ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第72話 ミショウ村の異変1

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 イザックは、ルイビスの命を受けて、部屋を飛び出していく。
 そのイザックと入れ替わるようにして、ダイザが大広間に入ってくる。
 ルイビスは、難しい顔をして上座に座っている。

「ルイビス殿。何事かが生じましたか?」

「おぉ、宗主様。どうぞ、こちらへ」

 ルイビスは、急いで上座から降り、ダイザを自らが座っていた席へと導く。
 ダイザも、ルイビスの所作には慣れているため、あえて逆らわず、案内されるがままに上座へと腰を落ち着ける。

「報告では、ビーバが青帯部隊を率いて、ボーキョウから降りてくるようです」

 ボーキョウは、トセンよりも高所にある。
 そのため、東はリポウズまで見渡せ、島にあるミショウ村も望むことができる。
 ただし、ミショウ村には強力な魔方陣結界が張られており、通常は目で見ることができない。

「青帯……ですか?」

 ダイザは、ビーバとは面識がない。
 ただ、青帯の意味は正確に理解しており、魔法に絡む事態が発生したことを悟る。

「東や北……ではありませんね。私たちの村に異変が起きたのでしょうか?」

「分かりませぬ。ここからでは、島の異変は見えませぬ故……」

 ルイビスとて、分かることなら、ダイザの不安を取り除いてあげたい。
 しかし、トセンは、ゴンスル山岳地帯の麓にあり、また、島の断崖絶壁の下に位置する。
 そのため、トセンからでは、島の状況は見て取れない。
 また、魔力波長を探るにしても、トセンからでは、ミショウ村は遠く離れ過ぎている。

「ルイビス様!」

 大広間の外から声が上がり、駆け足の音とともに、大柄な男が駆け込んでくる。
 その後ろからは、リターナとイザックが続き、魔嶽鋒の鎧兜に身を包んだ若者も付き従ってくる。

「おぉ、ビーバ。何があった?」

「ミショウ村が襲われました!」

「何!?」

 ルイビスは、血相を変えて立ち上がり、目の前で跪いたビーバの肩を掴む。

「詳しく話せ!」

「はっ! 夜明け前、ミショウ村の結界がほどけ、火の手が多数上がりました!」

「それで!?」

「飛竜の群れらしき黒い点が村を襲い、迎撃の魔法が放たれています! その後、一時間ほどで火は鎮火し、飛竜らしきものは全滅したと思われます!」

 ビーバは、己の目でミショウ村の状況を確認した。
 しかし、ボーキョウからは距離が離れているため、村の上空を舞う黒い点が飛竜であるとの確信が持てないでいる。

「……お主は、鎮静化してから来たのだな?」

「はい。私が村を出る間際まで、ミショウ村の状況に、変化は見られておりません」

「いつ、出てきたのだ?」

「ミショウ村が落ち着きを取り戻してから、およそ二時間後です」

「そうか……」

 ルイビスは、ビーバからの報告を聞いて、しばし考え込もうとする。
 しかし、視界の隅にダイザの姿が入り、慌ててダイザの意向を確認する。

「宗主様。如何なさいますか?」

 ダイザは、鎮静化したと聞いて、当面の危機は去ったと推測する。
 そのため、今は、急いで行動を起こす状況にはないと判断した。

「……もう少し詳しく知りたい。ビーバ殿。申し訳ないが、知り得た限りのことを話して欲しい」

 ダイザから話を促されたビーバは、一瞬戸惑った表情を浮かべる。

(確か今……、ルイビス様は宗主様とおっしゃったような……?)

 ビーバは、上座に座るダイザに対し、どのような態度を取ってよいのか、判断がつかない。
 それを見たルイビスが、すかさず言葉を発する。

「ビーバ。こちらは、ミショウ村のダイザ様だ。我々が宗主様と崇める、その人だ」

 ルイビスは、ビーバへダイザを簡潔に紹介する。
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