考えずに依頼を受けたはずだからな」
「助けるのは構わない。しかし、助けたら、ヴァールハイトが疑われるのではないか?」
あの二人が、ギルドで依頼を受けたのなら、あの二人だけが助かったら、ネオクトンからあらぬ疑いを掛けられるかもしれない。
その場合、ヴァールハイトが襲撃を仕掛けたと糾弾されかねない。
事実、ヴァールハイトのギルド支部長であるオンジが手を下すのである。
「それは、気にしなくてもいい。あの子たちには、依頼失敗の罰を与え、しばらく謹慎させる」
オンジは、ギルド支部長として厳正な処分を課すつもりである。
それでなくば、もしネオクトンから難癖をつけられたときに反論できない。
ギルドは、政治的に中立でなければならず、どの部族にも肩入れはしない。
もっとも、これは表向きのことであり、内実は、ギルドも政治を加味して行動する。
オンジが、国主の妻ヤナリスを助けるのも、親レナール族側についているからである。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる