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凍雪国編第3章
第29話 海峡の巨大魚2
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(圧縮撃……!)
ジョティルは、テムが手元でしたことを見逃さなかった。
テムは、斧の柄を素早く一回転させ、周囲の空気を巻き込み、打撃を放った。
通常、それは、風魔法を用いて行う技である。
しかし、テムは、それを並外れた筋肉の力だけで放ったのである。
「エ、エンシェントバラクーダ……です……よ……」
ジョティルは、今見たものがまだ信じられない様子で、驚きの表情を保ったまま、ぼそりと呟く。
船底破りとも呼ばれるエンシェントバラクーダは、圧倒的な速力と巨体で、これまでに数多くの船舶を沈めてきている。
また、その鋭い歯で船員に噛み付き、人の腕や足をもぎ取ることもあるため、海の猛獣と恐れられている怪魚である。
それをテムは、事も無げに撃退してしまい、呵呵と笑っている。
「初めて遭遇したが、そんなに恐い魚なのか?」
「え、えぇ……。南方では、今でもあの巨大魚にやられ、沈没させられていると聞いています」
ジョティルは、テムの素朴な疑問に答える。
エンシェントバラクーダは、比較的波の穏やかな温暖な海洋に生息し、大陸の南方での目撃例が多い。
これまでに、港湾都市を行き来する交易帆船が、運悪くエンシェントバラクーダに出くわし、多くの者が命を落としている。
まさかあの怪魚が、この荒れ狂う海峡にも巣食っているとは予想外のことである。
「流石に、禁断の島といったところですね……」
瘴気が濃い島は、獣が巨大化しやすく、性格も獰猛なものが多い。
島から瘴気が流れ込む周辺の海域でも、魚たちが巨大化している。
エンシェントバラクーダが、それらの巨大魚を餌とするために、この辺りまで回遊して来てもおかしくはないのである。
ジョティルは、エンシェントバラクーダの出没にも驚かされたが、木こりや農業を生業にしているテムの手並みにも驚かされた。
ダイザやバージといい、ミショウ村の人間は規格外な者ばかりが集まっているようである。
「もう大丈夫だよね?」
ジルが恐る恐る海中を覗き込み、ぴくりとも動かないエンシェントバラクーダの姿に安堵する。
テムに守られたキントは、父親の体を心配げに見つめる。
「父さん。怪我はない?」
「ないない。馬鹿な魚を殴り飛ばしただけだ。怪我などするはずがない」
テムもジルと同様にして、海底に力なく沈んでいくエンシェントバラクーダを見つめていたが、キントの声に振り返り、豪快に笑いながらその背中をバシバシと叩く。
キントは、僅かに咳き込むが、いつもと変わらないテムの様子に、嬉しそうにして微笑む。
「テムさんの相手にはなりませんね」
ダイザも、微笑みながら言い、アロンとジルに剣をしまうように手振りで示す。
「ところで、あれは食えたのか?」
テムは、ジョティルの気持ちなどお構いなしに、獲物を逃した残念さを全面に出して聞く。
ジョティルは、開いた口が塞がらない思いだが、そこは辺境を旅する巡察官らしく、知識を披露する。
「毒を持っていますが、一応、食べることはできます」
「美味いのか?」
「さぁ……? これまで食べた方に出会ったことはありませんので、私には分かりません」
「そうか……」
テムは、ぐぅっと腹の虫を鳴かせながら答える。
今日の昼飯は、筏作りのため、皆が抜いている。
ディスガルド北半島の対岸が、徐々に近くなってきた。
どうやら、海峡を渡り終えたところで腹ごしらえとなりそうである。
ジョティルは、テムが手元でしたことを見逃さなかった。
テムは、斧の柄を素早く一回転させ、周囲の空気を巻き込み、打撃を放った。
通常、それは、風魔法を用いて行う技である。
しかし、テムは、それを並外れた筋肉の力だけで放ったのである。
「エ、エンシェントバラクーダ……です……よ……」
ジョティルは、今見たものがまだ信じられない様子で、驚きの表情を保ったまま、ぼそりと呟く。
船底破りとも呼ばれるエンシェントバラクーダは、圧倒的な速力と巨体で、これまでに数多くの船舶を沈めてきている。
また、その鋭い歯で船員に噛み付き、人の腕や足をもぎ取ることもあるため、海の猛獣と恐れられている怪魚である。
それをテムは、事も無げに撃退してしまい、呵呵と笑っている。
「初めて遭遇したが、そんなに恐い魚なのか?」
「え、えぇ……。南方では、今でもあの巨大魚にやられ、沈没させられていると聞いています」
ジョティルは、テムの素朴な疑問に答える。
エンシェントバラクーダは、比較的波の穏やかな温暖な海洋に生息し、大陸の南方での目撃例が多い。
これまでに、港湾都市を行き来する交易帆船が、運悪くエンシェントバラクーダに出くわし、多くの者が命を落としている。
まさかあの怪魚が、この荒れ狂う海峡にも巣食っているとは予想外のことである。
「流石に、禁断の島といったところですね……」
瘴気が濃い島は、獣が巨大化しやすく、性格も獰猛なものが多い。
島から瘴気が流れ込む周辺の海域でも、魚たちが巨大化している。
エンシェントバラクーダが、それらの巨大魚を餌とするために、この辺りまで回遊して来てもおかしくはないのである。
ジョティルは、エンシェントバラクーダの出没にも驚かされたが、木こりや農業を生業にしているテムの手並みにも驚かされた。
ダイザやバージといい、ミショウ村の人間は規格外な者ばかりが集まっているようである。
「もう大丈夫だよね?」
ジルが恐る恐る海中を覗き込み、ぴくりとも動かないエンシェントバラクーダの姿に安堵する。
テムに守られたキントは、父親の体を心配げに見つめる。
「父さん。怪我はない?」
「ないない。馬鹿な魚を殴り飛ばしただけだ。怪我などするはずがない」
テムもジルと同様にして、海底に力なく沈んでいくエンシェントバラクーダを見つめていたが、キントの声に振り返り、豪快に笑いながらその背中をバシバシと叩く。
キントは、僅かに咳き込むが、いつもと変わらないテムの様子に、嬉しそうにして微笑む。
「テムさんの相手にはなりませんね」
ダイザも、微笑みながら言い、アロンとジルに剣をしまうように手振りで示す。
「ところで、あれは食えたのか?」
テムは、ジョティルの気持ちなどお構いなしに、獲物を逃した残念さを全面に出して聞く。
ジョティルは、開いた口が塞がらない思いだが、そこは辺境を旅する巡察官らしく、知識を披露する。
「毒を持っていますが、一応、食べることはできます」
「美味いのか?」
「さぁ……? これまで食べた方に出会ったことはありませんので、私には分かりません」
「そうか……」
テムは、ぐぅっと腹の虫を鳴かせながら答える。
今日の昼飯は、筏作りのため、皆が抜いている。
ディスガルド北半島の対岸が、徐々に近くなってきた。
どうやら、海峡を渡り終えたところで腹ごしらえとなりそうである。
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