ロシュフォール物語

正輝 知

文字の大きさ
上 下
328 / 492
凍雪国編第3章

第104話 国都派遣への準備1

しおりを挟む
 ドルマが土間に集まった一同に向けて、これまでの状況を整理するため、皆に報告を求め、その上で今後の方針を協議する。
 それによると、今回、ミショウ村を襲撃してきた者たちは、子どもの誘拐が目的であり、宗主国を狙った可能性が低いことが分かる。
 ただし、ダイザたちが、当初の旅程を外れ、トセンに身を寄せてしまったがために、敵が襲撃機会を逃した可能性も残る。
 分かっていることは、ゼノス教が関与し、国都やルシタニア帝国内にも協力者がいることである。
 また、国都の外交相ヒュブは、闇ギルドとのつながりがあり、今回の件も裏で手引きしていたことが推測される。

「さて……。ハイトやマルザ、デュークの仇を討たねばならん。また、今後の禍根も断たねばならん」

 ドルマは、皆を見渡して、その表情に浮かんでいる考えを読み取ろうとする。
 ミショウ村の者には、悲哀と悔しさが見て取れ、飛竜隊やギルド員には義憤ぎふんの感情が宿っている。

「皆の者に問いたい。忌憚きたんのない意見を述べてくれ」

「私は、賛成です」

 先ず真っ先に、ダイザが名乗りを上げる。
 ダイザの気持ちとしては、宗主国の代表として、己が意見を表明し、覚悟を示さなければならない。

「これまで、この村が標的になることはありませんでした。此度の件で、どこまでこの村のことが大陸に知れ渡っているのかを調べる必要があります。また、敵対する勢力を洗い出し、対抗策を立てねばなりません」

「うむ。ほかには、ないか?」

 ドルマは、ダイザの考えに理解を示すように大きく頷く。

「わしは、仇を討つのには賛成じゃが、国都へは行かんぞ」

 モールが、国都嫌いを発揮して、村からの出兵を拒否する。

「はははっ。分かっておる。お主に、それは期待しておらんわい」

 ドルマは、はなからモールの出兵は当てにしていない。
 ドルマの考えでは、己とモールは、村の守りとして備え置くつもりである。

「ふん。なら、わしから何も言うことはない……、いや、まだあるな」

「何をじゃ?」

「アロンやジル、キント、フレイもじゃが、子どもの出兵には反対じゃ。これらの子には、まだ早い」

 モールは、存外優しい目でアロンたちを見つめて微笑む。
 皆は、モールの意外な一面を見た思いで、一瞬驚く。
 だが、オンジとメリング、ブーキだけは、昔を思い出し、懐かしそうに笑う。

「うむ。それは、心配せずともよい。この村の未来を背負う若者たちに、危険な役回りを押し付けるつもりはない。彼らには、わしらとともに、村を守る役目を担ってもらう。今出払っておるホレイとナートも、娘の看病をせんといかんし、ゲナンも村の守りとして残すつもりじゃ」

「なら、誰を派遣するんだ?」

 テムが、口を挟む。

「そこが問題じゃな。バージは、すでに国都へ向かっておる。あとこの村から出せるのは、ダイザかテム……、お主らぐらいしかおらん」

 ドルマは、二人を「どうじゃ?」と言いながら、交互に見る。

「やはり……、俺が行くのか?」

「お主の気が向かんのなら、代わりは、ゲナンに頼むしかないの」

 ドルマは、意外と器用に何でもこなすテムに期待している。
 また、ゲナンは国都へ行ったことがないが、テムは過去に大陸を旅行したことがあり、国都の習俗にも詳しい。

「キントは、誰が面倒を見る?」

 テムの気掛かりは、息子のキントのことである。
 キントは、魔法が使えないために、襲撃があれば、誰かが敵の魔法を防いでやらねばならない。
 テムがいれば、キントを真っ先に守ってやれるが、ほかの者は守るべき者がいる。
 親としては、キントが後回しにされ、命を落とすようなことになれば、悔やんでも悔やみきれない。

「わしが、面倒を見てやろう」

 モールが、テムに申し出る。

「わしは、キントの師でもあるし、独り者じゃ。キントが嫌でなければ、テムが帰ってくるまで、わしのあばら家に住めばよい」

 モールは、キントに笑いかけ、キントも微笑みを持って頷く。

「父さん。僕は、師匠のもとへ行くよ。だから、心配しないで……」

「そうか? まぁ、モール爺なら安心だが、俺が出向けば、一月以上は帰って来れんぞ?」

「大丈夫。無事を祈りながら、待っているよ」

 キントは、テムを安心させるように、大きく頷きながら笑う。

「分かった」

 テムは、キントが少しずつ成長しているのを見て、楽しくなり、キントの肩を軽く叩く。

「……ということだ。村長、俺は、国都へ行っても構わない」

「悪いの。頼りにさせてもらう」

 ドルマは、テムの申し出に満足そうに頷く。

「私も、行きます」

 ダイザも、当然のように宣言する。

「私も、宗主として、国主と話をしなければなりません。また、皇衛兵のこともあります。私が行って、皆が困らないように働いてきます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。

hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。 明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。 メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。 もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

侯爵夫人は子育て要員でした。

シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。 楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。 初恋も一瞬でさめたわ。 まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。 離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。

処理中です...