364 / 492
凍雪国編第4章
第28話 ダイザとテムの見張り番2
しおりを挟む
ダイザは、周りの様子を確認してから、水辺で野草を洗っているテムのもとに近寄る。
テムは、月明かりを頼りに、鍋に水を汲み上げ、その中に採ってきた野草を浸して、浮いてきたごみを取り除いている。
「テムさんは、どうします? 見張りを交代したら、眠りますか?」
「おぅ、寝るぞ。俺は、全然寝足りなかったからな」
テムは、大きな欠伸をしつつ、野草を洗い、若葉のみを選んで摘み取っていく。
テムが収穫してきた野草は、春の旬野菜として有名なイタドリとオオバコである。
これらの若葉は、パン粉をまぶして油で揚げると、サクサクとした食感と僅かな苦味が美味しい料理となる。
ただし、今は油がないので、テムは、吸い物にして食すつもりである。
「ただし、これの下準備を済ませてからな。あまり大きな葉を入れると苦味が強いし、筋が残っていては食べ辛いからな」
「テムさんは、割りと食通ですよね」
ダイザは、テムが野菜を栽培する知識に精通していることは以前から知っていた。
しかし、テムと旅をしてみて、農業だけではなく、料理についても造詣が深いことに驚かされた。
「はははっ。昔取った杵柄とは、この事よ。独りで大陸を旅していてれば、自然とこうなる」
「私が国都へ行くよりも、随分前のことですよね?」
「そうだな」
テムは、ふらりと村を出て、国都周辺を旅した時のことを思い起こす。
その当時は、この辺りにも、魔獣の類いが出没していたが、国都にギルドができてからは、それらも狩り尽くされ、国都周辺には安全な区域が広がっている。
「それより、お前は気配察知に優れている。だから、周囲の警戒を続けてくれよ。俺は、薄暗い中で若葉の摘み取りをしないといけないからな」
テムは、そう言って、作業に集中する。
ダイザは、テムの邪魔にならぬように、静かに水辺を離れ、焚き火の近くまで戻る。
そして、目を閉じて、できる限りの範囲まで、気配を探り出す。
テント内からは、ガンドの大きないびきが響いてくるが、意識を遠くまで飛ばしているダイザの耳には入ってこない。
(……? 今度は、西……)
ダイザは、水没林の方角に感じた気配を僅かに感じ取る。
最初に感じたのは、ここから南方であった。
だが、今度は、西からおかしな気配を感じ取ったのである。
この気配が、テムが出合った幼女であれば、幼女はテムに話したように、魔素の濃い島へと移動しているようである。
(敵意は相変わらず、感じない。テムさんが言うように、幼女のことは、村の皆に任せるしかないか……)
ダイザは、得体の知れぬ幼女は村を襲うつもりではないと判断する。
しかし、捉えどころのない気配は、無視できない。
ダイザとて、このような気配を感じたのは、初めてのことだからである。
(消えた……?)
ダイザは、こちらの気配察知に気がつかれたのかと思い、背筋に冷や汗を足らす。
もしそうなら、テムとオンジが手も足も出なかったことから見て、相当な手練れであり、ダイザとて、簡単にあしらわれるはずである。
ダイザは、おかしな気配に興味は尽きないが、これ以上の深入りは禁物であると思い、気配を追い続けるのをやめる。
幸い、テント周辺には、大型の獣や魔獣はいないようで、人の気配もない。
ダイザが意識を戻すと、空が白み始めており、そろそろ見張り番の交代時間がくる。
テムは、まだ水辺で頑張っていて、根気よく作業を続けている。
テムは、月明かりを頼りに、鍋に水を汲み上げ、その中に採ってきた野草を浸して、浮いてきたごみを取り除いている。
「テムさんは、どうします? 見張りを交代したら、眠りますか?」
「おぅ、寝るぞ。俺は、全然寝足りなかったからな」
テムは、大きな欠伸をしつつ、野草を洗い、若葉のみを選んで摘み取っていく。
テムが収穫してきた野草は、春の旬野菜として有名なイタドリとオオバコである。
これらの若葉は、パン粉をまぶして油で揚げると、サクサクとした食感と僅かな苦味が美味しい料理となる。
ただし、今は油がないので、テムは、吸い物にして食すつもりである。
「ただし、これの下準備を済ませてからな。あまり大きな葉を入れると苦味が強いし、筋が残っていては食べ辛いからな」
「テムさんは、割りと食通ですよね」
ダイザは、テムが野菜を栽培する知識に精通していることは以前から知っていた。
しかし、テムと旅をしてみて、農業だけではなく、料理についても造詣が深いことに驚かされた。
「はははっ。昔取った杵柄とは、この事よ。独りで大陸を旅していてれば、自然とこうなる」
「私が国都へ行くよりも、随分前のことですよね?」
「そうだな」
テムは、ふらりと村を出て、国都周辺を旅した時のことを思い起こす。
その当時は、この辺りにも、魔獣の類いが出没していたが、国都にギルドができてからは、それらも狩り尽くされ、国都周辺には安全な区域が広がっている。
「それより、お前は気配察知に優れている。だから、周囲の警戒を続けてくれよ。俺は、薄暗い中で若葉の摘み取りをしないといけないからな」
テムは、そう言って、作業に集中する。
ダイザは、テムの邪魔にならぬように、静かに水辺を離れ、焚き火の近くまで戻る。
そして、目を閉じて、できる限りの範囲まで、気配を探り出す。
テント内からは、ガンドの大きないびきが響いてくるが、意識を遠くまで飛ばしているダイザの耳には入ってこない。
(……? 今度は、西……)
ダイザは、水没林の方角に感じた気配を僅かに感じ取る。
最初に感じたのは、ここから南方であった。
だが、今度は、西からおかしな気配を感じ取ったのである。
この気配が、テムが出合った幼女であれば、幼女はテムに話したように、魔素の濃い島へと移動しているようである。
(敵意は相変わらず、感じない。テムさんが言うように、幼女のことは、村の皆に任せるしかないか……)
ダイザは、得体の知れぬ幼女は村を襲うつもりではないと判断する。
しかし、捉えどころのない気配は、無視できない。
ダイザとて、このような気配を感じたのは、初めてのことだからである。
(消えた……?)
ダイザは、こちらの気配察知に気がつかれたのかと思い、背筋に冷や汗を足らす。
もしそうなら、テムとオンジが手も足も出なかったことから見て、相当な手練れであり、ダイザとて、簡単にあしらわれるはずである。
ダイザは、おかしな気配に興味は尽きないが、これ以上の深入りは禁物であると思い、気配を追い続けるのをやめる。
幸い、テント周辺には、大型の獣や魔獣はいないようで、人の気配もない。
ダイザが意識を戻すと、空が白み始めており、そろそろ見張り番の交代時間がくる。
テムは、まだ水辺で頑張っていて、根気よく作業を続けている。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる