ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第28話 ダイザとテムの見張り番2

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 ダイザは、周りの様子を確認してから、水辺で野草を洗っているテムのもとに近寄る。
 テムは、月明かりを頼りに、鍋に水を汲み上げ、その中に採ってきた野草を浸して、浮いてきたごみを取り除いている。

「テムさんは、どうします? 見張りを交代したら、眠りますか?」

「おぅ、寝るぞ。俺は、全然寝足りなかったからな」

 テムは、大きな欠伸あくびをしつつ、野草を洗い、若葉のみを選んで摘み取っていく。
 テムが収穫してきた野草は、春の旬野菜として有名なイタドリとオオバコである。
 これらの若葉は、パン粉をまぶして油で揚げると、サクサクとした食感と僅かな苦味が美味しい料理となる。
 ただし、今は油がないので、テムは、吸い物にして食すつもりである。

「ただし、これの下準備を済ませてからな。あまり大きな葉を入れると苦味が強いし、筋が残っていては食べ辛いからな」

「テムさんは、割りと食通ですよね」

 ダイザは、テムが野菜を栽培する知識に精通していることは以前から知っていた。
 しかし、テムと旅をしてみて、農業だけではなく、料理についても造詣が深いことに驚かされた。

「はははっ。昔取った杵柄むかしとったきねづかとは、この事よ。独りで大陸を旅していてれば、自然とこうなる」

「私が国都へ行くよりも、随分前のことですよね?」

「そうだな」

 テムは、ふらりと村を出て、国都周辺を旅した時のことを思い起こす。
 その当時は、この辺りにも、魔獣の類いが出没していたが、国都にギルドができてからは、それらも狩り尽くされ、国都周辺には安全な区域が広がっている。

「それより、お前は気配察知に優れている。だから、周囲の警戒を続けてくれよ。俺は、薄暗い中で若葉の摘み取りをしないといけないからな」

 テムは、そう言って、作業に集中する。
 ダイザは、テムの邪魔にならぬように、静かに水辺を離れ、焚き火の近くまで戻る。
 そして、目を閉じて、できる限りの範囲まで、気配を探り出す。
 テント内からは、ガンドの大きないびきが響いてくるが、意識を遠くまで飛ばしているダイザの耳には入ってこない。

(……? 今度は、西……)

 ダイザは、水没林の方角に感じた気配を僅かに感じ取る。
 最初に感じたのは、ここから南方であった。
 だが、今度は、西からおかしな気配を感じ取ったのである。
 この気配が、テムが出合った幼女であれば、幼女はテムに話したように、魔素の濃い島へと移動しているようである。

(敵意は相変わらず、感じない。テムさんが言うように、幼女のことは、村の皆に任せるしかないか……)

 ダイザは、得体の知れぬ幼女は村を襲うつもりではないと判断する。
 しかし、捉えどころのない気配は、無視できない。
 ダイザとて、このような気配を感じたのは、初めてのことだからである。

(消えた……?)

 ダイザは、こちらの気配察知に気がつかれたのかと思い、背筋に冷や汗を足らす。
 もしそうなら、テムとオンジが手も足も出なかったことから見て、相当な手練れであり、ダイザとて、簡単にあしらわれるはずである。
 ダイザは、おかしな気配に興味は尽きないが、これ以上の深入りは禁物であると思い、気配を追い続けるのをやめる。
 幸い、テント周辺には、大型の獣や魔獣はいないようで、人の気配もない。
 ダイザが意識を戻すと、空が白み始めており、そろそろ見張り番の交代時間がくる。
 テムは、まだ水辺で頑張っていて、根気よく作業を続けている。
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