ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第36話 獣装兵との遭遇2

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 ダイザは、初の実戦で硬さが取れないアロンとジルに忠告する。

「無理はするな。危なくなったら、後ろのバージを頼れ」

「うん、分かった」

 アロンは、力強く頷き、剣を引き抜こうとする。
 それをダイザは、手で制す。

「剣は抜くな。敵と見間違われる。もし危険が迫ったら、魔法で身を守るんだ」

「でも……」

 アロンは、不服そうに、ダイザを見返す。
 だが、ダイザは、アロンから視線を外し、追いついてきたバージに話しかける。

「バージ」

「どうした?」

「アロンとジルを頼む」

「いいだろう」

 バージは、任せろと快諾し、アロンやジルの背中をぽんぽんと叩く。
 アロンは、仕方なく剣から手を離す。
 追跡行は、ダイザを先頭にし、アロンとジルが続き、バージ、ジョティル、キント、テムの順で進むことが暗黙のうちに決められる。

「もし危険が迫れば、俺は二人に風属性の防御魔法をかける。お前たち自身も防御魔法をかけるなら、風属性以外にしてくれ」

 防御魔法は、属性を変えて重ね掛けをすれば、それだけ強固なものになる。
 ただし、魔法は、お互いに干渉し合う性質があり、魔力波長が合わない魔法同士は反発し合い、対消滅を引き起こすこともある。
 ミショウ村出身者は、同じ系統の魔法技術を修得しており、魔力波長も似ていることから、魔法の重ね掛けでも、これまで重大な過干渉が引き起こされたことはない。

「ありがとうございます。では、火属性の防御魔法をかけます」

 アロンは、バージへ謝意を示し、風属性と被らない火属性を使うことにする。

「俺も……」

 ジルも、兄に倣って火属性を使うことにし、集団戦への協調性を見せる。
 バージは、二人に頷いたあと、後ろのジョティルに遅れてくるキントを指差して頼む。

「ジョティルは、キントを守ってやってくれ。キントは、魔法が苦手だ。お前の光魔法で守ってやってくれ」

 ジョティルは、バージの頼みに微笑みを持って頷き、キントとテムの到着を待つ。
 ダイザは、後顧の憂いがなくなったのを確認し、獣装兵の追跡行を開始する。



 ダイザたちが狩りをしていた場所から北に2kmほど離れた凍土林の中。
 少し開けた谷底を流れる小川では、15頭の馬が冷たい雪解け水を飲み、その周りにはクウザミ族の獣装兵が野営の準備をしている。
 忙しく動き回る獣装兵の鎧兜には統一感がなく、氷嵐鳥や黒銀熊、飛竜、ジャイアントバイソン、スイフトボア、フォッグ狼など、様々な獣や魔獣が剥製加工されている。
 その中で、一際目立つのが、ディスガルドタイガーの白い鎧兜で、身に着けているのは、まだうら若き女性である。
 白虎びゃっこの兜の下からは、まだあどけなさが残るものの、肌白き美貌の顔が垣間見える。

「お嬢」

「ん? 何だい?」

 お嬢と呼ばれたリターナは、飛竜の鱗に身を包んだボフトスへゆっくりと向き直る。
 リターナは、獣装兵の指揮官であり、トセンの長でもある。
 背の高いボフトスが近づいてくると、リターナは見上げるような格好になる。

「今日のめしは、香草焼きにしやすか? それとも、炭火で焼き、魚醤で味付けをしやすか?」

 むさ苦しい禿げ頭から、夕飯の調理方法についての質問が出る。
 筋肉質で大柄なボフトスは、見た目によらず、細やかな気配りができる男である。

「何の肉を焼くんだい?」

「昨日狩ったジャイアントバイソンでやす。スノーヘェアの肉もありやすが、毎日では飽きると思い、今日はジャイアントバイソンにしやす」

「では、香草焼きにしておくれ」

 リターナは、考える間もなく即決する。

「へい」

「ボフトス、塩は少なめにな」

「分かっていやす」

 リターナは、塩辛い料理を好まない。
 長い付き合いのボフトスは、そのことをよく心得ており、リターナへ一礼をして請け負う。
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