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凍雪国編第4章
第12話 クスリナの目覚め
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クスリナの魔力を吸い続けていた練魔石は、容量が一杯になり、煤のような陽炎が立ち消える。
「ふむ。安定しておるな」
モールは、クスリナの魔力が規則的に体内を循環しているのを見て、峠は過ぎたと判断する。
クスリナの魔臓は、今のところ新たな魔力を生み出しておらず、正常に機能している。
高魔力体質の覚醒は、突然起こり、手を打たなければ、溢れ出した魔力が暴走を引き起こしてしまう。
「ん……」
クスリナが、軽い呻き声を上げ、気怠そうにして目を開ける。
「気がついたようじゃな……」
モールは、深い眠りから覚めたクスリナに微笑んで、声をかける。
「……?」
クスリナは、置かれた状況が分からず、モールを見てきょとんとする。
そして、ぼや~っとしたあと、周りの様子を確認し出す。
しばらく、そのまま辺りをきょろきょろと見回していたが、急にがばっと頭を抱え込む。
「うあぁぁぁっ!」
「どうしたんじゃ!」
モールは、クスリナの突然の行動に緊張する。
バチアの秘薬が、何かしらの後遺症を発症させたのかと危惧する。
「あぁぁぁっ! お母さん! デューク! わあぁぁぁっ!」
クスリナは、嗚咽を漏らし、突如として襲ってきた悲しみに囚われ、泣き叫ぶ。
クスリナには、ナジキに拐われてからの記憶があり、マルザやハイト、デュークが殺された場面が甦ってきたのである。
「そうか……。お主は、見たのじゃな……」
モールは、なおも泣き叫ぶクスリナの心情を察し、それ以上は声をかけず、クスリナのしたいようにさせてやる。
クスリナは、まだ若く、目の前で家族が殺されては、平常でいられる方がおかしい。
(魔力の流れに、異常は見られぬ。どうやら、体の機能も正常なようじゃの)
モールは、バチアの秘薬による後遺症がクスリナにみられないことに安堵する。
しかし、あの薬は、精神に影響を及ぼす作用があり、内面までは分からぬため、今後、後遺症が現れてくるかもしれない。
(しばらくは、経過観察じゃの。マルザやデュークのこともある。クスリナの心に歪みが生じなければよいがの……)
モールは、クスリナが目覚めたことをメラニアたちに知らせるため、指を鳴らし、隔離結界を破壊する。
パキンッ
「うあぁぁぁっ!」
クスリナの泣き声が部屋中にこだまし、隣の部屋に控えているメラニアが慌ただしくこちらに向かってくる。
「気がついたのかい!?」
急いでやってきたメラニアは、モールを問い詰め、モールの頷きを見たあと、クスリナの状態を詳しく観察する。
「クスリナ……。大丈夫かい……?」
メラニアは、魔力感知を行い、クスリナに異常がみられないことに安堵し、うずくまるクスリナに声をかける。
「うぅっ……! うぅ……!」
クスリナは、メラニアの声には答えず、嗚咽を漏らし続け、泣きじゃくるだけである。
「姉者……」
モールが、クスリナの寝台から離れ、隣の部屋に行っているという仕草をし、部屋から出ていく。
こういった場面では、メラニアの方が向いており、不慣れなモールの出番ではない。
メラニアは、モールに了解という合図を送り、クスリナの背中に手を置き、クスリナを宥める。
「辛い思いをしたね……。今は、泣けるだけ泣いておしまい。悲しみは涙が流してくれるよ」
「うぁぁぁっ! あぁぁぁっ! あぁぁぁっ!」
クスリナは、布団を強く握り締め、声よ枯れよとばかりに、大声で泣き叫ぶ。
色んな感情が入り乱れ、心の中が整理できず、泣くことしかできない。
そばで見守るメラニアはもとより、隣の部屋にいるアラインやモール、ランジェなども痛ましい思いで、家族を失ったクスリナの慟哭を聞き入るしかない。
「ふむ。安定しておるな」
モールは、クスリナの魔力が規則的に体内を循環しているのを見て、峠は過ぎたと判断する。
クスリナの魔臓は、今のところ新たな魔力を生み出しておらず、正常に機能している。
高魔力体質の覚醒は、突然起こり、手を打たなければ、溢れ出した魔力が暴走を引き起こしてしまう。
「ん……」
クスリナが、軽い呻き声を上げ、気怠そうにして目を開ける。
「気がついたようじゃな……」
モールは、深い眠りから覚めたクスリナに微笑んで、声をかける。
「……?」
クスリナは、置かれた状況が分からず、モールを見てきょとんとする。
そして、ぼや~っとしたあと、周りの様子を確認し出す。
しばらく、そのまま辺りをきょろきょろと見回していたが、急にがばっと頭を抱え込む。
「うあぁぁぁっ!」
「どうしたんじゃ!」
モールは、クスリナの突然の行動に緊張する。
バチアの秘薬が、何かしらの後遺症を発症させたのかと危惧する。
「あぁぁぁっ! お母さん! デューク! わあぁぁぁっ!」
クスリナは、嗚咽を漏らし、突如として襲ってきた悲しみに囚われ、泣き叫ぶ。
クスリナには、ナジキに拐われてからの記憶があり、マルザやハイト、デュークが殺された場面が甦ってきたのである。
「そうか……。お主は、見たのじゃな……」
モールは、なおも泣き叫ぶクスリナの心情を察し、それ以上は声をかけず、クスリナのしたいようにさせてやる。
クスリナは、まだ若く、目の前で家族が殺されては、平常でいられる方がおかしい。
(魔力の流れに、異常は見られぬ。どうやら、体の機能も正常なようじゃの)
モールは、バチアの秘薬による後遺症がクスリナにみられないことに安堵する。
しかし、あの薬は、精神に影響を及ぼす作用があり、内面までは分からぬため、今後、後遺症が現れてくるかもしれない。
(しばらくは、経過観察じゃの。マルザやデュークのこともある。クスリナの心に歪みが生じなければよいがの……)
モールは、クスリナが目覚めたことをメラニアたちに知らせるため、指を鳴らし、隔離結界を破壊する。
パキンッ
「うあぁぁぁっ!」
クスリナの泣き声が部屋中にこだまし、隣の部屋に控えているメラニアが慌ただしくこちらに向かってくる。
「気がついたのかい!?」
急いでやってきたメラニアは、モールを問い詰め、モールの頷きを見たあと、クスリナの状態を詳しく観察する。
「クスリナ……。大丈夫かい……?」
メラニアは、魔力感知を行い、クスリナに異常がみられないことに安堵し、うずくまるクスリナに声をかける。
「うぅっ……! うぅ……!」
クスリナは、メラニアの声には答えず、嗚咽を漏らし続け、泣きじゃくるだけである。
「姉者……」
モールが、クスリナの寝台から離れ、隣の部屋に行っているという仕草をし、部屋から出ていく。
こういった場面では、メラニアの方が向いており、不慣れなモールの出番ではない。
メラニアは、モールに了解という合図を送り、クスリナの背中に手を置き、クスリナを宥める。
「辛い思いをしたね……。今は、泣けるだけ泣いておしまい。悲しみは涙が流してくれるよ」
「うぁぁぁっ! あぁぁぁっ! あぁぁぁっ!」
クスリナは、布団を強く握り締め、声よ枯れよとばかりに、大声で泣き叫ぶ。
色んな感情が入り乱れ、心の中が整理できず、泣くことしかできない。
そばで見守るメラニアはもとより、隣の部屋にいるアラインやモール、ランジェなども痛ましい思いで、家族を失ったクスリナの慟哭を聞き入るしかない。
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