ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第98話 隔絶結界の破壊1

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 オンジは、無邪気に喜んでいるフレイを眺め、末恐ろしさを感じる一方、どこまで成長するのか見届けてみたい思いも抱く。

(もしかして……、紅寿様がこの子に目を掛けている理由が、これなのか?)

 モールは、本来秘匿されるべき金雷を、フレイに教えるようにオンジへ催促した。
 オンジも、最初は断るつもりでいたが、久しぶりに再会したモールの頼みを無下にはできなかった。
 今思えば、それもすべては、フレイの才能を開花させたい一心であったと、思えなくもない。

「フレイ殿」

「うん? 何?」

 フレイは、雷球を剣のように細長く引き伸ばそうと、一生懸命に両手で引っ張っている。
 しかし、雷球は、楕円まではいくものの、それ以上は伸びないままである。

「金雷属性は、基本となる魔力波長さえ覚えてしまえば、あとは、剣や槍、矢などのイメージを重ねるだけで変形させることができます」

「へぇ~」

「この点は、ほかの属性魔法と大して差はありません」

「うん」

 属性魔法は、主に基本となる魔法名に、形状を表す魔法名を加えることで形を変えることが出来る。
 また、ブラストやストーム、ヘルなどの魔法名を追加することで、威力を上げたり、広範囲魔法に変えたりすることができる。
 金雷属性の魔法も、サンダーボルトの魔法名にソードやスピアなどの魔法名を加えると、武器の形になり、ストームやヘルを加えることで、広範囲魔法となる。
 もっとも、単に魔法名を加えたところで、それに見合う技量と魔力量がなければ、発動せず、フレイのように煙だけを生み出したり、暴発を招いたりする結果となる。

「ですから、剣はソード、槍はスピアやジャベリン、矢はアローなどと、サンダーボルトの後に追加して唱えればいいのです」

 オンジは、フレイから一歩下がって、両手を左右に開く。

thunderbolt javelinサンダーボルトジャベリン
thunderbolt shieldサンダーボルトシールド

バリバリバリバリバリッ

 オンジの右手には、金雷の投槍が生まれ、左手には金雷の盾が生じる。

「うわっ!」

 フレイは、オンジが魔法を発動させた瞬間、どんっという魔力波の衝撃を浴び、少しよろける。
 フレイは、その衝撃により、生み出していた雷球を消滅させてしまう。
 オンジの両手からは、圧倒的な魔力波長が生み出されており、それぞれの金雷魔法が桁違いの威力を持っていることが分かる。

「これが、金雷の刀姫と呼ばれる所以ゆえんです。いつもなら、背中の長刀に金雷を纏わせますが、この形でも闘います」

「す、すごいね……」

 フレイは、オンジの金雷の眩しさに目を細める。
 フレイが生み出した金雷とは、光量や魔力波の強さにおいて段違いである。
 オンジは、にこりと微笑んだあと、すっと金雷魔法を解除する。
 結界内が一瞬にして静まり返り、オンジは、ほうけたように見つめてくるフレイに優しく微笑みかける。

「私の講義は、これでお終いです。あとは、フレイ殿が精進され、金雷を使いこなすことを期待しています」

「う、うん……」

 生返事を返したフレイは、オンジから受けた魔力波に驚いた余韻が尾を引いている。

「さて、それでは、ここから出ることを考えますか?」

 モールが張った結界が消えるまでには、あと30分ほどの時間が要る。
 オンジは、それまでどうするか思案し出す。
 フレイは、どすんっと地面に腰を下ろしてしまい、疲れた顔でオンジを見上げる。

「モールさんが、声を掛けてくれるんじゃないの?」

「そう期待したいところですが、まだ声を掛けてくれませんね」

 いつものモールなら、オンジが金雷を教え終わった段階で声を掛けてくるか、結界を解いてくれるはずである。
 しかし、しばらく待っていても、その兆しは一向に現れない。

「ねぇ……。これって、破れないの?」

 フレイは、地面に胡坐をかいて座り、天井付近を見上げて呟く。

「私では、おそらく無理でしょうね。最初に試しましたが、切り裂ける感覚は得られませんでした」

「ふ~ん……」

 フレイは、結界に閉じ込められた気がしてきて、少し不機嫌になる。

「モールさ~ん!」

 フレイは、無駄だとは分かりつつも大声を出し、外のモールに呼びかける。

「終わったよ~! 早く出して~!」
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