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凍雪国編第3章
第78話 ボーキョウからの眺め
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ボーキョウへは、トセンから5時間ほどの山登りで辿り着くことができた。
ダイザたちは、集落へは入らずに、まずはミショウ村が望める切り立った崖の先端に立つ。
島の上空は、晴れ渡った大陸の空とは違い、薄墨色の靄に覆われている。
そのため、視界が良好とは言えない。
しかし、セキガ山の麓に集落があることは、ここからでも見てとれる。
ミショウ村の魔方陣結界は、見事に破られており、村の惨状が朧気ながら確認できる。
被害が大きいのは中央広場で、その辺り一帯が黒くなっている。
「襲撃は、本当だったんだな……」
テムは、己の目で確認しないうちは半信半疑でいたが、現実を目の当たりにして、言い知れぬ怒りが沸々と湧いてくる。
「えぇ。皆が無事であれば良いのですが……」
ダイザは、村に残してきたロナリアやリリア、ニア、フレイの安否が気になり、焦燥感に駆られる。
「ダイザ。まずは、お互い冷静になろう」
「はい」
テムの諭しに、ダイザは大きく深呼吸をしてから頷く。
怒りや焦りに身を任せても、良い結果には結びつかない。
リターナと、その護衛として付いてきたロルとアイケンも、ミショウ村に起きたことに驚いている。
アロンたちは、起きたことが信じられず、ただただ呆然とミショウ村を見つめ続けている。
「皆……、無事だよね?」
キントは、隣に立つジルに呟くように聞く。
「うん……」
ジルは、あまりの衝撃に、半分上の空で答える。
「あっ! あれを見て!」
アロンが東の空を指差し、黒い点の集団が南下して行くのを見つける。
「サイバジ……の飛竜隊……だよな?」
アロンの声に逸早く反応したテムが、目を凝らして黒い点の正体を見極める。
「えぇ。テムさんの言った通りになりましたね」
「そうだな」
ダイザの言葉に、テムはほっとした表情を浮かべる。
黒い点の集団は、ミショウ村を目指して移動している。
サイバジ族の飛竜隊は、雁行陣の隊列を組み、敵の襲撃に備えて飛行する。
今見える黒い点の集団も、それらしい形を取っているように見えなくもない。
「あれがサイバジ族の飛竜隊だとして、ミショウ村に辿り着くのは、まだ随分時間が掛かるよな?」
「はい。そして、それから私たちを探しに来てくれるとすれば、早くて明日の明け方か、遅ければ明後日以降になりそうですね」
「……だよなぁ。バージがリポウズに着くのは、5日後だから、それに比べたらまだ早いか?」
「えぇ、そうですね。もしかすれば、私たちの方が先に国都へ着くかもしれません。もしくは、リポウズでバージたちを迎え入れることになりますね」
サイバジ族の飛竜隊が、ボーキョウまで来てからミショウ村に帰還しても、バージたちはリポウズまで辿り着けていない。
「とりあえず、救援隊が向かっているのは、有り難いな。その後、俺たちのもとに来てくれれば嬉しいが……、どうだろうか?」
テムは、あの飛竜隊がここへ飛んできてくれることを願うが、物事はそう上手く運ばないことを知っている。
こちらの都合で、希望的観測を信じるのは勝手だが、相手にも思惑や優先的事項があるからである。
「ここは、待ちで構わないと思います。村長のことですから、襲撃を受ければ、私たちの行方を心配してくれると思います」
「そう言われれば、そうだな」
ドルマは、ダイザたちの出発後に襲撃されたことから、教練師の派遣が絡んでいると考えるかもしれない。
もしそうであるならば、ダイザたちへ一報を入れるために、飛竜隊を飛ばすはずである。
「まぁ、待ちましょう。遅くとも、バージが呼んだ飛竜隊が駆けつけてくれるはずですから……」
テムは、どっちにしろ、ミショウ村に帰れることに安堵する。
「どうする? ここで、見張るか? それとも監視だけ置いて、ボーキョウで待つか?」
「ボーキョウへ行って、腰を落ち着けて待ちましょう。監視は、魔嶽鋒に協力して貰います」
テムは、ダイザの返答に頷き、腹が減っていることに思い至る。
「腹拵えをするか……。英気を養わんと力も出ん」
「そうですね。休息も取って、長時間の飛行に備えないといけないですね」
飛竜に乗るのは、体力がいる。
これは、飛行による風圧に耐える必要があるためで、また上空の寒気にも耐えなければならない。
ダイザたちは、しばらくミショウ村と飛竜隊を眺めたあと、ボーキョウに足を向ける。
ダイザたちは、集落へは入らずに、まずはミショウ村が望める切り立った崖の先端に立つ。
島の上空は、晴れ渡った大陸の空とは違い、薄墨色の靄に覆われている。
そのため、視界が良好とは言えない。
しかし、セキガ山の麓に集落があることは、ここからでも見てとれる。
ミショウ村の魔方陣結界は、見事に破られており、村の惨状が朧気ながら確認できる。
被害が大きいのは中央広場で、その辺り一帯が黒くなっている。
「襲撃は、本当だったんだな……」
テムは、己の目で確認しないうちは半信半疑でいたが、現実を目の当たりにして、言い知れぬ怒りが沸々と湧いてくる。
「えぇ。皆が無事であれば良いのですが……」
ダイザは、村に残してきたロナリアやリリア、ニア、フレイの安否が気になり、焦燥感に駆られる。
「ダイザ。まずは、お互い冷静になろう」
「はい」
テムの諭しに、ダイザは大きく深呼吸をしてから頷く。
怒りや焦りに身を任せても、良い結果には結びつかない。
リターナと、その護衛として付いてきたロルとアイケンも、ミショウ村に起きたことに驚いている。
アロンたちは、起きたことが信じられず、ただただ呆然とミショウ村を見つめ続けている。
「皆……、無事だよね?」
キントは、隣に立つジルに呟くように聞く。
「うん……」
ジルは、あまりの衝撃に、半分上の空で答える。
「あっ! あれを見て!」
アロンが東の空を指差し、黒い点の集団が南下して行くのを見つける。
「サイバジ……の飛竜隊……だよな?」
アロンの声に逸早く反応したテムが、目を凝らして黒い点の正体を見極める。
「えぇ。テムさんの言った通りになりましたね」
「そうだな」
ダイザの言葉に、テムはほっとした表情を浮かべる。
黒い点の集団は、ミショウ村を目指して移動している。
サイバジ族の飛竜隊は、雁行陣の隊列を組み、敵の襲撃に備えて飛行する。
今見える黒い点の集団も、それらしい形を取っているように見えなくもない。
「あれがサイバジ族の飛竜隊だとして、ミショウ村に辿り着くのは、まだ随分時間が掛かるよな?」
「はい。そして、それから私たちを探しに来てくれるとすれば、早くて明日の明け方か、遅ければ明後日以降になりそうですね」
「……だよなぁ。バージがリポウズに着くのは、5日後だから、それに比べたらまだ早いか?」
「えぇ、そうですね。もしかすれば、私たちの方が先に国都へ着くかもしれません。もしくは、リポウズでバージたちを迎え入れることになりますね」
サイバジ族の飛竜隊が、ボーキョウまで来てからミショウ村に帰還しても、バージたちはリポウズまで辿り着けていない。
「とりあえず、救援隊が向かっているのは、有り難いな。その後、俺たちのもとに来てくれれば嬉しいが……、どうだろうか?」
テムは、あの飛竜隊がここへ飛んできてくれることを願うが、物事はそう上手く運ばないことを知っている。
こちらの都合で、希望的観測を信じるのは勝手だが、相手にも思惑や優先的事項があるからである。
「ここは、待ちで構わないと思います。村長のことですから、襲撃を受ければ、私たちの行方を心配してくれると思います」
「そう言われれば、そうだな」
ドルマは、ダイザたちの出発後に襲撃されたことから、教練師の派遣が絡んでいると考えるかもしれない。
もしそうであるならば、ダイザたちへ一報を入れるために、飛竜隊を飛ばすはずである。
「まぁ、待ちましょう。遅くとも、バージが呼んだ飛竜隊が駆けつけてくれるはずですから……」
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「どうする? ここで、見張るか? それとも監視だけ置いて、ボーキョウで待つか?」
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テムは、ダイザの返答に頷き、腹が減っていることに思い至る。
「腹拵えをするか……。英気を養わんと力も出ん」
「そうですね。休息も取って、長時間の飛行に備えないといけないですね」
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これは、飛行による風圧に耐える必要があるためで、また上空の寒気にも耐えなければならない。
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