ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第31話 国都への上洛3

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 オンジは、国都へ向かう街道を歩きながら、ダイザとテムに国都へ入る段取りについて話す。

「ダイザとテム殿は、検問では旅先で出会った臨時のパーティ要員ということにします」

「それで、ばれないのか?」

 変装が苦手なテムは、国都への出入り口を見張る門番に見抜かれることを危惧する。

「これだけ、冒険者が揃っています。それに、ダイザとテム殿の格好も、それほど冒険者から掛け離れている訳ではありません」

「確かにな……。武器と防具を装備しているし、旅装だからな」

「えぇ。それに最近では、冒険者志願の者が多くなり、ほかの集落からも似たような格好の者が集まってきています」

 オンジがそう答えている間に、街道が大きく左へ折れ曲がっている先から、商隊らしき馬車の一団が現れる。

「おっ! 国都からの交易商か?」

 長閑のどかな景色に飽きていたテムが、いち早く興味を示し、声を上げる。
 街道を歩いてきてから、初めての通行人が向こうからやって来るのである。
 それも、馬車の一団という大勢である。

「そのよう……ですね?」

 オンジは、テムの言葉に答えるが、やって来る馬車の勢いが速く、警戒心を募らせる。
 こちらを待ち構えていたという雰囲気ではないが、馬車の一団は、とにかく急いで北を目指している。

「脇に寄って、やり過ごしましょう」

 街道では、徒歩の旅をしている者は、馬車に道を譲るのが礼儀である。
 これは、大陸のどこでも同じ習慣で、左右に動きにくい馬車を優先させて、通行を妨げないのが常識となっている。

「何を急いでいるんだ? まさか、俺たちが狙いじゃないよな?」

 テムは、後ろにいるダイザを振り返って問う。
 ダイザの気配察知は優れており、向こうの出方を見抜くことができる。

「殺意は感じません。それよりも、焦りや不安を感じます」

「何かに追われているのか?」

 テムの質問に、ダイザは、首を横に振る。

「馬車の後ろには、誰もいません。周辺にも、敵意のある気配は感じません」

「ん? 人は、いるのか?」

 ダイザの答えに、少し含みを感じ取ったテムが、疑問を口にする。
 すると、ダイザは後ろを振り返って、先程飛竜で降り立った丘の頂上を指差す。
 街道を歩いてきたダイザ一行は、すでにその丘から1kmほど離れている。

「あそこから、視線を感じます。おそらく、私たちは監視されています」

「俺には、分からんが……、確かか?」

「はい。私たちが丘を下ってから、すぐに視線を感じました。一度振り返って確認したところ、数人の姿を確認しました」

 ダイザは最初、丘から北へ向かっていた集団とは別の集団が飛竜を目撃して、丘に登ってきたのだと思っていた。
 しかし、それらの視線は、ダイザたちが街道へ出て、国都へ向かい始めてからもずっとダイザたちを注視し続け、その視線は外れることがなかった。
 ダイザは、それらの視線に疑問を抱きつつも、敵意を感じなかったため、時折気配を探る程度で様子見をしていたのである。

「なんだろうな?」

「分かりません。ただ、向こうの動きがないため、その目的が読めません」

「出方待ちだな」

「えぇ」

 ダイザとテムが、街道を少し離れたところで話し合っている間に、正面から向かってきた馬車は猛烈な速度で迫ってきている。
 今では馬を操る御者の表情まではっきりと見て取れる。
 商隊の先頭を走る馬車の御者は、草むらに立つダイザ一行に気を留めるでもなく、一心不乱に馬の尻を叩き、北へ北へと急いで通り過ぎていく。

「おかしい……?」

 突然オンジが呟き、二台目の馬車が通り過ぎたあとに、街道へ戻る。
 その後に、三台目と四台目が続いており、商隊の馬車は全部で四つで構成されている。

「何者だ!」

 三台目の馬車に並走していた護衛とみられる騎兵が誰何すいかしてくる。

「お待ちを!」

 オンジは、両手を広げて、街道の中央に立ち塞がる。
 ダイザとテムは、オンジが馬に引かれないように側に駆けつけ、ガンドたちは、突然の成り行きに棒立ちになってしまう。

「邪魔だ!」

 商隊の騎兵は、持っていた槍を構えてオンジに迫り、進路を塞ぐオンジを払い除けようとする。

ギィィィン

 騎兵とオンジの間に割って入ったテムが、騎兵の槍を愛用の斧で弾く。
 その隙に、ダイザがオンジを抱えて大きく跳躍し、騎兵の突進からオンジを守る。

「何者だ!」

 騎兵は、一度通り過ぎてから急旋回して駆け戻り、再び槍を構えて誰何する。

「いきなり、何だ!」

 テムも、斧を構え直し、迫ってくる騎兵の槍を迎え撃つ。

「手を出してはいけません!」

 ダイザの手を振り払ったオンジが、再び街道の中央へ走り、テムへ制止の声を上げる。

「お止めなさい!」

 三台目の馬車の中からも、制止の声が飛ぶ。
 声の主は女性で、気品に満ち、命令し慣れた口調である。

「何だ!?」

 テムは、訳が分からず、騎兵の進路から大きく飛び退き、斧の刃を下げて、成り行きを見守る。
 騎兵は、馬の勢いを殺しつつ、テムの脇を通り過ぎ、すでに停車していた馬車の側に戻る。

「オンジ」

 ダイザは、オンジの背後から声をかける。

「どういうことだ?」

「あの馬車から、奥方おくがたの気配を感じた」

「奥方?」

「国主の妻ヤナリス様だ」
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