ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第101話 ダイザたちの帰還2

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 ダイザとドルマたちが、河川敷で再会を祝していると、村からモールたちが近づいてくる。
 モールの後ろには、ミショウ村の危難を救いに来たメリングやリックス、ガンド、エスレート、ハンナが続いている。

「よう戻った。大事は、なかったようじゃの」

 モールは、ダイザやテムに声をかけ、穏やかに微笑む。
 モールの考えでは、もしかすると、宗主を狙う輩が、ダイザたちを襲っていても、おかしくなかったからである。

「モール爺。心配を掛けて、済まない」

 テムは、モールが村を救ったことを知り、率直な気持ちを表す。

「おや? いつになく素直じゃな。どうした?」

 モールは、笑いをいつものにやにや笑いに変え、テムを見る。

「モール爺の尽力に頭を下げただけだ。茶化すのなら、もうせん」

「はははっ。可愛い奴じゃの」

 テムは、口をへの字に曲げて、面白くなさそうに、ふんと鼻を鳴らす。
 しかし、モールの後ろにいる見慣れぬ面々を見て、態度を改める。

「国都から駆けつけてくれた人たちか?」

「そうじゃ。ヴァールハイトの有志たちじゃの」

 モールは、テムとダイザ、アロンたちへ、メリングたちを紹介する。

「メリング殿。村を救いにきてくれて、ありがとう」

 テムは、礼儀正しく頭を下げ、メリングたちへ感謝を表す。

「私たちは、長の家族を守る役目も担っている。当然のことをしたまでだ」

 メリングがいう長とは、ヴァールハイトのギルド長マティアスのことである。
 このマティアスの家族とは、モールのことであり、村の人々である。
 また、メリングにとって、かつての主であるモールを守るのは、ごく当たり前のことなのである。

「メリング。私からも、礼を言わせて貰う。家族を守ってくれて、ありがとう」

 メリングと面識のあるダイザも、メリングたちへ感謝を告げ、深々と頭を下げる。

「リポウズへも知らせてくれた。これからのことを思えば、大いに助かる」

 ダイザは、そう言って、メリングたちに一人ずつ感謝の気持ちを再度述べながら、握手をしていく。

「ダイザよ。お主の身を案じておった。じゃが、何事もなかったようじゃの」

 モールは、ダイザの背中をばしばしと叩き、村を出て行ったときと変わらぬ姿のダイザに安心する。
 ダイザは、モールの加減を知らない励ましに、一瞬顔を歪めるが、特に咎めることもせず、笑って受け流す。

「えぇ。私たちには、敵の手は及びませんでした。もしかしたら、すぐに獣装兵と出会ったことが、幸いしたのかもしれませんが……」

「獣装兵か……」

 モールは、ふむと頷き、ブーキをちらりと見る。
 宗主国の皇衛兵は、ミショウ村の危難に、いずれも力を発揮しているようである。

パキンッ
バリリリリリッ

「!」

 河川敷につどった皆が、セキガ山の中腹へと視線を向ける。
 そこからは、突然爆雷の音とともに、強烈な魔力波が噴き出し、辺り一帯へ衝撃波を撒き散らす。
 ブーキたちは即座に武器に手を掛け、ダイザとアロンたちを守るべく取り囲む。

「はははっ。お前たち、心配せんでええ」

 モールは、呵呵と笑い、ブーキたちのいさみ立つ気持ちを制する。
 ダイザとテムも、己の武器に手を掛けたものの、モールが平然としているため、緊張の糸を解く。

「モール爺。あれが何か、知っているのか?」

「はははっ。知っておるぞ。あれは、もう一人のお客さんじゃよ」

 モールは、己の家から鳴り響いた爆雷が、魔力波長からフレイのものであることを察知している。
 しかし、それはテムたちには明かさず、オンジのことを代わりに教える。

「ここにおるメリングたちと一緒に、オンジが来てくれたのじゃ。ブーキから、聞いとらんのか?」

「そういえば、そんなことを言っていたな……」

 テムは、ダイザを見やり、同意を求める。
 ダイザは、ブーキをちらりと見てから、テムに頷く。

「オンジは、ヴァールハイトの国都支部長です。金雷の刀姫と呼ばれている強者ですね」

 かつて、国都で交流したことのあるダイザは、懐かしそうにオンジのことを話す。

「今の爆雷も、そのオンジでしょう」

 ダイザは、確認の視線をモールへ送る。
 しかし、モールは、ゆっくりと首を横に振り、楽しそうに微笑む。

「いや、ちょっと違うな。じゃが、今は、細かいことは、どうでもええ。ドルマよ、そろそろ村へ入ろう」

 モールは、同じように愉しげな笑みを浮かべているドルマに話しかけ、手振りで村の方を示す。

「おぅ。そうじゃな」

 ドルマは、モールに頷き、皆を己の屋敷へ行くように促す。
 ダイザは、少々腑に落ちないものの、ロナリアやアロンたちを連れて村へ向かう。
 その後に、テムらが続き、ドルマがブーキらを村へ導く。
 ドルマは、モールのそばを通り抜けるとき、ぼそりと呟く。

「フレイは、楽しみじゃの」

「はははっ。期待を裏切らん奴じゃしな」

 モールも、小声で応じ、金雷をあっという間に修得したフレイの才能を高く評価する。
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