ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第93話 金雷属性の基本1

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「嫌か?」

 モールは、オンジが躊躇ためらっているのを見て、聞き直す。

「別に断っても良いぞ。フレイには、別の機会があるじゃろうしな」

 モールは、そう言って、フレイの頭をぽんぽんと叩き、オンジには見えないように、にやりと笑う。

「いえ、そういう訳ではありません。ただ、ここには他にも人がおり、被害が及ぶ危険性があります」

「なんじゃ? そんなことか? それなら、心配はいらん。わしが、訓練部屋を用意してやるでな」

「家の中にあるのですか? ずいぶん、手を掛けたんですね」

 オンジは、後ろの部屋の中を見渡し、感心する。

「はははっ。そんなところにはないわい。ここは、ただのあばら屋じゃ。訓練部屋は、わしがこれから作ってやるわい。どうじゃ? 頼まれてくれるか?」

「……分かりました。そこまで、配慮して頂けるのなら、フレイ殿に金雷をお見せ致しましょう」

 オンジも、フレイに金雷を見せることに否はない。
 ただ、メリングたちの視線が気になっていたのである。

「おぅ。よかったな、フレイ。希少な金雷じゃ。とくと見て、学ぶのじゃぞ」

 モールは、フレイの背中をばしばしと叩き、我がことのように嬉しそうに笑う。

「い、痛いよ……」

 フレイは、加減を知らないモールへ抗議する。

「はははっ。悪い、悪い。では、訓練部屋を作ってやる」

 モールは、庭の中を見渡し、メリングたちがいる竈とは反対側の空間を指差す。

「お主らは、あそこでやるのじゃ」

「あそこ……ですか? 何もありませんよ?」

「気にせんでええ。ほれ、行くぞ」

 モールは、縁側から降り、すたすたと歩いて、目的の場所まで行ってしまう。
 それを見たフレイは、ため息をつきつつ、小さく呟く。

「また……。いつも突然動くんだから……」

 そんなフレイの様子に、オンジは、微笑む。

(懐かしい……。いつもの紅寿様だ……)

 モールは、庭の端に立ち、足で地面に線を引いていく。
 そして、直線が引き終わったとみるや、90度に曲がり、また直線を引いていく。
 これを合計3回行い、5m四方の小さな四角を描き終える。

「お主らは、この中に立つのじゃ」

 モールは、遅れてやってきたフレイとオンジに、描いた四角の中に立つように指示する。

「これから、ここに結界を張る。また、外からは見えんように目隠しも掛けてやる」

 フレイは、何が行われるのかを知っている。
 そのため、モールが魔法を発動させるのを静かに待つ。
 しかし、オンジは、戸惑いを隠せない。

「紅寿様。結界と言いましても、魔力波が外へ漏れ出てしまうのではありませんか?」

「大丈夫じゃ。外からは、中で何が行われているのか、全く分からんわい」

「オンジさん。心配いらないよ。この間も、モールさんの魔力を封じ込めていたもの」

 フレイは、モールが全魔力を開放しても、結界が壊れなかったことを教える。

「そ、そうですか……?」

 オンジは、まだ半信半疑だが、モールの実力は知っているため、信じることにする。

「こりゃ。ぶつぶつ言っとらんで、早く立たんか」

 フレイとオンジは、素直に頷いて、描かれた四角の中央に立つ。

seclusionスィクルージョン

 モールが、魔法を唱えると、フレイとオンジの足元から、外界と隔絶させる無属性の魔法障壁が現れ、描かれた四角全体まで広がる。
 また、上空の方にも広がり、オンジの頭より、5mは高い位置まで結界が張られる。

darknessダークネス

 続けて、モールは、闇魔法を唱え、結界の周りに光をさえぎる闇を纏わせる。

「できたぞ」

 モールは、あっさりと行って、立ち去ろうとする。

「そうそう。この結界は、あと1時間で消える。それまでは、外を気にせず、存分にして貰って構わん。ただ、結界が消えるまでは、外に出られんから注意するのじゃぞ」

 モールは、そう言い残すと、さっさと結界を潜り抜けて、外へ出てしまう。
 モール自身が張った結界は、本人には全く影響しないようである。

「また……」

 フレイは、結界の外へ出たくなったときのことを聞きたかったが、質問する間もなく、外へ出てしまったモールに呆れる。
 それは、オンジも同様で、戸惑いしか残らなかった。

「……」

 オンジは、モールが張った結界をぐるりと見渡し、その一部に触れてみる。

バチッ

「つっ!」

 オンジの手が触れた結界上に、波紋が生じ、オンジの手を弾き返す。
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