ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第25話 筏での海峡横断2

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 テムは、皆が渡るためには、どれぐらいの丸太が必要になるのかと頭の中で計算をし始める。
 だが、ダイザは、テムの工法に指摘する。

「テムさん。それだと、私も向こうへ行かなくてはいけなくなります」

「構わんだろう? 俺は、向こう岸へ渡りたくなったぞ」

 テムは、久しぶりに見たディスガルド北半島の大地を眺め、好奇心に駆られてうずうずしだす。
 ダイザは、そんなテムの様子に軽くため息をつく。
 そして、隣に立つアロンとジルを見る。
 二人も、初めての島外に興奮しているが、荒れ狂う海を前にして、やや気圧されている。
 キントも、不安な表情を浮かべ、楽しげに笑う父親のテムをちらちらと見ている。

「良いのではないか?」

 バージが、ダイザを見て、お前も一緒に渡ればいいと声をかけてくる。
 ジョティルは、あえて口を挟まないように、静かに控えている。

「まぁ、それでもいいが……」

 ダイザは、仕方がないなというように答える。
 ダイザとテムが、向こう岸へ渡った場合、帰りはその二人で戻ってこなくてはならなくなる。
 筏で海を渡るのは、ジョティルの魔方陣魔法がなくとも、ダイザ自身の魔法を駆使すれば問題ない。
 だが、ここでの見送りの方が、アロンやジルとの別れが辛くならずに済みそうなのである。
 しかし、テムは、良い案を思いついたというように、ダイザに提案してくる。

「ダイザよ。俺とサイバジ族の集落まで行き、帰りは飛竜に乗せて貰えばよい。そうすれば、多少遠回りをしても、村へは問題なく帰れる」

「あぁ、テムさん。それは、いい案ですよ。ダイザも、それでいいんじゃないか?」

 バージは、テムの案に乗り、ダイザにもその案に乗るように持ちかける。

「それだと、3、4日遅れるぐらいで済むだろ? 俺は、ここまで来たなら、交易をして帰りたい」

 今回は、キントを国都へ送り出すことが本来の目的である。
 だが、テムの頭の中では、これまでの道中で別の目的が生じてきていた。
 テムは、以前からミショウ村で栽培する野菜に飽きており、そろそろ新しい作物の栽培に挑戦したいと考えていた。
 ここに至るまでの凍土林では、特に珍しい樹木にも遭遇せず、興味の湧く野草にも出会えなかった。
 テムは、手ぶらで帰ることに一抹の寂しさを覚えており、若かりし頃の放浪癖が蘇り始めていた。

「どうだ?」

「そうですね……。アロンとジルの様子では、まだまだ心配です。私も、サイバジ族の集落までついて行ったほうが安心ですね」

 ダイザは、テムの提案を受け入れ、不安にしている二人の息子を勇気づけるように笑う。

「いいの? 父さん?」

「テムさんもついて行くし、私だけ帰るのも申し訳ない。ロナリアたちには、少し悪いが、何か土産でも買って、詫びるとしよう」

「やったぁ! これで、まだ少し一緒にいられるね」

「うんうん。父さんと離れ離れになるのは、寂しいもんね」

 アロンとジルは、喜びの声を出し、キントも安堵の表情を浮かべる。
 バージは、旅の負担が減ることになり、隣のジョティルへにやりと笑う。
 ジョティルは、現金なバージに苦笑を浮かべるが、旅の伴が減らなくて済むのは有り難いことだと、新たな展開に賛意を示す。

「そうなると、筏は大きいほうがいいな。俺が丸太を切り出すから、皆は崖下まで運んでくれ」

 テムは、背負ってきた斧を持ち上げ、軽く振り下ろす。
 ぶんっと小気味の良い風切り音がして、テムの手に愛用の斧がなじむ。
 テムは、普段から木こりをしており、戦闘で使用するのも薪割り用の斧である。
 なお、一般的な斧使いは、戦斧せんぷやバトルアックスと呼ばれる幅広の刃がついた両刃や片刃の斧を用いる。
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