ロシュフォール物語

正輝 知

文字の大きさ
上 下
366 / 492
凍雪国編第4章

第30話 国都への上洛2

しおりを挟む
 ダイザたちは、標高30mほどの丘の中腹に降り立ち、周囲の様子を探る。
 春先になり、芽吹いてきた草木が、風にそよぎ、中天を僅かに超えた春の日差しをさんさんと浴びている。
 ただこの辺りでは、本来、小鳥のさえずる音が聞こえ、冬眠から覚めた小動物があちこちに見え隠れしているはずである。
 しかし、今は、それらのものたちも飛竜を怖れて、遠くへ逃げ去ってしまっている。
 一方で、丘の麓付近には、人の気配があり、数人がダイザたちがいる丘の中腹ではなく、北の方を目指して進んでいる。
 その歩みが止まらなかったことから、どうやらその集団には飛竜を目撃されなかったようである。

「ブーキたちには、手厚く礼を述べたい。だが、人との接触を避けるため、それはまたの機会にさせて貰う」

 ダイザは、己を乗せて飛んでくれたブーキを労い、感謝の言葉をかける。

「宗主様。我らは、あなた様の手足。礼などは不要です」

「そう言ってくれるな。ブーキたちは、村の危機に駆けつけてくれた。また、私を探しに来てくれ、村からここまで運んできてくれた。私としては、ブーキたちへ何か報いたい。でなければ、私が心苦しい」

 ダイザは、ブーキへ手を差し出し、別れの握手を求める。
 ブーキは、その手を恐縮して握り返す。

「国都での件が済めば、帰りに寄らせて貰う。リポウズでは、ゆっくりと逗留させて貰い、今回の礼を、そのとき改めてさせて貰う」

 ダイザが村へ帰るためには、また飛竜隊に運んで貰う必要がある。
 そのためには、サイバジ族の集落リポウズへ行かなければならない。

「はい。その折には、集落をあげて歓迎します。きっと、族長も大喜びしますよ」

「はははっ。大袈裟なことは苦手だ。デノンハーレ殿には、ほどほどに願いたいとお伝えして欲しい」

 ダイザは、サイバジ族の長デノンハーレとは、国都赴任から帰郷する際に面識を得ている。
 その際は、集落中が祭りのような騒ぎになり、皆からの挨拶や進物を遠慮するのに苦労した。

「族長へは、此度の件を報告させて貰います。また、もし族長の命が下れば、私も国都へ向かわせていただきます。そのときには、何なりとご命令をお願い致します」

「分かった。国都へ来るようなことがあれば、頼りにさせて貰う」

 ダイザは、ブーキの上洛に期待を示し、ほかの飛竜隊の隊員とも、一人一人に別れの握手を交わす。
 テムとオンジたちも、飛竜隊と別れの挨拶をそれぞれが述べ合い、飛竜隊の帰還を見送る。



 ダイザたちは、気配を探り、人目につかない獣道を選んで丘を下り、国都へ通じる街道を目指す。
 凍土林を貫く獣道をしばらく歩くと、最近整備されたばかりの街道へ出ることができた。
 幸い、この辺りの街道を往来する人影はまだ少なく、怪しまれずに街道を歩くことができている。
 ダイザとテムは、オンジたちギルド員の冒険者パーティのメンバーを装っており、国都の検問もその体で突破するつもりである。

「オンジ殿。俺の認識証は、まだ使えるのか?」

 テムは、ずいぶん前に作られた国民証を持参してきており、それが現在でも通用するのか、一抹の不安を抱えている。

「大丈夫ですよ。国民証は、生涯有効で、例え100年前に発行されたものであっても使えます」

「そうか」

 それを聞いたテムは、国都の検問で引っ掛かることはないと判断して、安心する。

「検問では、国民証に魔力探知を掛けて、その真贋を判定します。その仕組みは、各国共通で、作成時に登録した魔力波長を本人確認に用いています」

 国民証などの鑑札は、本人の魔力波長を帯びさせている。
 そのため、他人の国民証などの鑑札を拾っても、本人と鑑札に帯びさせた魔力波長が異なることが即座に見破られてしまうのである。
 なお、魔力量が極端に少ない短命族でも、魔力波長は出ていて、国民証などの本人確認には何ら問題がない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。

hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。 明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。 メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。 もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...