ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第39話 衝突危機の回避2

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 リターナの後ろから、獣装兵たちが集まってくる。
 どの兵も、ボフトスとクイが恐縮している姿を見て、事情が分からず、困惑した表情を浮かべる。

「……リターナ様。ご無事ですか?」

「あぁ、あたしたちは大丈夫だよ」

 リターナは、獣装兵たちが抜き身の剣を手に下げているのを見て、剣を鞘に収めるように手振りで示す。
 そして、皆に大人しくしているように指示を出し、ダイザたちへ向き直る。

「……それで? 何で、あんたたちがここにいるんだい?」

 リターナは、ダイザとバージに話しかける。
 二人とは、国都で教練師仲間の間柄である。
 ダイザは、リターナの物言いに懐かしさを感じ、砕けた調子で話し出そうとする。
 しかし、ほかの獣装兵の手前もあり、リターナの立場も考え、必要以上に馴れ馴れしくならないように、言動に気をつけながら話す。

「この辺りに来たのは、狩りをしていたからだが……、リターナが聞きたいのは、私たちが島を出た理由の方だな?」

「そうだよ」

 リターナは、当然だというように頷く。

「島を出たのは、国主からの依頼があったからだ」

「あぁ、教練師の話かい。その話なら、うちにも来ていたよ」

 リターナは、国主からの依頼ということを聞き、瞬時に理解を示す。
 ダイザたちが国主からの依頼に応じたのならば、この辺りを通り過ぎるのがごく自然だからである。

「リターナのところにも、来たのか?」

「トセンではないね。ボーキョウの方に話が行って、ルイビス様が一昨日知らせに来てくださった」

 ルイビスとは、クウザミ族の族長で、ボーキョウの村長をしている人物である。
 また、ルイビスは、剣技と魔法に優れ、クウザミ族の武術師範も兼ねており、リターナの師匠でもある。

「そうか……。もしかして、知らせたのはジョティルか?」

「違うね。ハイザックとかいう奴らしい」

「ハイザック? それも巡察官か?」

「さぁね。あたしが直接会った訳ではないから、詳しいことは分からないよ」

 リターナも、ハイザックという名前の巡察官には心当たりがない。
 国都にいたときにも、そのような人物とは面識はなかった。

「そうか……」

 ダイザは、しばし考え込むが、後ろからバージが口を挟む。

「その話は、あとでジョティルに聞けばいい。それよりも、キントのことだ」

「そうだな」

 ダイザは、バージに頷き、クイに向かって頭を下げる。

「こちらの手違いで、怪我をさせてしまった。すまなかった」

「えっ! だ、大丈夫ですよ……。あ、頭を上げてください」

 クイは、宗主からの突然の謝罪に戸惑い、助けを求めるようにリターナを見る。

「クイ。怪我はしなかったのかい?」

「矢が刺さりましたけど、すぐに回復魔法で治しました。なので、今は傷もありません」

 クイは、自身の左太腿をぱしぱしと叩き、何も問題ないことをアピールする。
 ダイザは、その仕草を見て、クイが許しているのならば、キントに悪感情が向かないだろうと安心する。

「本当にすまなかった。もし、痛みが出るようならば言ってくれ。私が治癒魔法で治すから……」

「い、いいですって……! 本当に治りましたから……」

 クイは慌てて両手を振り、恐縮して、逆にぺこぺこと何度も頭を下げ、ダイザの申し出を断る。
 そんなクイの姿が可笑しかったのか、ボフトスは、はははっと豪快に笑い出す。
 それで、ダイザたちや獣装兵の間にある緊張感がほぐれ、お互いに笑みがこぼれだす。
 リターナも、嫣然えんぜんとした笑みを浮かべ、クイに助け舟を出す。

「クイ。痛みがないのなら、ネグルたちに報せてきておくれ」

「は、はい!」

 居心地が悪かったクイは、リターナの命令に安堵した表情を浮かべ、素早く一礼をしてから、そそくさと立ち去る。
 ボフトスは、なおも愉快そうに笑う。

「お嬢。わしらも、戻りましょうや」

「そうだね。……ダイザたちも、ついてきておくれ。腹ごしらえをしながら、ゆっくりと話そう」

 リターナは、ほかの獣装兵も事情を聞きたそうにしているので、場所を変え、ダイザたちをもてなすために誘う。
 ダイザは、誤解がすんなりと解け、リターナたちと争わずに済みそうなので、その申し出を快く受ける。

「こちらには、まだ連れがいる。ここで合流してから、後を追わせてもらう」

「何人だい? 夕飯の支度を整えておくよ」

「全部で七人だ」

「分かった。この先の小川に宿営しているから、遅くならないうちに来ておくれ」

 リターナは、そう言って、ボフトスたちを促し、ネグルたちが待つ場所まで戻っていく。
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