ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第26話 筏での海峡横断3

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 テムは、おもむろに凍土林の中へ入り、周りの木々を見渡す。
 岸壁に近い凍土林では、強風と潮風の影響により、木は巨木には成長しづらい。
 辺りに見える木々は、どれも持ち運ぶには手頃なサイズの直径15~20cmほどの太さで生育が止まっている。
 テムは、その中から比較的長さがある木に近づき、愛用の斧を横に一閃させる。

チュンッ

 目にも止まらぬ速さで振りぬいた斧は、幹に阻まれることもなく通過する。
 テムが、ぽんぽんと空いているほうの手で木の幹を叩くと、木は徐々にかしぎだし、ゆっくりと横倒しになる。
 テムは、ごろんと勢いよく地面に転がった木の先端を斧で切り落とし、次々と余分な枝を削ぎ落として、手際よく長さ10mほどの丸太に仕上げていく。

「凄いですね……」

 アロンは、あっさりと木を切り倒したテムに驚かされる。
 バージやダイザ、キントは、テムの腕前を十分に熟知しているので、今更驚かない。
 しかし、アロンとジルは、テムとは年が離れているため、村ではあまり親しくしておらず、テムが見せた普段とは違う姿に圧倒されてしまう。
 ジョティルも、テムが魔法を使用せずに木を切り倒したことに唖然とする。
 自身の筏作りでは丸2日間の時間を要し、特に丸太を切り出すのには、大変な労力を費やしている。
 それをテムは、いとも簡単にこなし、愛用の斧をリズムを取るようにくるくると回して、次の木を物色していく。

真空刃しんくうは……ですか……」

「ん?」

 ジョティルは、まるで枝を払うかのように幹を根元から切り離していくテムの技を見抜く。
 テムは、ちらりとジョティルを見やるが、特に何も言わない。
 ジョティルの隣に立つバージが、ささやくように言う。

「ジョティル。テムさんは、ああ見えて器用なんだよ」

「……聞こえているぞ、バージ」

 バージは、少し首をすくめて、じろりと睨むテムの視線をかわす。

「それより、バージよ。こいつを下まで運んでくれ」

 テムは、切り出したばかりの丸太を斧でこんこんと叩きながら、旅の疲れもなく、体力が有り余っているバージに言う。

「分かりました。俺なら、もう1本持てますよ」

「そうか。なら、これも持って行ってくれ」

 テムは、そう言い、割と太めの丸太をごんっとバージの方へ蹴飛ばして転がす。
 バージは、宣言通りに2本の丸太を両肩に1本ずつひょいひょいと担ぎ上げ、しっかりとした足取りで崖を降りていく。
 テムは、バージを見送ったあと、新たな木に狙いを定める。
 そして、斧を一閃させ、筏に必要な分の丸太を次々と切り出す作業に取り掛かる。

「テムさん。私は、蔓を探してきます。アロンとジルを使ってください」

 ダイザは、テムにそう言うと、アロンとジルの背中を軽くぽんと叩き、少し前に押し出す。
 ダイザは、蔓を鋼岩属性の魔法で鉄変換し、蔓の強度を大幅に上げることができる。
 ただし、この魔法の難点は、魔法の発動中しか有効とならないことである。
 そのため、航海中はずっと魔法を発動し続け、蔓を強化し続けなければならない。
 テムは、立ち去るダイザに軽く手を上げて応え、仕上げた丸太を若き二人に指し示す。

「アロンとジルは、1本ずつでいいからな」

「「はい」」

 アロンは、出来上がったばかりの丸太を1本担ぎ、同じく丸太を担いだジルとともに、足元を確認しながら崖を降りていく。

「次は、キントとジョティルの番だ。大体、一人三往復は必要だからな」

 テムは、20本ほどの丸太を切り出すつもりである。
 七人全員が乗れる筏を作るには、それぐらいの丸太が必要なのである。
 キントとジョティルは、お互いに顔を見合わせたあと、転がっている丸太を担ぎ上げ、崖下へと運んでいく。
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