ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第23話 斥候の失敗1

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「オンジ殿。体を動かせるか?」

「はい。すでに感覚は戻り、手足にも力が入ります」

「俺もだ。あんな攻撃は、初めて食らったが、きれいに落とされたもんだな」

 テムは、背後を簡単に取られたこともあるが、回避できぬほどの速さで打たれたことにも、舌を巻いている。

「はい。東大陸に伝承されている一指禅という技です」

「そう言えば、奴とそんな会話をしていたよな?」

 テムは、オンジとティナとの会話を思い出す。

「一指禅とは、人差し指に硬気を乗せて、秘孔を突く技です。この一指禅は、魔力とは異なり、純粋な武芸です」

「あぁ。俺も、何となくそれは感じたよ。魔力波を一切感じなかったからな」

「魔力に頼る我々には、厄介な技です。技を放つ予兆さえないのですから……」

「そうだな……」

 テムも、敵と対峙するときには、魔力の高まりを感じ取って、対処を決める。
 しかし、ティナには、魔力の高まりがなく、淡々としていた。
 それ故、攻撃の察知が遅れたのである。

「ありぁ……、相当な腕だな。ギルドの方には、そう言った情報はないのか?」

「調べてみないと、何とも言えません。少なくとも、今の私には、何も心当たりがありません」

「そうか……」

 テムは、ふ~むと唸り、腕を組んで考え込む。
 だが、テムにも、幼女で手練れの人物には全く心当たりがない。
 その後、テムは、オンジと焚き火を囲み、ティナについて、あれこれと推測を語り合っていると、空からブーキとネイの飛竜が舞い降りてくる。

「ご無事でしたか?」

 ブーキは、飛竜から飛び降り、テムとオンジの身を案じる。

「はははっ。見事にやられたよ。手も足も出なかったぞ」

 テムは、傷一つないことをブーキに伝え、オンジ共々、問題ないことを告げる。

「何者だったのですか?」

「分からん。それを今、オンジ殿と話し合っていたところだ」

 テムは、先程集めておいた枯れ枝を焚き火にくべて、火を大きくする。
 火を忌避する飛竜には申し訳ないが、遠くに控えるブーキやネイの顔が見えるほど、火を明るくしたいのである。

「敵は、もういないのですか?」

「そのようだな。俺たちを放置していなくなった」

「どこへ行ったのでしょうか?」

「さぁな? 考えられるとすれば、俺たちの村だな」

 テムは、ティナの言動から、ミショウ村に行くと推察している。
 おそらく、ティナは、モールが使用した森のエキスを求めている。
 ただ、ティナの言葉を信じるならば、悪い事態にはならず、交渉できる相手となるはずである。

「何をしに行ったのでしょうか?」

「母親の病を治す薬を求めに行くとか、何とか言ってたな。ただ、その辺りのことは、俺たちにもよく分からん」

 テムは、ティナから一方的に質問を受けたのであり、ティナの素性さえ掴めていないのである。

「それより、ダイザが間もなく着くぞ。そろそろ、ここを引き払うか……」

 ダイザとリックスは、すでにテムたちが囲む焚き火の明かりを視認しており、気配察知により、テムとオンジの無事を確認している。
 その足取りは当初よりも緩やかとなり、ブーキとネイが到着してからは、さらにゆっくりとした足の運びとなっている。

「飛竜に乗られますか?」

「いや。ダイザと合流したあと、歩いて戻る。ブーキたちは、上空から俺たちを護衛してくれ」

「分かりました。見張りを行います」

「頼む」

 テムが、ブーキにそう告げると、ダイザとリックスの姿が見える。

「こっちだ」

「無事ですか?」

 テムの声に反応したダイザが、駆け寄ってくる。

「怪我はない。落とされただけだ」

「誰にです?」

「それが、よく分からん。ぱっと見は、子どもだったな……」

「子ども?」

「たぶんな。俺たちは、相手を振り向く間もなく、意識を失った。辛うじて見えたのは、幼女の姿だけだ」

「幼女? こんなところにですか?」

 ダイザは、おかしな魔力波を感じ取ったが、その主がまさか幼女だとは想像していなかった。
 そのため、テムの言葉に、軽い驚きを覚えたのである。
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