ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第48話 獣装兵の宴5

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 ダイザは、席を離れて、リターナのそばへ行き、言葉をかける。

「天幕だけでなく、見事な料理を作ってくれた。皆の心遣いに感謝する」

「トセンであれば、もっとたくさんの料理が作れた」

 リターナは、残念そうな顔をし、あり合わせの料理に物足りなさを感じる。
 しかし、ダイザたちにとっては、十分過ぎるもてなしであったため、リターナへ改めて礼をいう。

「これで、十分だ。リターナたちに出会わなければ、今日は、猪の素焼きと乾燥根菜、野草の煮汁だけになっていたからな」

「それでは、質素過ぎないかい?」

「そうか?」

 料理の種類は、確かに少ない。
 だが、栄養面では、しっかりと摂取できている。
 ダイザは、そう思い、リターナの問いに疑問で返す。

「旅の途中といえども、食への配慮は必要だよ。特に、子どもたちを連れているときにはね」

「まぁな」

 ダイザは、リターナの言いたいことを理解し、アロンたちを見やって頷く。
 若者三人は、すでに成長期が終わりに差し掛かりつつある。
 しかし、日々に必要とする栄養分は、ダイザたちに比べてまだまだ多く、栄養を偏らせるわけにはいかない。

「それに、旅は多いほうがいいぞ。料理も、見張りも楽になる」

「確かに、それは言えるな」

 早めに食事を終えた獣装兵が、クウザミ族に伝わる歌を披露し出し、なかには、リズムに合わせて舞を踊る者まで現れる。
 アロンやジル、キントは、初めて見る舞踊に興味を抱いたのか、楽しそうに笑い合っている。

「どうだい? あたしたちが護衛をしてやろうか?」

「いや、それはいい。リターナたちも、やることがあるだろう?」

 それを聞いたリターナは、僅かに肩をすくめて答える。

「狩りは、あらかた済んだ。明日にも、トセンに戻ればいい。それより、ルイビス様のことが気にかかる」

「ルイビス殿か……」

 ダイザは、昔から、宗主への崇拝の念が行き過ぎているルイビスのことが少々苦手である。
 ルイビスは、ヤグラムに長年仕えた乳母ミクシの直孫であり、ミクシの教えを全て伝承している人物でもある。
 リターナも、そのことは理解しており、ダイザの気持ちを推し量りながら、言葉を続ける。

「ダイザの足が、遠のきそうなのは知っている。しかし、あたしは、ルイビス様のお気持ちを大切にしたい」

「分かってはいるが……。はははっ。その話は、また今度だな」

 ダイザにとって、ルイビスに関することは、楽しい宴の席では遠慮したい話であった。
 なので、笑って、その場をごまかす。
 リターナも、今は敢えて追求をせず、話題をさらりと変えることにする。

「全員で国都へ行くのか?」

「いや、私とテムさんは、おまけだよ。国都へ行くのは、バージと息子たち、キントの四人だ。ジョティルも、国都へ帰還する」

「おっ。やっぱり、息子たちだったか……」

 リターナは、ボフトスへ話していた通りに、ダイザの息子がいると知り、話に食いつく。

「そういえば、紹介がまだだったな。一番背が高いのが、テムさんで、その隣がキント。キントは、テムさんの息子だ。そして、バージの横にいるのが、私の息子のアロンとジルだ。背の高いほうがアロンで、長男。ジルは、二番目の息子だ」

「ん? その言い方だと、その下にもいるのか?」

「あぁ、いるぞ。ニアとフレイがな」

 リターナは、意外に子沢山なダイザに驚く。

「……何人兄弟なんだ?」

「全部で五人兄弟だな。一番上がアロンで、次がリリア。リリアは女の子で、ジルの前に生まれた。ニアは次女で、フレイが三男だな」

 リターナは、リリアのことについては、国都でダイザから教えられている。
 ダイザが、国都に赴任していたときには、ミショウ村にアロンとリリア、ジルが育っていたのである。

「あたしと別れてから、また二人、生まれたんだな……」

「そう……なるな……」

 ダイザは、国都の帰り道をバージのほかに、リターナとも一緒に旅をしていたことを思い出す。

「……あと、何人産むつもりなんだ?」

 リターナは、さすがに呆れ気味になり、ダイザへ一応聞いてみる。

「さぁな……。こればかりは、何とも言えん。子どもは授かりものだからな」

 ダイザは、やや照れながら頭をかいて答える。
 リターナは、(まぁ、いい……)と思いつつ、皆の食事が終わりそうなのを見て、ボフトスに合図する。
 ボフトスは、心得たとばかりに大きく頷き、竈で保温してあった鍋を持ち、皆の器へリゾットを盛り付けていく。

「ん? あれは、なんだ?」

 ダイザは、赤い汁が器へ注がれるのを見て、リターナへ聞く。

「猪肉と香草のリゾットだよ」

「ずいぶん派手な色をしているな……」

「最近、国都で流行っている根菜を使用しているからね」

「美味いのか?」

「野菜の甘味が染み出ていて、絶品だよ。試しに、食してみな」

 リターナは、自信たっぷりに勧める。
 ダイザは、それならと、自らにあてがわれた席へと戻り、血の色のようなリゾットを味見する。
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