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凍雪国編第4章
第10話 クスリナの魔力覚醒1
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フレイが生み出した英精水は、伝承に出てくるほどの幻の薬である。
しかもこの薬は、現在の大陸ではその存在さえ疑われている薬である。
だが、英精水は、メラニアの持つ薬瓶に実在している。
メラニアは、このことから古き文献に出てくる幻級のものも、実在している可能性があると推測する。
しかし、メラニア自身は、それらのものに、それほど興味を抱いていない。
だが、若いランジェやクスリナが、この英精水のことを聞けば、いらぬ夢を抱き始めるかもしれない。
(この薬のことは、秘密にしておいた方がよさそうだね……)
メラニアは、ランジェやクスリナに真実を隠し、英精水は、自身が作り出した栄養剤であるということにする。
「この薬は、あたしお手製の薬さね。よく効くだろう?」
「うん……」
「なら、良かった。ランジェは、もう少し休みなさい。ホレイとナートには知らせておくからね」
メラニアは、ランジェに穏やかに語りかけ、棚に英精水の薬瓶を戻す。
その隣には、メラニアが二人に飲ませようと煎じて作った紫色のどろどろとした液体が入った薬瓶が置いてある。
「お父さんとお母さんは、無事?」
「無事だよ。すぐに知らせてあげるよ」
「うん!」
ランジェは、嬉しそうに返事をし、再び寝台に横になる。
ランジェは、英精水により、心の安定が得られ、体力が戻ってきている。
だが、まだ体のどこかが無理をしてはいけないと告げているため、ランジェは、それに素直に従ったのである。
「ん……」
ランジェの隣の寝台で寝ていたクスリナが、僅かに体を捩らせる。
「クスリナも、気がついたようだね」
メラニアは、ランジェに布団を掛けてやり、クスリナの様子を確認する。
クスリナは、口を半分に開き、息苦しそうにして、喘ぐような浅い呼吸を繰り返している。
「どうしたんだい……?」
メラニアは、クスリナに魔力感知を行い、クスリナの身に起きている異常を検知する。
クスリナの魔臓には、膨大な魔力が揺蕩っており、今にも噴き出しそうである。
「まずいね……」
「何? どうしたの?」
メラニアの小さな呟きを耳にしたランジェが、寝台から身を起こし、メラニアに尋ねる。
「魔力覚醒が始まったよ」
「魔力覚醒?」
「高魔力体質が目覚めたんだよ。しかも、本人は制御できない状態にある」
「それって、大変なの?」
「あぁ、大変さね。ランジェは、そこで大人しくしてておくれ。手出しは、無用だよ」
ランジェは、メラニアの言い付けに、素直にこくこくと頷く。
「あぁ……!」
クスリナは、無意識のうちに胸を掻きむしり、苦悶の表情を浮かべる。
(急いだ方がいいね……)
メラニアは、己の魔力を研ぎ澄ます。
『seclusion』
クスリナの周囲に、隔離結界が張られる。
クスリナから、膨大な魔力が漏れ出れば、ランジェが魔力酔いを引き起こしかねないからである。
「あたしは、クスリナの魔力暴走を抑える。もし、アラインが起きてきたら、モールを呼んでくるように伝えておくれ」
メラニアは、結界内に入る前に、心配そうに見つめてくるランジェに、伝言を頼む。
結界内に入れば、周囲の音が聞き取れなくなるからである。
「モールさんね。うん、分かったわ」
「頼んだよ」
メラニアは、そう言い置いて結界内に入り、苦しむクスリナの胸に手を当て、魔臓から溢れ出ようとしている魔力量を検知する。
覚醒した魔力は、魔臓の中から次々と生み出され続けている。
そのため、一時的に抑え込んでも、それは解決には繋がらず、最終的には、魔力を全身に巡らせ安定させる必要がある。
ただし、今のクスリナには意識がないため、クスリナ自身の魔力制御は期待できない。
(これなら、まだしばらくは持ちそうだね)
クスリナの魔力覚醒は始まったばかりで、魔臓から漏れ出てくる魔力量は、まだそれほど多くはない。
メラニアは、クスリナの魔力を魔臓へ押し込めるため、魔力封じの魔法を唱える。
『magical containment』
メラニアの手のひらから淡い光の帯が生まれ、それがクスリナの胸の中へ入り、魔臓を縛り上げる。
「うぅ……!」
クスリナの顔が歪み、苦しそうに喘ぐ。
メラニアは、申し訳なさそうに顔を曇らせ、少し目を伏せる。
魔力暴走を抑えるには、今は、これしか手がないのである。
「もうしばらく、我慢しておくれ」
メラニアは、そう言って、視界の中にアラインを確認して、一度結界の外へ出る。
アラインは、ランジェから事情を聞いている最中である。
「お母さん! 大丈夫なの!?」
「今はね。でも、早く次の手を打つ必要があるよ」
「分かったわ。すぐにモールさんを呼んでくる」
アラインは、メラニアが何を求めているのかを知っている。
モールは、余分な魔力を吸収させる練魔石を持っているのである。
アラインは、慌ただしく部屋を出ていき、それを見送ったメラニアは、棚から英精水が入っている薬瓶を手に取り、再び結界内に戻る。
ランジェは、布団にくるまり、心配そうに成り行きを見守っている。
しかもこの薬は、現在の大陸ではその存在さえ疑われている薬である。
だが、英精水は、メラニアの持つ薬瓶に実在している。
メラニアは、このことから古き文献に出てくる幻級のものも、実在している可能性があると推測する。
しかし、メラニア自身は、それらのものに、それほど興味を抱いていない。
だが、若いランジェやクスリナが、この英精水のことを聞けば、いらぬ夢を抱き始めるかもしれない。
(この薬のことは、秘密にしておいた方がよさそうだね……)
メラニアは、ランジェやクスリナに真実を隠し、英精水は、自身が作り出した栄養剤であるということにする。
「この薬は、あたしお手製の薬さね。よく効くだろう?」
「うん……」
「なら、良かった。ランジェは、もう少し休みなさい。ホレイとナートには知らせておくからね」
メラニアは、ランジェに穏やかに語りかけ、棚に英精水の薬瓶を戻す。
その隣には、メラニアが二人に飲ませようと煎じて作った紫色のどろどろとした液体が入った薬瓶が置いてある。
「お父さんとお母さんは、無事?」
「無事だよ。すぐに知らせてあげるよ」
「うん!」
ランジェは、嬉しそうに返事をし、再び寝台に横になる。
ランジェは、英精水により、心の安定が得られ、体力が戻ってきている。
だが、まだ体のどこかが無理をしてはいけないと告げているため、ランジェは、それに素直に従ったのである。
「ん……」
ランジェの隣の寝台で寝ていたクスリナが、僅かに体を捩らせる。
「クスリナも、気がついたようだね」
メラニアは、ランジェに布団を掛けてやり、クスリナの様子を確認する。
クスリナは、口を半分に開き、息苦しそうにして、喘ぐような浅い呼吸を繰り返している。
「どうしたんだい……?」
メラニアは、クスリナに魔力感知を行い、クスリナの身に起きている異常を検知する。
クスリナの魔臓には、膨大な魔力が揺蕩っており、今にも噴き出しそうである。
「まずいね……」
「何? どうしたの?」
メラニアの小さな呟きを耳にしたランジェが、寝台から身を起こし、メラニアに尋ねる。
「魔力覚醒が始まったよ」
「魔力覚醒?」
「高魔力体質が目覚めたんだよ。しかも、本人は制御できない状態にある」
「それって、大変なの?」
「あぁ、大変さね。ランジェは、そこで大人しくしてておくれ。手出しは、無用だよ」
ランジェは、メラニアの言い付けに、素直にこくこくと頷く。
「あぁ……!」
クスリナは、無意識のうちに胸を掻きむしり、苦悶の表情を浮かべる。
(急いだ方がいいね……)
メラニアは、己の魔力を研ぎ澄ます。
『seclusion』
クスリナの周囲に、隔離結界が張られる。
クスリナから、膨大な魔力が漏れ出れば、ランジェが魔力酔いを引き起こしかねないからである。
「あたしは、クスリナの魔力暴走を抑える。もし、アラインが起きてきたら、モールを呼んでくるように伝えておくれ」
メラニアは、結界内に入る前に、心配そうに見つめてくるランジェに、伝言を頼む。
結界内に入れば、周囲の音が聞き取れなくなるからである。
「モールさんね。うん、分かったわ」
「頼んだよ」
メラニアは、そう言い置いて結界内に入り、苦しむクスリナの胸に手を当て、魔臓から溢れ出ようとしている魔力量を検知する。
覚醒した魔力は、魔臓の中から次々と生み出され続けている。
そのため、一時的に抑え込んでも、それは解決には繋がらず、最終的には、魔力を全身に巡らせ安定させる必要がある。
ただし、今のクスリナには意識がないため、クスリナ自身の魔力制御は期待できない。
(これなら、まだしばらくは持ちそうだね)
クスリナの魔力覚醒は始まったばかりで、魔臓から漏れ出てくる魔力量は、まだそれほど多くはない。
メラニアは、クスリナの魔力を魔臓へ押し込めるため、魔力封じの魔法を唱える。
『magical containment』
メラニアの手のひらから淡い光の帯が生まれ、それがクスリナの胸の中へ入り、魔臓を縛り上げる。
「うぅ……!」
クスリナの顔が歪み、苦しそうに喘ぐ。
メラニアは、申し訳なさそうに顔を曇らせ、少し目を伏せる。
魔力暴走を抑えるには、今は、これしか手がないのである。
「もうしばらく、我慢しておくれ」
メラニアは、そう言って、視界の中にアラインを確認して、一度結界の外へ出る。
アラインは、ランジェから事情を聞いている最中である。
「お母さん! 大丈夫なの!?」
「今はね。でも、早く次の手を打つ必要があるよ」
「分かったわ。すぐにモールさんを呼んでくる」
アラインは、メラニアが何を求めているのかを知っている。
モールは、余分な魔力を吸収させる練魔石を持っているのである。
アラインは、慌ただしく部屋を出ていき、それを見送ったメラニアは、棚から英精水が入っている薬瓶を手に取り、再び結界内に戻る。
ランジェは、布団にくるまり、心配そうに成り行きを見守っている。
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