ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第45話 獣装兵の宴2

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「はははっ。馬が欲しくなるな。リポウズまで乗せて行って欲しいもんだ」

 バージは、サイバジ族の集落リポウズまで、馬に乗れば楽をすることができると考え、リターナにそれとなく話を振ってみる。
 それを聞いたリターナは、少し目を見開き、にやりと笑う。

「連れて行っても構わん。ただし、それだと時間的余裕ができるはずだな?」

 リターナの含みのある言い方に、バージもピンとくる。

「あぁ……。トセンに寄って欲しいのか?」

「是非ともだな」

 リターナは、何としてでも、ダイザをルイビスに引き合わせたい。
 それは、ルイビスが宗主に拝謁できる日を待ち望んでいるからであり、リターナも世話になっている師の喜ぶ顔が見たいからである。
 バージは、リターナの強い思いを察し、ダイザがトセンへ行くことを断りにくい方法を教えることにする。

「……ならば、テムさんを誘え。テムさんが望めば、ダイザも無下むげには断らん」

「どうしてだ?」

「テムさんは、俺たちの先達せんだつだからだな。ダイザも、テムさんには一目置いている」

 テムは、大陸からミショウ村へ作物や果実を移植し、ミショウ村の食生活を豊かにした。
 また、バージもダイザも、幼きときに、テムから狩りの仕方や林の中での生活を教えられている。

「テムとは、どの人物だ?」

 リターナは、後ろを振り返り、凍土林のそばでダイザと立ち話をしている面々を見渡す。

「一番背の高い人だ。今、猪を担いでいる人だな」

「あぁ、あの熊みたいな人か……」

 テムは、日焼けした顔に旅の途中で伸びた無精髭を生やしている。
 また、黒斑牛の革をなめした胴衣を身につけ、上から獅子熊ししぐまの毛皮で作った外套がいとうを羽織っている。

「そうだ。テムさんは、気さくで人がいい。また、植物に興味があり、珍しい作物の種や果実の苗があると、遠出することもいとわない」

 バージは、テムが北半島へ上陸したのも、新しい品種を求めてのことだと、リターナへ教えてやる。

「ふふふっ。それは良いことを聞いた。ダイザをトセンへ招き寄せることができそうだ」

「そうか? 俺は、頑張れとしか言えないが……」

「それで、十分だ」

 リターナは、嬉しげな表情でバージに答える。

「ダイザたちが天幕に荷物を置いたら、すぐに食事を取る」

「分かった」

 リターナは、バージへ片目をつぶって微笑んだあと、ボフトスのもとへ向かう。

(何か思いついたような顔だったな……)

 トセンへ行くことは、遠回りな旅程となる。
 しかし、国都へ急ぐ理由もないことから、バージは、成り行きを楽しげに見守るつもりでいる。



 クウザミ族は、ゴンスル地方の南方にある高台に集落ボーキョウを作り、近年は、その麓に集落トセンを築き上げている。
 そのトセンでは、比較的若い部族民が暮らし、国都との交易も僅かではあるが行われている。
 騎馬は、その交易で獲得したものであり、今では暮らしに欠かせない存在となっている。

「ボフトス。宗主一行が、猪を提供してくれるそうだ」

 リターナは、すでにジャイアントバイソンを焼き上げたボフトスに声をかける。
 ボフトスは、竈にくべた火を落とそうとしていた手を止め、リターナに振り向く。

「……では、このままにしておきやしょう」

 ボフトスは、天幕へと移動しているダイザ一行を眺め、担がれている猪がスイフトボアであることを確認する。

「あの猪であれば、十数分で焼き上がりやす」

「頼んだぞ。宗主たちをもてなし、トセンへと招かねばならない」

「分かっていやす」

 ボフトスは、ダイザが宗主であれば、ちょうど今、トセンに滞在しているルイビスが会いたがることを知っている。
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