ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第108話 国都出発の前夜2

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 フレイは、右手中指に嵌った指輪は便利な魔道具であるとしか認識していなかった。
 しかし、ロナリアの話を聞いてからは、指輪が大層貴重なものであるように思え、つい、にたにた笑いをしてしまう。

「はははっ。フレイは、分かりやすいな」

 アロンは、フレイの顔を見て、今フレイが何を思っているのかを正確に見抜く。
 その隣にいるジルも、まるで宝物を手に入れたかのように喜ぶフレイを、可笑しそうに笑う。

「そう? 僕って、単純なのかな?」

「良く言えば、素直だな。フレイのそういうところは、好感が持てる。はははっ」

 アロンは、可愛い弟に笑いかけ、まだ山のように残っているアスタルテのバター和えをフレイの取り皿に盛り付けてやる。

「しかし……、フレイは、よく食べるようになったな」

 ダイザも、フレイの食欲には驚かされており、息子の成長を実感する。

「うん。なんだか最近、お腹が空くんだよね。もしかしたら、これのせいかもしれない」

 フレイは、再び脂で照り光るオセイアの秘石を皆に見せる。
 ダイザたちは、よく分からないという顔で、不思議そうに指輪を見つめる。

「どうして、そう思うんだ?」

「うん、もぐもぐ……ごくんっ」

 フレイは、狼肉を飲み込み、喉が渇いたのか、湯吞みに口をつける。
 そして、一息ついたのちに、ダイザの質問に答える。

「僕は今、自分の魔力をオセイアの秘石に流し続けているんだよね」

 フレイは、皆にそう言ってから、アロンが盛り付けてくれたアスタルテのバター和えを口に運ぶ。

「流し続ける? どうして、そんなことをしているんだ?」

 ダイザには、フレイの体内を巡っている魔力の流れまでは分からない。

「僕の魔力波長がごちゃごちゃしているから……」

「うん? よく分からないが……?」

 ダイザは、以前からフレイの魔力波長が乱れていたことを知っている。
 しかし、今のフレイは、整った魔力波長を帯びており、また、オセイアの魔力波長とそっくりになっていることに気がついている。

「僕ね。モールさんのところで、魔力波長を感じる訓練をしたの」

「ほぅ……。それで?」

「そのとき、僕の魔力波長があまりにも乱れていることに気がついて、自分の魔力波長で魔力酔いを起こしたの」

 フレイは、己の失敗談を素直に吐露する。

「また……、器用なことをしたな……」

 ダイザは、少々呆れ気味になる。
 それを聞いていたアロンたちも、呆気に取られるが、フレイの失敗を微笑ましそうに聞き入る。

「うん。モールさんにも、同じことを言われたよ。それで、この石の力を借りて、魔力酔いを抑えろって」

 フレイは、今では薬のような存在になっている指輪をいとおしそうに撫でる。

「その方法が、魔力を流すことか?」

「うん。この石に魔力を流して、落ち着いた魔力波長を体に戻すの。そうすると、魔力酔いが防げるんだよ」

 ダイザは、ようやく納得した顔で、フレイの言葉に頷く。
 魔力波長は、そうそう簡単に変えることはできない。
 しかし、フレイの波長は、この数日間で全く別の波長になっており、それが驚きをもたらしたのである。
 フレイは、取り皿が空になったので、再び狼肉に手を伸ばす。

「だから、腹が空くのか……」

「だと思うよ。ずっと、魔力を流し続けているからね。あぐっ」

 フレイは、狼肉に豪快にかぶりつき、その旨味を堪能する。
 ダイザは、もう1つ疑問に感じたことを口にする。

「フレイ」

「ふぁに? もぐもぐ……」

「金雷を使っただろう?」

 ダイザは、河川敷にいたときに、セキガ山の中腹で鳴り響いた爆雷が金雷属性の魔法であることを察知している。
 そのときは、オンジが魔法を発動したのかと思っていたが、ドルマの家の土間で、フレイの魔力波長を感じたときに、爆雷の主がフレイであることに気がついた。
 ダイザは、それを確認するために、フレイに尋ねたのである。

「うん、使ったよ。オンジさんに教えてもらったから……」

 フレイは、そんなことは大したことがないと思っているようで、さらりと真実を明かす。
 しかし、ダイザは、内心に驚愕を覚え、アロンやジルばかりでなく、ロナリアも驚きを隠せない。

「フレイ……。簡単に言うがな……」

 ダイザは、フレイが口にした内容が、嘘ではないことを悟っている。
 それだけに、フレイの成長ぶりが驚きなのである。

「僕って、すごい? 蒼炎も使えるんだよ。もぐもぐもぐ……」

 ダイザたちは、開いた口が塞がらない思いで、フレイを見つめる。
 ただ、ニアだけは、モールから言われたことを思い出し、フレイに注意する。

「フレイ。モールさんの言いつけを守らないと駄目よ」

「あっ……。う、うん。そうだよね。ニア姉さん、僕、まずかった?」

「家族には大丈夫と言っていたから、まだ良いのかな? でも、口は堅いに越したことはないわよ」

「うん。気をつけるよ」

 フレイは、真面目な顔をしてニアに頷く。
 ニアは、そんなフレイを見て、少し安心して微笑みを返す。
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