ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第4章

第2話 メガボアの討伐依頼2

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 ミショウ村から西にある凍土林の獣道を、メリングとフレイが歩いている。
 凍土林の中は、静寂に満ちており、いつもなら小鳥のさえずる音や鋭く甲高かんだかい音が聞こえてくるが、今はそれもない。
 小鳥たちは、近づいてくるメガボアの気配を察知して、すでに遠くへ逃げてしまったようである。

「ん~? どっちかなぁ~?」

 フレイは、目の前の獣道が左右に分かれているのを見て、考え込む。
 獣道を左に行けば、テラ湖へ通じる別の獣道へ出ることができる。
 一方、右の獣道は、テラ湖とは遠ざかるものの、メガボアが進んでくるという方角へ繋がっている。

「迷っていますか?」

 メリングは、年少のフレイに丁寧な言葉使いで尋ねる。
 フレイは、頭をぽりぽりと指でかき、先にホレイとナートに合流するか、メガボアを倒しにいくかを決めかねている。

「左に行くと、テラ湖へ行けるんだけど、右の方からメガボアが来るんだよね」

 メガボアは、巨体なため、たまに凍土林の木に当たることがあり、右手の遠く離れたところから、鈍い振動音が鳴り響いている。

「そうですか……」

 メリングは、島に棲息するメガボアを見たことがない。
 一応、モールから、前情報として、5mを越える巨体、巨大な二本の牙、巨木をもへし折る突進力など、その危険性を伝えられている。
 しかし、メリングが知る大陸に棲息するメガボアと比べると、倍以上の巨体で恐るべき破壊力がありそうである。

「僕としては、先にメガボアを仕留めたいんだけど、メリングさんは、どっちがいい?」

 フレイの言うどっちとは、メガボア退治か、ホレイとナートとの合流か、とのことである。

「そうですね。私としては、先にメガボアを倒す方が、気が楽ですね」

 メリングは、ホレイとナートに面識がない。
 もし、先にホレイとナートに出会うと、メリングが島に来た理由や、これまでのいきさつなどを一つ一つ話さなければならない。
 それは、メリングにとっては、多少の気疲れを伴い、メガボアを倒す前には避けたいことである。

「やっぱり、さっさと倒しちゃう方がいいよね。うん。じゃぁ、こっちに行こう」

 フレイは、メリングの意見も聞いて迷いが吹っ切れたようで、メガボアが近づいてくる右手の獣道へ進み出す。
 メリングも、すぐにフレイに続き、メガボアとの戦闘に備えていく。
 メリングの得物は、幅広のファルシオンで、片刃という点でオンジが使う長刀と扱い方がよく似ている。
 メリングは、腰に下げたファルシオンの柄を一度握り締め、いつもと変わらぬ感触に満足したあと、視線をメガボアがいる方へ飛ばす。

「あと、20分ほどでしょうか……」

「そうなの?」

 フレイには、メガボアが時折立てる鈍い音からしか、その距離が分からない。
 しかし、メリングは、すでに気配察知を行い、メガボアの正確な位置を掴んでいる。

「えぇ。進み具合からみて、あの岩場辺りで出合えそうです」

 メリングは、フレイが進んでいる先を指差す。
 今進んでいる獣道の先には、剥き出しの岩がごろごろと転がっている場所があり、その辺りで、メガボアと遭遇しそうである。

「分かった。じゃぁ、慎重にいかないとね」

 フレイは、そう言って、己の魔力を練り上げ、いつでも魔法を発動できる状態にする。
 ただし、オセイアの秘石は使わないため、指輪を覆い隠している魔防布は、そのままにしておく。

「フレイ殿。メガボアの弱点は、硬皮が薄いお腹です。うまく懐に入れれば、打撃を加えられます」

「うん。僕は、横から近づいて、思いっきり殴るね。メリングさんは、どうするの?」

「私は、メガボアの注意を引きます。フレイ殿は、私がおとりになっている間に、致命傷を与えてください」

「分かった。こっそり近づいて、やってみるよ」

 フレイは、にひひっと笑い、昨日覚えたばかりの金雷を試してみるつもりである。
 オセイアの秘石を使用した金雷は、モールの隔離結界でさえ破壊することができた。
 もし、オセイアの秘石に頼らなければ、どれ程の威力になるのか、早く知りたくて、うずうずしているのである。
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