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凍雪国編第4章
第7話 中和薬の完成
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メラニアは、アラインから受け取ったハシリドコロの根茎を水魔法でよく洗い、風魔法で丁寧に乾燥させていく。
そして、カチカチに干からびたハシリドコロの根茎を細かく切り刻み、土瓶の中に入れ、火にかけて煮出していく。
「さて……。あとは、このエキスを濃縮すれば出来上がりだよ」
メラニアは、満足そうに頷き、娘のアラインへ説明する。
今のアラインは、メラニアの生徒であって、よき弟子なのである。
「お母さん。こっちの栄養液は、それに混ぜないの?」
アラインは、メラニアが一昨日から煎じて作っている栄養液を指差す。
ハシリドコロの根茎とは、別の土瓶に、どろどろとした紫色の液体が入っている。
「あぁ、それかい? それは、この中和薬が効いてから飲ませるよ。まだ、吐かせないといけないかもしれないからね」
メラニアは、ランジェとクスリナに吐瀉薬を煎じて飲まし、すでに胃の中を空にさせている。
これで、今のところ、バチアの秘薬による影響を抑えられているのである。
二人が飲まされたバチアの秘薬には、雪中花とカラバル豆、魔晶石が主な成分として配合されていることが分かっている。
このうち、雪中花と魔晶石については、吐瀉薬で吐かせるしか方法がなく、意識を失っている者に服用させるのは、熟練した者でなければ難しい。
メラニアは、水魔法と風魔法を駆使して、ランジェとクスリナの胃に吐瀉薬を送り込み、気管に詰まらせぬように気をつけて、上手に吐かせている。
「この中和薬が効けば、二人は意識を取り戻すはずさね。そうすれば、次の手が打てるよ」
メラニアは、ぐつぐつと煮えたぎる土瓶の中をかき混ぜながら、時折、左手に持っている薬瓶の液体を振りかける。
「それは、何?」
「これかい?」
メラニアは、質問したアラインを振り向き、にやりと笑う。
「これは、昨日、モールが持ってきた薬さね」
「モールさん? 何を持ってきてくれたの?」
アラインは、不思議そうな表情を浮かべる。
アラインは、一昨日からメラニアとこの部屋で二人の処置を施していたが、モールは一度も訪れてはいない。
モールは、アラインが気がつかないうちに来て、メラニアに薬瓶を託したらしい。
「森の英精水さね。しかも、高品質のね」
モールがメラニアに渡したのは、フレイがエルフ族の魔法で作り出した世界樹の樹精が詰まった英精水である。
モールは、ランジェとクスリナの容体が早く良くなるようにと、甕に取っておいた英精水を薬瓶に入れ、メラニアに手渡したのである。
「英精水? 初めて聞く名前ね……」
「これは、薬ではないからね。だから、禁書版の『薬種大全』にも記されていないものだよ」
メラニアは、英精水がエルフの魔法によって作り出されるものであることを知っている。
それは、古代の文献に記されていることであり、メラニアは、かつて学んだルシタニアの研究所で、それを目にしている。
「薬ではないのね」
「厳密には、違うね。これは、エルフの知恵が詰まったものであり、世界樹の恩恵を受けたものさね」
「エルフ? 世界樹?」
アラインは、エルフや世界樹については、お伽噺の中でしか聞いたことがない。
「かつて存在した種族……。まぁ、今もどこかにいるらしいから、滅びた種族ではないね。そのエルフが、世界樹の力を借りて作り出したのが、この英精水なのさ」
「そうなのね……」
「これは、生命力を高めてくれる。二人に飲ませれば、バチアの秘薬で参った体にも力を戻してくれるよ」
メラニアは、部屋の隅に設置された寝台で寝かせられているランジェとクスリナを見る。
「この子たちは、運が良い……。中和薬ができ、英精水まで手に入った。この村でなければ、命を落としていたか、洗脳されて人格を失うことになっていただろうに……」
メラニアは、不幸中の幸いか、回復する手段のある現状に満足する。
バチアの秘薬とは、それほど恐ろしい薬であり、通常なら手の施しようがない薬なのである。
「早く良くなるといいわね」
アラインも、メラニアと同じ見解を抱いており、幸運が重なっていることに感謝する。
そして、カチカチに干からびたハシリドコロの根茎を細かく切り刻み、土瓶の中に入れ、火にかけて煮出していく。
「さて……。あとは、このエキスを濃縮すれば出来上がりだよ」
メラニアは、満足そうに頷き、娘のアラインへ説明する。
今のアラインは、メラニアの生徒であって、よき弟子なのである。
「お母さん。こっちの栄養液は、それに混ぜないの?」
アラインは、メラニアが一昨日から煎じて作っている栄養液を指差す。
ハシリドコロの根茎とは、別の土瓶に、どろどろとした紫色の液体が入っている。
「あぁ、それかい? それは、この中和薬が効いてから飲ませるよ。まだ、吐かせないといけないかもしれないからね」
メラニアは、ランジェとクスリナに吐瀉薬を煎じて飲まし、すでに胃の中を空にさせている。
これで、今のところ、バチアの秘薬による影響を抑えられているのである。
二人が飲まされたバチアの秘薬には、雪中花とカラバル豆、魔晶石が主な成分として配合されていることが分かっている。
このうち、雪中花と魔晶石については、吐瀉薬で吐かせるしか方法がなく、意識を失っている者に服用させるのは、熟練した者でなければ難しい。
メラニアは、水魔法と風魔法を駆使して、ランジェとクスリナの胃に吐瀉薬を送り込み、気管に詰まらせぬように気をつけて、上手に吐かせている。
「この中和薬が効けば、二人は意識を取り戻すはずさね。そうすれば、次の手が打てるよ」
メラニアは、ぐつぐつと煮えたぎる土瓶の中をかき混ぜながら、時折、左手に持っている薬瓶の液体を振りかける。
「それは、何?」
「これかい?」
メラニアは、質問したアラインを振り向き、にやりと笑う。
「これは、昨日、モールが持ってきた薬さね」
「モールさん? 何を持ってきてくれたの?」
アラインは、不思議そうな表情を浮かべる。
アラインは、一昨日からメラニアとこの部屋で二人の処置を施していたが、モールは一度も訪れてはいない。
モールは、アラインが気がつかないうちに来て、メラニアに薬瓶を託したらしい。
「森の英精水さね。しかも、高品質のね」
モールがメラニアに渡したのは、フレイがエルフ族の魔法で作り出した世界樹の樹精が詰まった英精水である。
モールは、ランジェとクスリナの容体が早く良くなるようにと、甕に取っておいた英精水を薬瓶に入れ、メラニアに手渡したのである。
「英精水? 初めて聞く名前ね……」
「これは、薬ではないからね。だから、禁書版の『薬種大全』にも記されていないものだよ」
メラニアは、英精水がエルフの魔法によって作り出されるものであることを知っている。
それは、古代の文献に記されていることであり、メラニアは、かつて学んだルシタニアの研究所で、それを目にしている。
「薬ではないのね」
「厳密には、違うね。これは、エルフの知恵が詰まったものであり、世界樹の恩恵を受けたものさね」
「エルフ? 世界樹?」
アラインは、エルフや世界樹については、お伽噺の中でしか聞いたことがない。
「かつて存在した種族……。まぁ、今もどこかにいるらしいから、滅びた種族ではないね。そのエルフが、世界樹の力を借りて作り出したのが、この英精水なのさ」
「そうなのね……」
「これは、生命力を高めてくれる。二人に飲ませれば、バチアの秘薬で参った体にも力を戻してくれるよ」
メラニアは、部屋の隅に設置された寝台で寝かせられているランジェとクスリナを見る。
「この子たちは、運が良い……。中和薬ができ、英精水まで手に入った。この村でなければ、命を落としていたか、洗脳されて人格を失うことになっていただろうに……」
メラニアは、不幸中の幸いか、回復する手段のある現状に満足する。
バチアの秘薬とは、それほど恐ろしい薬であり、通常なら手の施しようがない薬なのである。
「早く良くなるといいわね」
アラインも、メラニアと同じ見解を抱いており、幸運が重なっていることに感謝する。
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