ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第106話 ダイザ家の団欒

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 ドルマの家を出たダイザとアロン、ジル、フレイは、ドルマやモール、ブーキたち飛竜隊、オンジたちギルド員に、明日の朝までの別れを告げ、我が家へ帰宅する。
 ダイザの家では、ヒュレイの手伝いを終えたロナリアやリリア、ニアがすでに帰宅しており、ダイザたちの帰りを待ちわびている。

「お帰りなさい、あなた」

「ただいま」

 ダイザは、家の扉を開け、微笑みを持って迎え入れてくれたロナリアに、言葉をかける。
 すると、瞬間的に家の中から漂い出てくる香ばしい匂いに食欲を刺激される。

「良い匂いがするな」

 狼肉が炙られ、香辛料が焼かれた匂いが入り混じっている。

「えぇ。もう、夕飯の準備はできていますから……」

「そうか。それでは、早速ご飯を頂こう。アロンたちは、手を洗っておいで」

 ダイザは、後ろを振り向き、家の外にいるアロンたちへ声をかけ、邪魔にならないように一歩後ろにずれる。

「うん」

 アロンは、元気よく答え、ロナリアへ帰宅の挨拶を済ますと、家の裏手にある井戸へと急ぐ。
 ジルとフレイも、その後に続き、最後にダイザがゆっくりと息子たちについて行く。

「じゃぁ、私は、リリアとニアを呼んできますね」

「あぁ、頼む」

 ダイザは、ロナリアの方を肩越しに見てから、手を上げて、ロナリアへ答える。
 リリアとニアは、自室におり、それぞれがダイザたちの帰りを待ちながら、時間を持て余している。
 ロナリアは、いそいそとリリアやニアがいる部屋へと向かう。

 ダイザたちが手を洗い終え、井戸から引き上げてくると、食卓には、リリアとニアが次々と料理を並べている。

「お父さん! 早く、座って!」

 リリアが、嬉しそうにダイザを手招きし、ダイザがいつも座っていた椅子を引く。

「分かった、分かった。お前たちも、座って待とう」

 ダイザは、アロンたちにも食卓へつくように促す。

「うん!」

 元気よく答えたのは、フレイで、食卓へ並ぶ豪華な料理を見て、喜ぶ。

「わぁ! 美味しそうだね」

 食卓の中央には、香辛料をまぶして焼かれた狼肉が置かれ、その周りにスノークラウンとアスタルテの蒸かしバター和え、パーマグリーンと紅法師のサラダ、川魚の塩焼きが並べられている。
 また、それぞれの座席の前には、フォークやスプーンのほか、取り皿が置かれている。
 そこへロナリアが、お盆に人数分の湯呑みを持って現れ、立ち尽くしているアロンとジルに声をかける。

「あなたたちも、早く座りなさい。リリアとニアも、席について」

 ロナリアは、湯呑みを皆の座席の前に配りながら、子どもたちに着席を促す。

「なんか、懐かしいね……」

 アロンは、感慨に浸りつつ、己の席へ座る。

「うん……。数日しか、離れていなかったけど、一瞬、思い出のような感覚を味わったよ」

 ジルも着座し、アロンと同じような感想を抱く。

「はははっ。それが旅をしてきたあかしだよ。お前たちは、短い間とはいえ、独り立ちを経験したんだ」

 ダイザも、子どもの頃に同じ経験をしている。
 そのことを思い起こしながら、アロンとジルが今感じていることを我がことのように思い返す。

「そうなのかな?」

「あまり、実感は湧かないけどね……」

 アロンとジルは、お互いに顔を見合わせ、不思議な感覚に戸惑う。
 しかし、二人の体は、そんなことにはお構い無しに、ぐぅ~っと腹の虫を鳴かせる。

「はははっ。考えるより、まずは腹拵えだ。フレイも、大陸での話を楽しみにしていると思うが、ご飯が冷めてしまわないよう、先に食べよう」

「うん! いただきます!」

 フレイがそう言うと、席に着いたロナリアが復唱し、皆もそれに倣う。
 ダイザたちが村を出てから、すぐに襲撃事件が起きたが、また再び一家の団欒がこうして戻ってきた。
 そのことを、皆、あえて言葉にはしないが、料理に手をつけながら、家族の大切さを噛み締める。
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